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『イワノキツネ』№9

観察すると、幼い小ギツネ達は一斉に同じ動きしか出来ないようだった。

チョビヒゲ猫は"地域を良くする会議"で、町内会に加入していない世帯へ向けて、共生条例のビラを配りたいと提案した。交渉の結果、1世帯10円の手間賃をもらうことで同意を得た。実際は小ギツネ達が配るのだが、防災倉庫に25体もいるおキツネ様の存在を、おえらいさん達に打ち明けられないでいた。

1000枚の投函作業は1日で終わり、とりあえず日銭を稼ぐことが出来た。1週間もすると小ギツネ達はすくすくと成長して、体が少し大きくなった。

猫さんは食料を買い出しする道すがら、空いた祠は無いか、小ギツネ達に向いている作業はないか探していたが、開発が進んでいる街には、小ギツネ達が活躍出来そうな場所は無さそうだった。肩を落として防災倉庫に戻り、玄関の扉を開けると、25体のキツネが大きな1体と混在して、なんだか曖昧な印象だった。猫さんがよく目をこらすと、テーブルの上に小ギツネが1匹だけ鎮座している。

「私はヤラです」

猫さんは買い出しの食料を棚に置く。

「努力が実り収穫を得るでしょう」

キツネ語を互換して伝えているのかわからないが、猫さんにはそう聞こえた。すると小ギツネはサッと25体の棚に戻った。猫さんはポカンとする。続いて夕にチョビヒゲ猫が帰宅すると、また棚からピョンと1匹小ギツネが踊り出る。

「私はエオローです」

チョビヒゲ猫が資料をテーブルに置く。

「関係性を大切にしましょう」

小ギツネは一言言うとまた棚に戻った。チョビヒゲ猫もポカンとする。2匹は何食わぬ顔で鎮座する小ギツネ達を見ながら頷く。猫さんは奥からボロボロのダンボールを引っ張り出し、チョビヒゲ猫が大きな手形を押すと、即席の看板が出来た。

「いけそうな気がする」

翌朝、チョビヒゲ猫は防災倉庫の玄関扉に看板を掲げ、散歩がてら近所の地域猫達に開業を報告してまわった。新しもの好きな猫達がさっそく来店するも、大体の悩みが"エサの確保"で、結局は備蓄食料が目当てと知って、チョビヒゲ猫はガッカリした。

様子を見に来た地域猫の長老が、野良猫に優しい人間達の中には、こっそり猫達にだけ、自分の悩みを打ち明けてくれる事があると教えてくれた。猫達には解決出来ない悩みがほとんどなので、もどかしいとも言っていた。

こうして、悩みを抱えた人間達を倉庫へ連れて来た地域猫には、お駄賃として10gのエサを進呈することになった。チョビヒゲ猫は手形の横に、覚えたての人間の文字を大きく書いて、すぐさま看板を書き変えた。








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