『悩ましい世』№1
小野さんは複雑だった。
閻魔大王の帰還により、冥廷は大盛況だ。篁公もメキメキ復活を遂げる冥廷に感銘を受けている。
彼らは実にイキイキと、幸せそうだ。
小野さんは、正直つまらなかった。
基本的な裁きの段取りは変わらないが、針の山の先は丸くなり、血の池地獄はピンク色、釜のお湯はぬるくなり、鬼は棒の代わりにタオルを持っている。せっかく今の世にあった、皆に優しい冥廷になったというのに。
冥廷の手伝いに飽きた猫さんは、久しぶりに防災倉庫に遊びに行った。防災倉庫はカビだらけで、ちょうど中の物を入れ替えている最中だった。猫さんはウロウロしながらお手伝いをすると、倉庫から、不思議な形を゙した古い木の枝が出てきた。猫さんがそれを気に入ると、お駄賃に頂けたので、上機嫌で咥えて会館へ持ち帰った。
責任感の強いチョビヒゲ猫は、冥廷に通い詰めていたが、さすがに疲れたのか、会館でグッタリしている。お偉いさんは本業が忙しく、しばらく会館には来れないようで、代わりに小野さんが会館の管理をしている。
小野さんは会館で1人、考えていた。
自分は幼い頃から冥廷に住んでいたので、なんの違和感も持っていなかったが、あの世界は他人にしてみれば地獄で、よく考えると、皆が忌み嫌う場所なのだ。昔のように厳しい世界では人々は浮かばれず、小野さんが懐かしく想う世界は、人々が望んでいない世界なのだと…
猫さんが不思議な形の木の枝を持ち帰ると、小野さんのシャドウが異常にその枝に反応した。猫さんはにぶいので、何も感じなかったが、シャドウは、自分を弱めるだのなんだのと喚いている。猫さんが小野さんにその枝を見せると、小野さんはフムフムと眺めて、深く頷いた。猫さんはその枝を気に入っているので、あげたくないと言うと、小野さんは、誰も取らないよと笑った。
チョビヒゲ猫は眠りながら、なんとか激務の冥廷に行かなくて良い方法はないものかと考えていた。チョビヒゲ猫は、自分の生真面目な性格と折り合いをつけられず、それは時にチョビヒゲ猫自身を苦しめた。