03_前村昇さん

漬物屋が挑戦する「なにわ伝統野菜&鳥飼茄子チップス」

前村食品(大阪府摂津市)

現在の大阪府摂津市、かつて鳥飼村と呼ばれていた地域で栽培されている「鳥飼茄子(とりかいなす)」は、最盛期には60軒以上もの農家がこぞって栽培していたというこの地域の伝統的な野菜でしたが、現在では生産者も数軒に減少しています。そんな希少な鳥飼茄子を次代に受け継ぐため奮闘する漬物屋の前村昇さんをレポートします。

丸くて愛おしい形をした鳥飼茄子の収穫を見学

01_ナスのヨリ

やってきたのは前村食品の圃場(ほじょう)。かつての鳥飼村のど真ん中にあります。江戸時代の摂津国全体をカバーした地図である「新改正摂津国名所旧跡細見大絵図」の「名物名産略記」にも「鳥飼茄子」という記載があり、その頃からすでに広く人々に名産として食べられていたことがわかっています。

概ね100年以上前から大阪府内で栽培されており、苗・種子等の来歴が明らかに大阪独自の品種・品目であり、栽培に供する菌・種子等の確保が可能な野菜として、鳥飼茄子は、守口大根、金時人参、天王寺蕪(かぶら)などとともに「なにわの伝統野菜」に認められています。

24_記念写真

前村昇さんとお母さん。鳥飼茄子を栽培していますが、農家ではなく漬物メーカーの代表です。

02_なすの圃場

おじゃましたのは9月上旬。他の茄子と同様に暖かくなってきた4月ごろに苗を植え付け、夏から秋の入り口にかけて収穫します。

この地域が鳥飼茄子の栽培地として適している理由は、沼地っぽい土質だからです。鳥飼は田んぼの「ドタ(地元の言葉で沼地のような土の田のこと)ばかりです。砂地じゃなくて水気の多い土の場所で鳥飼茄子は育つんですよ」と前村さんが教えてくれました。

04_収穫前の鳥飼なす

鳥飼茄子は緻密な食味と肉感がありしっかりした歯ごたえが特徴。噛むと茄子の濃密なエキスがジュワッと口の中に広がります。

収穫適期の目安はにぎりこぶしサイズの大きさ。やや下膨れの姿がなんだか愛おしく感じます。最盛期には一日に約100~150個。一番暑い時期には日の出と同時に畑に入って収穫します。

05_収穫作業

「どうしても使わなければならない時にだけ農薬を使うと決めています」

06_ソルゴー

この圃場の周りに生えている草は、ただの雑草ではありません。虫除けと風除けのための草でイネ科の一年草で「ソルゴー」といって、トウモロコシの一種で黒い高いふさがあるのが特徴です。ウイルスや病気を運んでくるアブラムシの天敵の生き物をおびき寄せ、その生き物がアブラムシを駆除するという役割があります。

07_前村さんの作業

前村さんは一人でこの圃場を管理しています。暑い時期の収穫はもちろん、何といっても一番大変な作業が剪定です。実が大きくなりはじめた頃から、葉や茎が鳥飼茄子の実にあたって傷つかないように、剪定する必要があります。傷がついたところがかさぶたになってしまうため、作業はほぼ毎日行わなければなりません。

漬物屋なのに、鳥飼茄子を作ることになったきっかけ

08_なすイメージ

大学は経済学部で漬物の製造などとは全然関係なく、就職活動の時期に初めて家業の漬物屋を継ぐことを意識した、という前村さん。

「父と話をして前村食品を継ぐことを決めましたが、『うちに直接来てもダメだから』ということで東京に就職しました。外を見てこい、ということですね」

前村さんは学校を卒業後、東京の大手の漬物メーカーに勤務しました。
「大きな会社で、ほとんどの原料は海外製品でした。当時は、原料と人材が安価な東南アジアの現地に新しい工場を作るプロジェクトに携わっていました」

09_圃場イメージ

一年後にメーカーを退社し前村食品に戻った前村さんの担当は、スーパーをはじめとする外回りの営業でした。

「当時はスーパーへの卸がとても厳しい時期で、前村食品のような個人商店では、規模の差で大きな業者に価格競争では勝てないんです、うちが値引きしても競争になって、そのうちに原価割れしてしまいます。大量に作ればペイするかもしれないけど、そこに競争で他で戦えるものないかな、という時に鳥飼茄子に出会って漬物にすることにしたんです。

しかし、その鳥飼茄子自体がなかなか手に入らない。それならいっそ自分で作ってやろうと決心しました。農業を学んだのはぶっつけ本番です。農家の方の指導のもと、一年目は小さい区画で試験的に20本ほど植えてみました。土づくりといっても初めの年は肥料をあげたくらいです。それでもそこそこ収穫できたので、次の年からは現在の大きい区画で作るようになりました」

やがて漬物の原料が確保が可能となり、今の主力商品となった鳥飼茄子の丸漬けも安定的に作ることができるになりました。

傷がつかなかった鳥飼茄子は、生食用として出荷しますが、田楽や焼き茄子、麻婆茄子でもおいしく食べていただけます。でも、やっぱり歯ごたえや甘くて緻密な味わいが楽しめるお漬物をおすすめします」

