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『あらわれた世界』№21

篁公は閻魔大王の背後に着くと、古びた小槌を大きく振り上げた。振り上げた角度から、閻魔大王の肩越しに、大王が書き込んでいる内容の一部始終が見えると、篁公はハッとした。

閻魔大王は、膨大な情報を閻魔帳や台帳に書き込んでいた。よく見ると誰が誰の子供であり、誰が誰の親なのか、誰と誰が親戚で、生前何をしていたのか、そしてそれぞれがどんな人生を歩んできたのか…。

「空白ばかりではないか。」

閻魔大王は振り向きもせずにそう言うと、ペラペラと台帳をめくっている。篁公はギクリとして思わず手が止まったが、気を取り直して小槌を握りなおす。篁公は目をつぶり、大きく振りかぶり、閻魔大王の後頭部めがけて小槌を振り下ろした。

冥廷に大きな音が響き渡った。

篁公は地面に倒れた。突然現れた黒いシャドウに覆われて動けない篁公の手から小槌が転がる。

「篁よ。記帳はどうした。」

篁公は黙っている。閻魔大王は小野さんのシャドウに羽交い締めにされた篁公に声をかけた。すると、ドヤドヤと小野さんのシャドウを追って、猫さん達が冥廷に現れた。閻魔大王は猫達の登場にニンマリすると、大きな声で言い放った。

「さぁ、皆で新しい冥廷を作ろう。」

その声は相当な倍音で地鳴りとなった。すると、何年も閉じていた冥廷の扉か開き、沢山の人間達と動物達がなだれ込んだ。閻魔大王は旅の最中も大切に懐に入れておいた鏡を取り出すと、冥廷に置いた。鏡にはモニターのように生前の行いが走馬燈の様に映し出された。

1人、1人と審判が終わる毎に、冥廷は活気を取り戻し、綻びた箇所が治っていった。これが閻魔大王の神通力なのか、アチコチがビシビシと修復されてゆく。

篁公を゙抑え込んでいたシャドウの影が薄くなると、小野さんの肉体が現れ、シャドウは通常の小野さんの影に戻った。やっと動けるようになった篁公は、閻魔大王があっという間に冥廷を再開していることに驚いた。錆びついた針の山も、大王が審判を終える度に、1本、また1本と鋭さを取り戻した。

人間に混じって、時折一緒に暮らしたピーコちゃんや、人間に保護された猫や犬達、ハムスターやモルモットに爬虫類、動物園の人気者等、ありとあらゆる生き物が訪れた。もちろんそれらの審判は、ペットならば飼い主と共にいられるよう配慮されたが、お陰で免罪符やペット守りも必要になる勢いだった。

猫さんは審判を待つ動物達の飲み水を用意したり、チョビヒゲ猫はペット守りの手形を取ってまわったりした。篁公はこれまで通り台帳に記帳をし、小野さんは審判までに必要な簡単な調書を作成した。

小野さんは、篁公が拘っていた冥廷の復活は妄想に過ぎす、本当に冥廷を再興する為には、亡き人達の関係性をはるか昔から把握しており、死して尚、生き続けながらその繋がりを残された人々に伝え、長く寄り添える存在が必要なのだと理解した。そして漠然と、冥廷が、魂達を幸せな世界へと導くゲートのような場所になれば良いなと思った。








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