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『イワノキツネ』第2部 №20(完結)


地味ながらも、毎回それなりに近所の人達が集まる商店街の賑わいを見た猫さんは、なんでもお金にしたがる商店街のおやじを好きになれないのは変わらなかったが、誰よりもおキツネ様や白ヘビ様の功徳を信じ、なんとかして廃れゆく商店街を活気づけたいという、おやじの素朴な気持ちからの行動なのかもしれないと思えるようになった。

珍しく深遠な目で、商店街のおやじを眺める猫さんを見て、チョビヒゲ猫は、今回の旅を経験した猫さんは、少し成長したように感じた。最初からなんのアテもないメチャクチャな旅だったけれど、猫さんの成長には必要なプロセスだったのかもしれないと思った。

小野さんは、ドローンの映像も含めて、今回の旅の成果を自分なりにまとめると言い、白ヘビ様のお祭り以降、しばらく会館に顔を見せなかった。

いつもの日常が続き、旅の記憶も薄れつつある頃、お偉いさんが暇つぶしに見ていたテレビの怪奇動画特集で、"夕の海を渡るUMA"として、ワニに乗った小野さんの動画が流れていた。お偉いさんは、たまに来る青年に似てるなぁと笑っていたが、猫さんとチョビヒゲ猫は、真剣に聞こえないフリをした。

黒塚の白ヘビ探索の報告書と、淡路島の岩について内容をまとめた小野さんは、大狐に約束していた那須の地獄谷に"その後の殺生石"として、割れた岩はそのままに、丁重に供養して、新しい案内看板を設置してはどうかと提案した。

小野さんの式神である白狐達は、大狐はもっと自由に出入りできる柔軟な依代を探しており、自分の体を許容出来なくなって割れた岩に、もう戻ることは無いだろうと噂していたが、小野さんは、一応いつ戻っても良いように、整備だけはしておこうと県に働きかけた。

沙弥島で9尾の狐が話していた鶴と白い石の話は、せっかくだからと、博物館に社会見学で集まった子供たちに話を聞かせ、皆で簡易的な紙芝居を制作して、博物館の昔話・物語コーナーに置くことにした。

小野さんはひととおりのライフワークを終え、晴れ晴れとした表情で自治会館に現れた。猫さんが相変わらず自治会館の床に素敵な結晶を置きっぱなしにしていると、不意な訪問者にまた大事な品を持ち去られるからと、素敵な結晶に金具と紐をつけて、ネックレスまで作ってくれた。

猫さんは嬉しくて、しばらくは機嫌良く身に着けていたが、パントリーで可愛い空き箱を見つけると、ネックレスを収納して、会館の高い位置にある神様を飾る棚に置いておくことにした。

大狐がくれた貴重な白い石を、脱皮したての皮膚にくっつけて意図せず持ち去り、なぜか大狐の祠に祀られる稀有な経緯を辿った白ヘビ様は、祭りを終えると再びジャパンスネークセンターへと戻った。

センターでは、木の枝を組んで白ヘビ様と白い石に小さな祠を作ってくれた。その可愛らしい写真を見ながら、自分が大事にしている物は、ちゃんと保管して大切に扱おうと、改めて思う猫さんだった。



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