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『あらわれた世界』№13

オシリスは緑色の水に浸り、深い疲れを癒やしていた。静かに目を閉じていると、日々の凄惨な審判に対する罪悪感を一時忘れることが出来た。

すると、背後で何かが激しくぶつかったような、凄まじい爆音がした。オシリスに付き従っていたメジェドが、石柱の陰から飛び出し、音がした方へ強烈なビームを浴びせると、石柱に食い込んだ金属の塊から、ゴロゴロと小野さんが転がり出た。

オシリスは慌てる様子もなく、後ろの様子も見ずに緑色の水に肩まで沈んでいる。メジェドが小野さんにとどめを刺そうと高く舞い上がった瞬間、オシリスは緑色の水から上がった。メジェドはすぐさま攻撃を止め、全裸のオシリスを守護した。

熱砂の中にほおり出された小野さんは、砂を沢山食べてしまい、苦しそうにゲホゲホと咳き込んだ。全裸のオシリスは、苦しそうな小野さんを見て、メジェドをたしなめながら小野さんに近づいた。

小野さんは古代の言葉で、自分に近づいてはいけないととっさに伝えるも、オシリスはお構いなしに小野さんに触れ、背中を優しく擦った。小野さんは、オシリスの優しさと自分の不甲斐なさに、思わずむせび泣いた。

砂をすべて吐き、オシリスに運ばれた果物を頂き、少し落ち着いた小野さんは、オシリス神は自分の前世かもしれないと話すと、オシリスは大笑いした。この世界には、ただ命の循環があるだけで、オシリスはオシリス神としてのみ存在し、再生するため、自分が君になることはないと笑いながら諭された。

こんな古代に来てまでも居場所の無さを感じた小野さんは、ぎゅっと砂を掴むと、苛立ち紛れにバッと空へ投げつけた。危険を察知したメジェドが飛び上がるも、オシリスに阻まれ攻撃は阻止された。小野さんは、砂に突っ伏して熱い砂に顔を埋めた。

とはいえ、オシリスが小野さんに既視感を覚えているのは確かで、以前丸い球体で海に現れた人物であることも覚えていた。しかし、小野さんの話は、オシリスの世界にはまだ存在しない概念のためか、どうしても理解出来ないようだった。

共感を諦めた小野さんは、かえって気が楽になり、自分が影の存在で、戻りたい世界には既にもう1人の自分がいて、帰るところがないとオシリスに話すと、オシリスは真剣に聞き入り、存在に余剰があるとは素晴らしいことだと褒めた。

「この世界は余りがあるから存在する」

オシリスは、君がその人物の影であるなら、その人物の影を踏めば良いと助言した。砂に突っ伏していた小野さんがそうか!と起き上がると、小野さんは、かつて猫さんの住んでいた下宿の跡地に寝そべっていた。

地面には球体を発生させる為の円が描かれおり、側にある駐輪場にはいつもの原付が停まっていた。すると、突然目の前の空間が裂け、暗闇の空間から眩い光とともに、輝く丸い球体が現れた。


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