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『あらわれた世界』№2

チョビヒゲ猫は、また夜中に猫さんが豹変するのではないかと、寝れない日々が続いた。今日もやはり眠れないので、用もないのにパントリーをウロウロと徘徊する。ラッキーにも暗闇の床に落ちていた2、3粒のカリカリにありつくも、やっぱりまだ眠れそうにない。居間に戻ったチョビヒゲ猫は、ヒトの気も知らず、スヤスヤと大人しく眠っている呑気な猫さんを覗き込む。

チョビヒゲ猫は、自分がまだお札だった頃を思い出すと、胸が締めつけられる想いがした。自分は一体いつから猫さんと一緒にいるのだろう。沢山の旅をして、色んな経験をしているうちに、気がつけば猫さんは猫ショウ様になってたんだっけ…

チョビヒゲ猫と猫さんは、ある時期に期せずしてはぐれ、長い長い間、離れ離れになり、ある時偶然に奇跡的な再会を果たすと、不思議な事に猫さんの尻尾は既に1本に戻っていたのだった…

チョビヒゲ猫が寝ている猫さんの尻尾を見ると、猫さんは居心地が悪いのか、ウニャアと大きく寝返りをうった。

「まぁ、アダルトキャットってとこかな」

今朝は紅茶をすすりながら、小野さんは優雅に見解を述べる。最近は朝が早いようで、出勤途中に会館へ立ち寄り、猫さん達と朝食を食べるようになっていた。小野さんの朝食は、大体コンビニのスイーツで、血糖値がどうのこうのと言いながら、いつも美味しそうに食べている。

小野さんはおもむろにカバンから1冊の本を取り出すと、図解された内容を見せながら、人間には社会生活を営む上で必要な、ペルソナと呼ばれる心の仮面を持つ場合があることや、少し複雑なアダルトチルドレンの特性について、猫さん達に教えてくれた。

「…確かに…猫さんが会館に戻った途端に野良猫達が押し寄せたりするなぁ…」

チョビヒゲ猫は、はたから猫さんを見ていて、小野さんの言うアダルトチルドレンに該当する現象が、これまでに何度も起きている事に驚いた。小野さんは時計を気にしながら、人間の本で良かったら参考にしてと、大きな本を会館に置いていった。

猫さんが小野さんの紅茶カップをパントリーで洗っている間、チョビヒゲ猫は恐る恐る小野さんの大きな本を開いてみる。人間の文字は何一つわからなかったが、とあるページでふと手が止まる。

そこには、人間の中に人間が入れ子のように何層も重なっている絵が描いてあった。妙にその絵が気になるチョビヒゲ猫は、何度もそのページをフミフミする。ページが肉球でぐしゃぐしゃになると、すっかり満足したチョビヒゲ猫は、小野さんの本から離れ、会館の庭に駆けていった。





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