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泉州タオルメーカーの三代目が作る、人にそして、環境にも優しい「生タオル」

新田タオル株式会社(大阪府泉佐野市)

国内生産量の約4割のシェアを誇るタオルの産地泉州地域に「生タオル」の製造に挑戦する新田タオル株式会社はあります。このタオルの開発者は、新田タオル三代目の新田康貴(にった こうき)さん。日本のタオル産業発祥の地で次の世代が生み出すタオルとは。

有機栽培のスピーマを糊を使わずに織る

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タオルを織るために通常行う工程として糊で糸をコーティングします。これは糸の滑りを良くすることで摩擦を軽減させ、糸切れしにくくさせるためです。しかし、このとき使った糊はタオルの吸水性能を妨げるため、最後に洗い流さなければなりません。この洗浄工程で大量の水を加熱するボイラーを動かすためにエネルギーを使い、また洗浄の際に使用したわずかでも汚染水を放流することになります。

この環境への負荷を減らすために、糊を使用せずに織ったのが「ムコタオル」で、新田さんの父であり現社長の輝彦さんが約20年前に開発。文字通り糊を使わない無糊(ムコ)のタオルが完成しました。そして、このムコタオルをさらに発展させるべく挑戦しているのが新田康貴さんです。

ムコタオルと生タオルの違いは、その糸です。
生タオルで使う糸は「スピーマオーガニックコットン」です。テキサス州で栽培された最高級ランクの綿花から作られたもので、繊維が長くしっとりとした感触が特徴です。価格も一般のタオル用の糸と比べて4~5倍も高くなります。

「めちゃめちゃ高いんですわ」と新田さん。

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左右どちらもスピーマオーガニックコットンの糸ですが、天然由来であるため収穫時期が少しでも異なると、上の写真ように糸の色が微妙に違います。この色の違いこそがスピーマオーガニックコットンの証拠です。

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スピーマオーガニックコットンは、刈り取った綿花の状態で圧縮梱包後テキサス州から輸入されます。その後、紡績会社で不純物を除去し縒り(より)をかけて生糸になります。

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縒りを掛ける前の綿は、繊維が揃っているだけの状態。左右に引っ張るとスーッと抜けていきます。

この天然物の糸をまさに「生のまま」織り上げていくのが生タオルです。コーティングをはじめとする加工を何も施していない生の糸はとても繊細で、弱い力で引っ張ってみるとプツプツ切れて行きます。そして、この糸を切らずにタオルにしていくのが、新田タオルの職人の腕の見せどころです。

繊細で切れやすい「面倒な糸」を使って織る技術

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何本もの糸を引っ張って生地にしていく織機では、弱く切れやすい糸だとひんぱんに織機が止まってしまいます。「製織率」とは、どれだけ糸が切れずに機械も止まらずに正常に織りあげることができたかという生産性のことです。この「製織率」を高めるために糸をコーティングして強くするのは作り手として当然のことです。

「織りやすい、というのは僕ら職人にとって『糸が切れにくい』のとほぼ同じ意味です」と新田さん。

しかし、スピーマオーガニックコットンは糊でコーティングしないと糸が切れ、しょっちゅう機械が止まってしまうほど繊細なため「面倒な糸」としてタオルにはあまり使われません。新田さんはまさにその面倒な糸を使って人と環境に優しいタオルを作ることに、あえて挑戦しています。

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タオルに使う糸は織機用の大きな筒に巻き取られます。

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「糸が切れたらすぐに繋がなければなりません。織機のランプが点灯し糸が切れたことを知らせてくれるので、すぐに糸を継ぎにいきます」
と、新田さんの叔父さんが教えてくれました。

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機械はそれぞれ年代が違っていて、それぞれに個性があります。

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「この織機は今、生タオルを織っています。織機の上と下に糸巻きの筒があるという特殊な構造です。一般的な織物だと糸巻きの筒はひとつでいいんですが、タオルはパイルという輪の部分を作らないといけないので糸巻きの筒が二本必要になります。
上の筒の糸はスピーマオーガニックコットンで、下の筒はインドのオーガニックコットン。インドとテキサスの綿を混ぜて作っています。スピーマオーガニックコットンは表面の肌さわりを重視してパイルの部分に、しっかりした織りが求められるベースの部分にはインドのものを、というように使い分けます。スピーマオーガニックコットンのタオルは、糸が繊細なので切れないように回転数を少しだけ落としています」

