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『猫さんの決断』No.7

「お札だったんだよ」

猫さんは落ち着かないチョビヒゲ猫に前世の姿を教えた。

「おさつ?」

「そう。1000円札」

チョビヒゲ猫は全く意味がわからない。

猫さんは、かつてずっと1000円札と暮らしていたが、とあるご夫婦のお屋敷でお世話になっていた時、1000円札がストーブで燃えてしまった。その直後にチョビヒゲ猫が現れて、猫さんはチョビヒゲ猫と暮らすようになった。

「野口さん」

「ノグチさん?」

「そう。病気に詳しいの」

猫さんは、毎日会館に届く新聞を広げると、新紙幣になる記事をチョビヒゲ猫に見せた。チョビヒゲ猫は熱心にその記事を肉球でスキャンすると、自分の漠然とした不安が、前世から来ていることに驚いた。かと言って、自分ではどうすることもできない現状に困惑した。

夜になると、本業を終えた小野さんが、差し入れを持って会館にやって来た。猫さんは、チョビヒゲ猫の顛末を話すと、小野さんは目を輝かせてチョビヒゲ猫を抱っこした。

「だから僕がいるんじゃないか!」

不安そうなチョビヒゲ猫をあやす様にユラユラ揺らしながら、小野さんは博物館の意義について話した。猫さんは、小野さんの本業について、なぜ執拗に古い物ばかり集めたり、並べたりするのかわからなかったが、話を聞いて納得した。

「他の人達が忘れても、僕は覚えてるよ」

チョビヒゲ猫はうれしくなった。

そういう要因を人間界では″カルマ″と呼び、そのカルマを解消するために、日々色々なことが起きるのかもしれないとも話した。前世の記憶が無い猫さんにはピンと来なかったが、チョビヒゲ猫にはなんとなく腑に落ちる感覚があった。







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