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Vol.25「グリーフケア」

グリーフワーク

愛する家族を喪った家族は、悲しみに襲われます。これは特別なことでも病気でもなく、自然なことです。この悲しみは、悲しむことにより自然に治癒されていきます。
この、遺族の悲しみの営みを「グリーフワーク」と呼びます。

日本では、2005年に起きた福知山線脱線事故をきっかけに、一般に知られるようになりました。遺族に対する精神的ケアの一環として、継続的なグリーフケアが行われたのです。

グリーフケアとは「悲しみのケア」。
最愛の家族を亡くし、悲しみに暮れる遺族に対するケアのことです。
心理カウンセリング的なイメージがありますが、悲しみのプロセスや家族、遺族の心のケアについては、葬儀の時、一番近くにいる葬儀従事者にとって、知っておくべき知識の一つです。

泣き女

かつて日本には「泣き女」という職業が存在していたそうです。
お葬式の時に雇われて号泣する仕事で、現代でも朝鮮半島や中国、台湾などで見ることができます。遺族に代わって悲しみを表現することで、社会がその悲しみを共有する。悲しみから抜け出すためには、十分に悲しむことが大切なのです。
大切な人を失った悲しみは、心が大ケガをしたような状態で、それは自然に治癒の方向に向かいます。死別を経験した遺族もやがて、故人のいない環境に適応し、新しい関係を作っていきます。この「悲嘆のプロセス」がグリーフワークであり、それを支えて見守るのがグリーフケアです。
故人の死を受け容れるきっかけとなる葬儀は、それ自体がグリーフケアの一つとなることを認識しておかなければなりません。

悲嘆のプロセス

悲嘆は時間の経過とともに変化していきます。「日にち薬」という言葉があるように、時間が経過していく中で少しずつ変化していきます。
1959年に来日し、日本に初めて「死への準備教育」の必要性を説いたA.デーケンは、「この辛い12の段階を誰かが代わって行うことはできない。自分の中で時間をかけて消化するより仕方がない」と説きました。

1段階 精神的打撃と麻痺状態
愛する人の死という衝撃によって、一時的に現実感覚が麻痺状態になります。頭が真っ白になり、落ち込みます。

2段階 否認
感情、理性ともに相手の死という事実を否定します。「あの人が死ぬわけがない。きっと何かの間違いだ」

3段階 パニック
身近な死に直面した恐怖による極度のパニックを起こします。悲嘆のプロセスの初期に顕著な現象です。なるべく早く抜け出すことが望ましく、これを未然に防ぐのがグリーフケアの大切な目標です。

4段階 怒りと不当感
不当な苦しみを負わされたという感情から、強い怒りを感じます。
「私だけがなぜこんな目に…」

5段階 敵意とうらみ(ルサンチマン)
周囲の人や亡くなった人に対して、敵意という形でやり場のない感情をぶつけます。

6段階 罪意識
悲嘆の行為を代表する反応です。「こんなことになるなら、生きているうちにもっとしてあげればよかった」

7段階 空想形成、幻想
空想の中で故人がまだ生きていると思い込み、実生活でもそのように振る舞います。

8段階 孤独感と憂鬱
葬儀などが一段落し、落ち着いてくると、紛らわしようのない寂しさが襲ってきます。健全な悲嘆のプロセスですが、早く乗り越えようとする努力と、周囲の援助が大切です。

9段階 精神的混乱と無関心(アパシー)
日々の生活目標を失った空虚さから、どうしたらいいかわからなくなり、あらゆることに関心を失います。

10段階 あきらめ---受容
日本語の「あきらめる」には、「明らかにする」という意味があり、この段階になると、愛する人はこの世にはいないという現実を「明らか」に見つめて、相手の死を受け入れようとする努力がはじまります。

11段階 新しい希望
ユーモアと笑いが再びよみがえってきて、次の新しい生活への一歩を踏み出そうという希望が生まれます。健康的な日常を取り戻し、愛する人の死を現実の生活から切り離すことができるようになります。

12段階 立ち直りの段階
悲嘆のプロセスを乗り越えるというのは、愛する人を失う以前の自分に戻ることではなく、苦痛に満ちた喪失体験を通じて新しいアイデンティティを獲得することを意味しています。悲しみを乗り越え、より成熟した人間へと成長します。

この段階の内容には個人差があり、必ずしも段階通りに悲嘆を体験するわけではなく、順序が入れ替わったり、段階を飛ばしたり、複数の段階が重なって現れることもあり、だいたい立ち直るまでに一年くらいかかると言われています。

グリーフケア

グリーフケアは、遺族の複雑で深刻な心の状態を理解して寄り添うことで、回復のサポートをする取り組みです。死別した遺族は、やがて大きな衝撃から立ち直って自分の日常を取り戻し、新しい人生を切り開きます。ただ、すぐに立ち直るわけではなく、さまざまな段階を行ったり来たりしながら時間をかけて、徐々に回復していきます。ケアする人も遺族自身も、時間をかける必要があることを知った上で、焦ることなく立ち直っていくことが必要です。

死別の悲しみを癒すには、何度も話をすることからはじまります。
「話す」は「放つ」=心を解き放つが語源と言われています。用件を話す前にワンクッション、相手を気遣う会話をはさむ。仕事だけの話で終わらないように、遺族の話に耳を傾けてください。

私たちにできるグリーフケア

まずは話をたくさん聞いてあげること。うまく会話に応える必要はありません。話に相づちを打つだけでも十分です。故人に対する想いのなかに、サービスのヒントが見つかるかも知れません。

「忘れろ」「がんばれ」「しっかりしろ」は避ける。
悲しみの中にある人に、悲しい事実を忘れることを強いるのは一般的にマイナスになります。悲しい事実を見つめる方が大切です。「がんばれ」「しっかりしろ」は励ましのつもりでも、悲しみにある人にはかえって負担が大きいときがあります。「これ以上がんばれない」「心の痛手を理解してくれない」と孤立感を抱くこともあります。激励ではなく、悲しみの状態を理解し、心に寄り添うことが必要です。悲しみや寂しさは打ち消したり乗り越えたりするものではなく、付き合っていくものなのです。

私たちにできること。

グリーフケアは「このようにする」という正しい方法があるわけではありません。傷ついた心を癒やす効果があるといわれるものを称して「グリーフケア」と呼んでいます。

通夜や葬儀の時、故人についてたくさんの人と話す。手紙を書く。故人との思い出の音楽を流す。思い出の写真を飾る。好きだったものを供える。
「時間が解決してくれる」のなら、四十九日や一周忌などの法事は、心に区切りをつける行事となります。遺品整理もグリーフワークにつながります。

グリーフケアにつながる様々な提案。

葬祭業が「究極のサービス業」と言われる由縁は、やってあげられることが、無限にあるということです。経験や知識が少ないうちは難しいかも知れませんが、やってあげたいという思いはとても大切です。やってあげたい思いこそ、「思いやり」です。
家族葬が増えたことで、遺族はますます葬儀屋さんを頼るようになりました。頼りになる、思いやりを持った葬儀屋さんになりましょう。

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イラスト きむら

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