映画館の仕事
高校を卒業してから、福岡の専門学校に進学した。寮に住みはじめたので、同じく地元を離れた友達たちと、バイト何するー?と話していた。
私は、専門学校の最寄り駅にある映画館でアルバイトがしたいなぁと思っていた。高校は部活が忙しかったけれど、土日の部活後などに、たまに友達と映画を見に行くのが好きだった。しかも、まだジブリの新作が毎年のように公開されていた時期だったので、「崖の上のポニョ」や「借りぐらしのアリエッティ」を見たりしていた。人数が多いと安くなる割引があって、妹たちも呼んで、見終わったらプリクラを撮ったりした。
映画館のキャラメルポップコーンの匂いと、雰囲気が好きだった。そして、専門学校を卒業したら接客業に就きたいと思っていたので、慣れておこうと思った。もし落ちたら、焼肉屋さんでバイトしようと考えていた。HPを見て、履歴書を送った。少し時間が経ったころに、面接してもらえると電話があった。募集中なのか曖昧な部分があったので、すごく嬉しかった。友達が面接の練習をしてくれた。今思い出すと、同い年なのにしっかりしている。
面接の日は緊張した。質問に答えながら、寮の門限の時間もあってシフトに入れる時間が短い点がやっぱり駄目かなぁという気がして、落ちたなと思っていた。でも、私は、高校3年間、全力で頑張ってきたものがあったので、なんかオーラみたいなものが伝わるといいなぁと思った。(そんなに自信があることが今は羨ましい)
面接後、一緒に面接を受けた方が、マックを奢ってくれた。ポテトのLサイズを頼んで、後々遠慮した方がよかったと後悔した。
無事に受かり、応募してから一ヶ月後くらいから働き始めた。希望のセクションは、映画館内の清掃とか走り回る感じの仕事が興味があったけど、カウンターの部署になった。カウンターは覚えることが多いけど、初めてのバイトだし勉強になると思うよと言われた。映画館は19歳以上からの募集だったので、最年少ということもあり、とても可愛がっていただいたと思う。ミスをたくさんしたけれど、根気よくお姉さんたちが教えてくれた。そんなことを考えると、本当にここを選んでよかったし、人に恵まれていた。
挨拶や言葉遣い、お辞儀の角度、会社のことや料金、スクリーンの説明など様々な研修を受けた後は、フロアに降りて、チケットを売ったり、券売機の操作を案内したりする。こんなにすぐ接客するんだ~と、どきどきした。でも、映画館を歩き回れるあの感動を覚えている。少しだけ大人の仲間入りをしたと思った。私は、接客業に憧れがあったけど、人見知りだし、向いていないと思っていた。だから、就職するまでに少しでも慣れておきたかった。
最初は、声が小さいとよく注意され、その後は語尾が小さくなるに成長した。接客だけでも精一杯なのに、チケット販売の端末操作もすごく苦労した。券種がたくさんあって、てんぱってしまい、打ち間違えたり、クレジットの操作もサインをいただくとか手順を覚えるのが大変だった。お札の数え方を習った時は、おー!と思った。そして、インカムもすごく苦手だった。話を簡潔に伝えることができなくて、よく色んなパターンをイメージして話す練習をしていた。なかなか研修中のバッヂがとれなくて、一度、このままだとカウンター業務は厳しいと言われた。アルバイトなのにクビになるかもしれない!!!
大好きな映画館では働き続けたかった。映画館が好きだし、映画館の裏側も好きだし、みんな接客が上手で臨機応変に対応できるスタッフばかりで、私もそうなりたいと目指していた。(みなさん、とてもいい人だったのだ。)それから、気持ちを入れ替えて、仕事に取り組んだ。チケット販売のミスがほぼ0になった。それを考えると今までどこかで甘えがあったのかもしれない。ミスしても、後で正しく処理してくれていたから、それが当たり前になっていた。迷惑をかけているという認識が低かった。唯一の同い年の女の子はとっくに研修中のバッヂはとれていたので、私も頑張った。そして無事とれた。
慣れてきてからは、ポップコーンなどを販売したり、ポテトを揚げたり(めっちゃ大変で忙しくて難しかった)、グッズを販売したり、フロアの清掃をしたり、いろんなことが出来て楽しかった。ずっと緊張はしていたけど、楽しかった。インカムもむしろ、話すことが楽しくなっていた。
映画館の人とは、同じ学生チームでご飯に行ったり、仲良くなったメンバーと角島にドライブしたりした。
小学生の時すごく好きで、ドラマのキャラを真似していた俳優さんがいるのだけど、その方の舞台挨拶のスタッフになった時はびっくりした。お客様が写真を撮っていないか確認する仕事で、その日シフトに入っている人でまだ舞台挨拶の経験をしたことがない人を探したらたまたま私になったらしい。しかも、舞台挨拶が終わった後に、その俳優さんがスタッフさんたちとみんなで写真を撮りたいと言ってくださって、すごく嬉しかった。夢(こんなことがあるなんて夢にも思っていなかったけど)は、叶うんだと思った。都会の映画館だったので、よくイベントがあるのも、刺激的でよかった。
専門学校2年生になり、内定が決まり、早期出社をすることになり(今思うとありえない制度!)、7~9月までは、旅行会社の仕事と映画館の仕事をかけもちでやった。旅行会社はアルバイトみたいな働き方ではなく、会社員の働き方なので、休日に映画館のバイトをしていた。20歳、体力あるなぁ、、、そういう成り行きで、思った以上に早く映画館を卒業することになった。すごく名残惜しかった。
送別会をしてくれて、色紙を書いてくれて、嬉しかった。社会人になってからも、一人暮らしの家に帰るのがさみしいときよくレイトショーを見に行った。館内にいると安心するから。
今もあの場所で、メンバーは違うかもしれないけど、誰かが映画の仕事をしていると思うと不思議になってきた。忙しい社員さんたちは夜の事務所で仮眠をとっているかもしれない。映画のグッズで埋まった倉庫があって、休憩室があって、ロッカーがあって。もう行くことはない。10年以上前の風景。
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