これまでに農業と縁のなかった前村さんは、栽培を通して鳥飼茄子への愛情をもっと深めていくことになります。

母と息子による鳥飼茄子の丸漬けづくり

10_丸漬け

収穫した鳥飼茄子を丸ごと塩漬けし、リンゴ酢やワインなどの調味液で漬けて味を整えた鳥飼茄子の丸漬けは「私が茄子だ」という圧倒的な存在感。

「まるまる使える鳥飼茄子というのは貴重なんです。きれいな状態のまま育てるのは、とても手間がかかりますが、この丸漬けを作りたいがために自分で鳥飼茄子を作っていると言っても過言ではありません」

16_ナスを切る

漬物などの加工作業は、圃場の隣の建物で行います。
作業は前村さんとお母さんが分担。朝早くに収穫し、近くの生産者から届けられた鳥飼茄子も合わせて、漬物をはじめとする加工品を生産します。

12_洗浄したなす

洗浄してヘタは取らずに姿のまま塩漬け。塩の粒が見えなくなりまんべんなく表面全体に行き渡ったら、2日間冷蔵庫で漬け込む。鳥飼茄子の素材としての良さを生かすため、漬物の味つけはできるだけシンプルにしておきます。

13_洗浄する前村さん

14_塩をふる

心を込めて育てた鳥飼茄子だから

18_傷物のなす

丸漬けになれなずに少しだけ傷のついたものや色の薄いものは、その部分だけ除去して加工品の原料になります。

「せっかく作ったのにもったいないな、とずっと考えていました。茄子を小さく切って加工食品を作ることに挑戦しました。本当は色も紫のいい状態の物だけ収穫できればいいですけど、傷ものはどうしても発生してしまいます。傷やかさぶたをとってしまえば味はまったく変わらないのだから、加工食品にすれば捨てる茄子をゼロにできる。作った茄子を捨てるのは本当にもったいないから」

17_ナスを切る2

19_なすの切ったやつ

はじめて加工品に初挑戦したのは鳥飼茄子のミンチカツ。
マルシェイベントでお隣に出店していた、伝統野菜のコロッケを作っていたお店に加工を依頼することにしました。

「鳥飼茄子のミンチカツは油と牛肉と茄子の相性がとても良く本当においしかったので、商品化することに決定しました」

20_なすへの挑戦

その後も、鳥飼茄子の商品化のチャレンジは続きます。

「どら焼きに味噌汁、続いてちまき、そしてジャム、飴ちゃんにババロア、春巻き。毎年加工品を作っています。

そして、今年挑戦しているのがなにわの伝統野菜と鳥飼茄子のチップスです。チップスの構想につながったのは、大阪産(おおさかもん)の展示会。真空減圧フライヤーを食品加工を行っておられる開田さんとの出会い。しかし、製造ロット数の問題で最初は諦めていました。こちらにも売り切るだけの力がないので、廃棄するリスクが増えてしまいます。廃棄を減らすために加工したはずなのに、と思うと実行に踏み切れませんでした」

21_チップス

「次にお会いした時に『加工技術が向上しました』という話を聞くことができました。保存方法や加工処理を改善して、チップスの賞味期限も伸びた。ぜひ作ろう!となりました」

「できあがったサンプルの試食で『ちょっとアクがあって雑味があるね』という意見をもらいましたから、茄子を揚げる前に水につけるなどの対応策を検討中です」と新商品の完成に向けて元気に答える前村さん。

現在はなにわ伝統野菜のバリエーションを増やすため、生産者さんを紹介してもらったり、お土産用としてのパッケージを検討中です。

22_なすイメージ

前村さんによると鳥飼茄子が生き残るためにクリアしないといけない課題は二つあるといいます。

「一つ目は後継者問題。鳥飼茄子を作っている生産者の中では、僕が若手の方でそれでも51歳です。伝統的な鳥飼茄子を残すために、作ることで生涯食っていけるというシステムを作ること。それで若い人たちもやっと目を向けてくれると思う。次に土地の確保も課題ですね。鳥飼茄子の再生には地域への働きかけも必要です」という前村さん。

「摂津市農業振興会が市内にある小学校3年生の食育で鳥飼茄子の植え付けの栽培体験をしてもらっています。学校で植え付けから収穫までやってもらって僕は植え付け担当です。その後もなかなか毎日といわけにはいきませんが、たまに学校に行ってチェックして剪定や枝接ぎをお手伝いしています。少し時間がかかりますが、彼らが鳥飼茄子をおいしいって思ってくれる日を楽しみにしています」と笑顔で語ってくれました。

伝統野菜の再生に向けた前村さんの果敢な挑戦はまだまだ続きます。
前村さんの思いがぎゅっと凝縮されたなにわ伝統野菜と鳥飼茄子のチップスをぜひ食べてみてください。

なにわ伝統野菜100%使用した野菜チップス
OSAKA VEGGIE CHIPS

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詳しくはこちら

社名:前村食品
住所:大阪府摂津市鳥飼上3-1-15
連絡先:072-661-2950

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大阪のものづくり企業や生産者などの作り手が持つ技や伝統、そして想いを、商品としてユーザーに届けるサポートを行う事業です。大阪から全国に発信することを目的に、東京ギフトショーへの出展やマッチング、情報発信を行っていきます。 公益財団法人大阪産業局が大阪府の協力を得て実施しています。