お見送りと振り返り
友人とランチを終える。
私は休日だが友人はお昼休憩の最中だったので交差点で別れた。
片側3車線の中央分離帯も無い都心の広い十字路だ。
この後私は交差点に歩き出し買い物へ、友人は回れ右して職場へ戻る。
交差点半ばで点滅を始めた青信号に急かされ渡りきったところで後ろを振り返ると友人がまだいた。いてくれた。いいやつだな。
振り返った私を認め友人が私に向けて手を振ってくれる。少し気恥ずかしいので友人より少し小さく振り返す。
手を振り返して数歩進んだ後にもう一度振り返ると、踵を返し職場へ向かう友人が雑踏の中に辛うじて見えた。
そこで完全に私たちは別れた。ことになったと思った。
交差点を渡りきるまでお見送りをしてくれ、振り返ると手を振ってくれた友人。
彼が手を振ったのは私をお見送りしてくれていたからだ。
私が振り返ったから友人は私に手を振り、私は手を振り返した。
つまり私が交差点へ踏み出すと同時に友人が職場へ足を向けていたら手を振る機会は訪れなかったし、私が振り返らなければ友人が私に手を振る機会は発生しなかった。
幾つかの条件が重なったから手を振り合うに至ったという事実に気付いた時、この日のランチの楽しさに少しだけ特別さが足された。
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