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『あらわれた世界』№18

チョビヒゲ猫は小野さんのシャドウに注意して、失礼がないよう閻魔大王をちゃぶ台へとお招きする。こんなに巨大な存在なのに、お偉いさんには閻魔大王の姿が見えないようだった。

あいにく、ちゃぶ台には座る余裕がなく、床の間の前に座布団を4枚敷き、そちらに座っていただくことにした。閻魔大王が座ると、ズシンと軽い地響きが起きたが、お偉いさんは、その揺れで閻魔大王の着座を確認した。

猫さんは、閻魔大王の大きさに合わせて、湯呑みではなく、手つきの鍋に麦茶を入れて差し出すと、閻魔大王は嬉しそうにゴクゴクと麦茶を飲み干した。

「僕も見たいなぁ」

宙に浮かぶ手つきの鍋から麦茶がどんどん減って行く様を見ながら、お偉いさんはつまらなそうに呟いた。猫さんはすぐさまおかわりの麦茶を作るためにパントリーへ駆け込み、チョビヒゲ猫は、玄関に置いてある閻魔大王の大きな靴を猛烈にクンクンした。小野さんは久しぶりに現れた閻魔大王に、内心少しおびえていた。

大王は、その風貌から、相当過酷な旅を経てきたと一目でわかるほどに憔悴しきっていたが、猫さんからおかわりの麦茶を頂くと、静かに首を横に振り、大きなため息をついた。そして静かに目を開けると、大王は地鳴りのような古代語で、ありとあらゆる空間を探したが、妹のヤミーは見つからなかったと話した。

「これは声だね」

地鳴りの響きを声と認識出来たお偉いさんが、嬉しそうに大王が座っているであろう4枚の座布団を眺めた。

閻魔大王は冥廷を存続するために、最愛の妹ヤミーを探す旅に出ていた。その閻魔大王が帰還したとなれば、篁公が冥廷を一族で運営することは難しい。小野さんの心はなぜかモヤモヤしていたが、シャドウは冷静だった。

帰還した閻魔大王には影が無かった。長い旅の途中、何らかの原因で大王は自らのシャドウと無意識に別離したのか、大王本人もそれに気づいていないようだった。小野さんのシャドウは、お偉いさんに大王が見えないのはそのためだと、勝手に分析していた。





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