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『白髪を抱えて』

赤い列車の
その車内
真向かいに
乳鉢色のその肌の
右膝だけが赤錆びた
少女が筆を走らせて
世界の秘密を暴いている
ポニーテールの黒髪を
ゆらゆらと遊ばせ

僕もひとり指を遊ばせ
聴こえてくるあの
“レティクルの音色”を抑えつつ
少女の秘密を書き留める
指が疲れる程に

しばらく揺られ
やがて待合する駅で
白髪の男が
少女の隣に座る
彼は口を笑わせて
おびただしい数の金銀の歯から
乱反射するギラついた生々しい光で
乗客すべてを震わせた
でもなぜだかその眼だけは
なにも映してはいなくて…
やがて白髪の膝も震えだしたかと思えば
列車はそれを待っていたかのように止まる
だけども少女の筆は震えつづけ
芯は折れ
やがて降りて行ってしまった…

僕は震える手を膝に挟みながら
白髪に目を向ける
すると どうした
少女の白い顔と
青々しい膝の輪郭だけが
そこに残っていて…

それをむんずと掴み
僕は駅を降りた

白髪を抱えて

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