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『あらわれた世界』№15

会館の小野さんは未婚だった。この世界の小野さんは、シャドウの小野さんを嫌がるでもなく、快く自分の影を見せてくれた。夏の日差しで影が見えないのかと思っていたが、よく見ると小野さんには影が無かった。

「君はそれでよく存在しているね」

シャドウが苦笑いすると、小野さんはにっこりと笑い「だから君が来てくれた」と背中を見せた。その瞬間、シャドウはスゥッと地面に吸い込まれるように小野さんの影になった。

これまで自由に動けていたシャドウは、急に不自由になり、とてつもない窮屈さを感じたが、影を取り戻した小野さんには生気がみなぎり、シャドウはあてもなく彷徨う必要が無くなり、お互いがお互いを補完した。

2人の小野さんが会館で統合すると、とある冥廷に繋がる古井戸の蓋がボンッと持ち上がった。2人はまだ気づいていなかったが、冥廷にはオシリスが召喚されていた。今日も緑の水に浸かっていたオシリスは困惑したが、誰もいない廃墟の冥廷を見るなり冷静になり、緑の水を拭き取りながら白い布を腰に巻きつけた。小野さんが保管していた人名録や針の山の残骸を眺めて、なにやらフムフムと勉強を始めた。

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