『滋養』

今日は水深2000m
ビニルハウスの横面に
真っ暗寒流吹きつける
当てて土壌を洗うのだ、と
父の言葉を思い出す
かつて
輝く星のあった、という上空へ
開くウミヤシの葉
いまだインディゴに透け光合成を待っている
落葉拾い
塩味えんみ染みたおひたしにするぞ
滋養を取らなくては

今日は水深2000m
ビニルハウスの天井に
同胞の死骸白く降り積もる
優れた肥やしになるのだ、と
母の言葉を思い出す
かつて
水温のあった頃
母の白くなる前の
小指の丈の苗だったウミヤシ
来夏屋根突き破り実をつける
収穫し
甘く香るマーガリンにするぞ
滋養を取らなくては

今日は水深2000m
ビニルハウスの戸を開けて
縮んだ手足をバタつかせ
最寄りの火山まで漂って
重力の失せた山頂で
噴出する火石流に合わせて
高祖母の黒い櫛を振って
ありがとう
ありがとう
砕け散った同胞
漉し取って
渋く悲しいパンを作るぞ
また明日も
滋養を取らなくては



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