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「糸自体に強度を持たせずにタオルに織り上げていくのは、織機の設備や機構のどこかに特殊な装置があるとか、人間が行う技のどこかに秘密があるというわけではありません。タオルを作るのは準備段階でほぼ決まってしまっています。例えば、まっすぐに糸を巻いてクロスさせないなど、これまで蓄えられた技術の集積です」

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ロールの機械で生地が織りあがったら、タオルのサイド「ミミ」を縫製する工程へ。
この黄色い機械でタオルの両端を三ツ巻き状態にしていきます。機械が自動で作ると言っても、バラツキが出ないよう監視したり、糸を手で押さえたり、と人がついててあげないといけません。

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タオルの両サイドを編み込んだら、協力いただいている加工工場に「晒し」をお願いすることになります。

化学物質を使うことなく、酵素で精錬する

泉州タオルは、タオルを織った後に晒す「後晒(あとさらし)製法」と呼ばれる方法が伝統的に採用されています。

「晒し」という工程には、糸についた不純物を除去する「精錬」と「漂白」という作業が含まれており、一般的なタオルはこの段階で糸についた糊を落としたり、カラータオルの場合は染めやすくするために色を白くします。

しかし、新田タオルの作る生タオルやムコタオルには糊を使用していないため、この晒し工程で取り除くのは糊ではなく、糸が原料の綿花であった時から含まれていた植物由来の油分です。タオルに含まれる油分を取り除くことでタオルの吸水性を高めます。

植物由来の油分を取り除くので、化学物質を使う必要はなく「酵素精錬」という製法が用いられます。酵素精錬とは酵素が入った樽にタオルを長時間つけることで油や不要物を分解していくため、大量の湯を使用することはありません。

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加工工場から戻ってきたタオルはまだ巻物のように繋がった状態なので、各サイズに切って「ヘム」をつけます。ヘムとは、タオルを横向きに置いたときの左右の縫製部分のことです。

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この機械は自動ヘム機といってヘム付けとネームタグの縫製も同時に行うことができます。

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自動ヘム機から出てきたタオルは、人間の目で糸にほつれがないかなどの検品をした後、出荷前にも針や機械の破片などが残っていないか金属探知機で確かめてタオルが完成します。

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現在試作中の生タオルは3色のカラーヘムが採用予定です。

タオルを使っていただく方の生の声が聞きたい

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新田さんが生タオルに挑戦するきっかけは「もっとボリュームがあり、使う人がすごい幸せを感じるタオルを作りたい」と考えたからです。

「タオルで重視されるのはやはり柔らかさ。展示会でのアンケートでは6割以上の人が『肌触りを重視する』という答えでした。同じ設備でも織り密度を濃くすれば高級感が出せますし、分厚いタオルの方が水を蓄える量が薄いものよりも全然違ってきます。どちらかというと薄めのタオルが多い中で、僕は分厚い泉州タオルというこれまでにない領域にチャレンジしたいと思ったんです」

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「無糊とオーガニックコットン100%の組み合わせで使う人に安心を与えたい。新田タオルは環境に対して配慮した製品づくりを続けてきたので、さらにそれを追求したいと思いました」

生タオルづくりでは調査を兼ねてクラウドファウンディングに参加。赤ちゃんにぜひ使ってみたい、という声が支援者から寄せられました。

「支援者の皆さんは製品を作る僕らの想いに耳を傾けてくれます。共感してくれる人たちとダイレクトに繋がることができて、自分たちが作ったタオルを使ってくださっている人の存在を知って、ものづくりって楽しい、と実感できました」という新田さん。

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「僕の目標はもっとお客様との距離を縮めることです。今まではタオル専門商社さんに卸させてもらっていて、遠方の商店や個人商店など実際にどこで売っているのかがわからなかった。新田のタオルをどんな人がどう思って買ってもらっているのか、使ってもらった感想もわからないんです。
この生タオルはお客様のダイレクトな声を聞けるよう自分で売り場に立って売っていきたいですね」

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思わず触りたくなるこのふわふわなタオルは、阪急うめだ本店催事「日本ものづくり市」(12月26日〜30日)で販売開始となります。
若き三代目が作る、人にも環境にも優しい生タオル。使う人や環境、そして産地のことを想い続ける新田さんの思いにも、ぜひ触れてみてください。

引き算でタオルをつくる
生タオル

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社名:新田タオル株式会社
住所:大阪府泉佐野市中庄290ー1
連絡先:072-462-1353

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