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『イワノキツネ』№6

猫さんは、足りなくなった備蓄食料の買い出しでいつも通る駐車場の片隅に、ふと小さな祠があることに気づく。

「こんなところにこんな物あったっけ?」

猫さんが気になって見に行くと、祠は朱塗りの陶器で出来ていて、中は空だった。猫さんが一匹なんとか入る程の大きさで、あの本数のおキツネ様が入るにはちょっと小さすぎる祠だった。

「それ、地面から外せなくてね。」

駐車場を管理している自動車整備工場の若頭がやって来た。猫さんは買い出しでよくここを通るので、お馴染みだった。

「ひい爺さんの代からあるんだけど、引き継いだ爺さんがコンクリートで側をガッチリ固めちゃって、外れないんだよ。一応神様の祠だから壊す訳にもいかなくてね。」

猫さんは陶器の祠なら燃やされることは無さそうだと思ったが、やはりサイズがあのおキツネ様には小さすぎる。いい機会なので、事の一部始終を若頭に話すと、それは多分最近話題になっていた有名なキツネの霊獣だろうと教えてくれた。

そして猫さんの言うとおり、その規模のキツネにはこの祠は窮屈だろうと意見が一致する。几帳面な若頭は、屋敷神が鎮座せず、ずっとお社だけが残っている事に違和感を抱いていて、何とかしたいと思っていた。

そこで猫さんは、急いで防災倉庫に戻ると、町内会費で購入した備蓄食料を棚に格納して、倉庫内でヒマをしていたおキツネ様をひっぱり出して駐車場に連れて行き、猫さんと若頭のすすめられるがままに、おキツネ様はその小さな祠に入ってみた。

パキンッ!バリバリッ!

案の上、小さな祠はおキツネ様の大きさに耐えかねて簡単に内部から割れ、朱塗りの陶器は粉々に砕けて土台のコンクリートだけが残った。

「壊してしまいました」

キツネが気まずそうに言うと、猫さんも若頭もニッコリしている。

「おキツネ様が祠に入って壊れましたね」

「神様が壊したのであれば、バチは当たるまい」

若頭は喜び、砕け散った祠の残骸をホウキで集め、土台のコンクリートだけなら遠慮なく剥がせると、猫さんには乾燥ジャーキーを、おキツネ様にはおにぎりをくれた。おキツネ様は油揚げで無いことを不満に思ったが、突然やって来て祠を壊したのにご飯をもらえるなんてと感謝をしているようだった。

猫さんは、思いがけずおキツネ様が近所の役にたった事を嬉しく思ったが、自分が悪いことをしたのに食べ物をもらえた事に、なんとなく釈然としていないおキツネ様の様子を見て、これからこの方をどう扱ってゆくのがベストなのだろうと、内心途方に暮れる猫さんだった…。






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