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『イワノキツネ』第2部 №12

悩みを聞く石はとうとうショックに耐えかねて、バリンと音をたてて割れてしまった。石の中からポロリとこぼれ落ちた結晶を、思わず猫さんが拾い上げると、それはキラキラと海の色を反射させて、とても美しかった。しかし、猫さんがいくら問いかけても、結晶は返事をすることはなかった。

ドローンの動作確認を終えた小野さんは、猫さんの元に戻り、改めてスマホで映像を確認してみることにした。チョビヒゲ猫は疲れたのか、高台の窪地ですっかり眠りこけていた。猫さんは小野さんに悩みを聞く石の結晶を見せると、太陽に結晶をかざして、いい結晶じゃないかと評価した。

ドローンが撮影した映像には奇妙なものばかり写っていた。最初の何分かは、小野さん達が見に行けない方角の風景が延々と映し出されていたが、しばらくすると画像が乱れて、映像がフリーズした。その後も何枚かフリーズした画像が続いたが、なぜかすべてが盆踊りの映像だった。ドローンは全国各地の盆踊り会場を撮影しており、意図せず転々とワープしているようだった。

「…飛ばした時期が悪かった…」

小野さんは撃沈していた。お盆に入り、地獄の釜の蓋が開くと、冥界から故郷へ帰る御霊や、全国各地で開催された盆踊りで冥界の磁場が乱れて、ドローンが混乱し目的地を見失い、しまいには海へ墜落したようだった。

小野さんはフリーズした画像を倍速で見てゆくも、残された映像は、ほぼすべて盆踊りだった。小野さんはすっかり肩を落として、画面を見ずにコマ送りしていたが、猫さんが何かに気づいた。

「これはなんですか?」

小野さんが面倒くさそうに顔をあげると、写っていたのは、海へ向かって1列に並ぶ人間の姿をした石像群だった。

「…モアイだね…」

「もあい」

小野さんは、突然気を取り直したのか映像にかじりつくと、細かく画像を確認し始める。そして猫さんに、とある風景を見せた。それは今まさに目の前に広がる、海に刺さった奇岩と同じ風景、少し形は違うけれど、同じような配置で海に刺さる岩が写っていた。…しかし、残念ながら猫さんの見た風景は、映し出されたドローンの映像でもなかった。小野さんはまぁそうだろうとうなずくと、全くその映像には執着しない様子で、冥界ドローンをテキパキと折りたたんだ。

高台の窪地でスヤスヤと寝ていたチョビヒゲ猫がふと目を覚ますと、浜辺で休んでいた大狐の姿がない。慌てて起き上がり周りを見渡すと、大狐は崖の向こうにある島の山へと飛んで行く。チョビヒゲ猫は大狐がいなくては自治会館に帰れなくなると、大狐の向かった島の山へと全速力で駆け出した。





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