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『あらわれた世界』№16

「冥廷の裁判官は3人必要です」

白袴の篁公はうやうやしくオシリスに説明する。

オシリスは冥廷の人名録をめくったり、錆びついた針の山の棘を踏んだり、崩壊寸前の門を仰いだりした。廃墟を歩き回るうちに、オシリスの胸に身に覚えのない郷愁の念が込み上げ、なぜか涙が出てきた。そしてオシリスは、この涙さえも初めてでは無いような、強烈な既視感に襲われた。

篁公は、感傷に浸るオシリスを深遠な眼差しで眺めている。オシリスは未来の小野さんであり、小野さんはかつてのオシリスであることを、篁公は知っていた。オシリスと小野さんは似ても似つかないが、篁公にはどちらも深い血縁に見えた。

この世で唯一、冥廷という特殊な組織を運営出来る逸材ながら、オシリスの佇まいはやはり神々しく、篁公はオシリスならこの冥廷を再興出来ると確信する。

すると、どこかでギギギ…と異界の井戸蓋が開く音がして、暗闇から爆速でメジェドが、次に影と一体化した小野さんが猫さんとチョビヒゲ猫を連れて冥廷に現れた。メジェドは現れるなりすぐさまオシリスを守護した。小野さんは、冥廷にオシリスを見つけると、大きく頷き、バツが悪そうに白袴の篁公に会釈する。

篁公は、影と統合を果たし、少し雰囲気の変わった小野さんを労った。猫さんとチョビヒゲ猫は久しぶりに見る篁公に興味津々で、白袴の裾で遊んでいたが、全身緑色のオシリスを見つけると、その異質な存在感に釘付けになった。

小野さんはハハハと笑うと、これで冥廷の面子が揃ったと、猫さんとチョビヒゲ猫を゙抱き上げ、冥廷に立つオシリスに謁見した。猫さんとチョビヒゲ猫は、オシリスの側をウロウロすると、なぜだか安心して遠い異国の故郷にいるような、ずっと昔から馴染みがあるような、言い知れぬ懐かしい気持ちに包まれた。


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