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“隻腕”クライマーのパラクライミングTALK⑤

片腕のクライマー・大沼和彦が主催する、パラクライマーたちによるインスタライブ。日曜日の夜に不定期でゆる~く開催。悪ふざけだったり、パラクライミングへの熱い思いだったりが繰り広げられています。

今回は、選手が今後の世界大会に出場するために、クラウドファンディングを立ち上げられないかという話で盛り上がりました。


▼世界に行った経験を無駄にしないために

大沼和彦(AU1):W杯オーストリア・インスブルック大会AU1クラスで優勝することができました。今回初めてクラスが成立したということで初代チャンピオンになることができました。これからも頑張ろうと思います。これから追われる立場になるので、負けないように頑張ります。ずっと金メダルを取り続けたいと思います。

大内秀之(AL1):大沼くん、予選は圧倒的だったよね。

大沼:予選は圧倒できたけど、決勝はそうでもなかったですね、4手差くらい。レストポイントを2位の人が見つけていたのがすごい。オブザベーションの能力なのかなあって。僕は焦ってレストポイントを探せなかった。

大内:それでも金!

大沼:壁の高さも広さ、全然日本とは違う。本当に迫力がありましたね。あの壁で登れたっていうのは本当に良い経験になりました。

大内:お客さんが多くてすごかった。

大沼:盛り上がり方が違う。

大内:大沼くんが2位の選手を超えた瞬間はヤバかった。でも試合終わった瞬間から酒飲んでた。帰りのフランクフルト空港でもバカバカ飲んでた。

大沼:3杯くらいですかね。

大内:帰りの便で隣の同士で、飛行機に乗った瞬間、赤ワイン頼んでたからね。「赤ワイン好きなん?」って聞いたら、「あんまり飲まないです」って。「その赤ワインおいしい?」って聞いたら、「いやあんまり」って。

片岡雅志(AL1):口にアルコール入ってたらよかったってこと?

大沼:みんなワイン飲んでたから、どうかなって思って(笑)

大沼:大内さんがW杯3戦出るってすごく体力を使いますよね。自分は1戦しか出てないのに、こんなに疲れがどっと出て、本当にすごい。

大内:やるか、やらないかやからな。

大沼:気合ですね。

大内:今回は負けたけど、登り終わったときに、力が有り余ってたのが悔しかった。予選終わった瞬間、ジムに登りに行った。やっぱり3戦全部出たい?

大沼:クラス成立するかどうか関係なく出たい!自分と同じクラスの2位3位の人も、3戦全部の大会に出るって言っていて。来年のW杯、自分も全戦出たいなと思っている。そのためにはクラウドファンディングとかも必要なのかな。でも大変ですよね。

大内:やるか、やらないかやけどな。

大内:片岡は日本代表を目指してるパラクライマーやんか。日本代表になって、ワールドカップか世界選手権に出る権利があったら全部出たい?

片岡:出たいです!

大内:だよな。いろんな人に聞いてみたのよ、ほかの日本代表の人にも。みんな出たいって言ってた。

大沼:クラウドファンディングを考えてたんですけれど、自分のためだけにクラウドファンディングをやって、自分だけ3戦出るというよりも、みんなに分配できるように、出たい選手が出られるようにクラウドファンディングができたらいいなと思った。

大内:いいこと言う!

大沼:自分ひとりだけ出ても違うのかなという気がして。

大内:オレも今回クラウドファンディングをさせてもらって、3大会出させてもらったが、日本代表が決まった当時、3大会出たいと思ってたのはオレだけだった。だからパラクライマーの中に共感者はいなかった。岡田卓也くん(RP1)は出ようとしていたけど。そう思う人が少ない状況の中で、みんなに分配してるクラウドファンディンは思いつかなかった。

大沼:あの経験をいろんな人にも知ってほしい。

大内:その気持ちが大事なんだと思う。大沼くんは金メダル取ったわけやから、ほかの日本代表の選手とか、これから日本代表を目指す選手とかから「大沼選手のように金メダルが取りたい」と思われるような人間だから。日本代表になりたいと思ったときに、「渡航費が高いんだ…無理だ…」ってあきらめてほしくないよね。今回、日本代表に選ばれた選手ってもっとおるわけやけど、行けなかった選手もおるわけやから。視覚障害者のサイトガイドの人たちだって、視覚障害の選手が負担しているって言うやんか。個人的なスポーツやからしかたないのかもしれないけど、彼らにとってはサイトガイドは目であって、足であって、目以上の存在なわけやんか。サイトガイドがいないと大会に出られへんからさ。それが個人負担っていうのは…。今まではそうかもしれないけど、今はこうやってW杯を経験して、未来のことを考えたときにはやっぱり、お金をなんとかしたいよね。

大沼:自分を支えてくれているスタッフも同じようなことを毎回言ってくれていて、どうにかして同じ土俵に立たせてあげたいって常に言ってくれている。

大内:あの人たち本当にいい人よね。空港まで見送りに来てくれてたやんか。見た目めっちゃガラ悪いけど(笑)

片岡:お金の問題であきらめるっていうのは、そこには多額の費用がかかるのは分かるけれど、せっかくその権利があるのに資金面で出れないっていうのは、そこさえクリアすれば行けるわけだから。簡単なようで難しい問題。お金さえあれば行けるという環境が立ちはだかっているのであれば、自腹ではなくて、何割かは協会やスポンサーで出してもらうとかできたら理想なのかな。

大内:クラウドファンディングしたことがある人は共感してくれると思うが、世間一般から見たら、クラウドファンディングって「簡単にお金が集まるツール」「自分たちの欲求のためにお金集めて何してるの?」って言われることがある。でも一生懸命を応援してくれる人たちは、目標金額を達成するために一生懸命応援してくれる。ふつうのお仕事でもそうだと思う。ふつうの仕事をして、何かを渡して、お金をもらうというのが仕事。それと一緒やけどな。俺たちだってリターンをちゃんと渡す。クラウドファンディングをやる人間も、お金をいただく人間も、簡単に「クラウドファンディングやったらいいんでしょ」「クラウドファンディングやってみんなで分配したら楽やんか」っていう考えではなくて、しっかり意思を持った取り組みをやっていかないといけない。
オレは今回クラウドファンディングのお金で行かせてもらったり、クラウドファンディング以外でも、職場であったり、関係者であったり、身内の人がたくさん寄付をくれた。今回、基本的にお土産は買ってないし、観光にも言っていない。お金をちゃんと使いたいなと思っていて。最近クラウドファンディングが軽く見られる傾向がある気がする。オレがみんなを代表して、クラウドファンディングをやるってなったときに、みんなに分配するとして、変な使い方はしてほしくない。分配の仕方も、例えば宿泊費はクラウドファンディングから出しましょうとか。そうやって色分けすることで自由度が出るのかな。それを知らない新しい日本代表が「出してもらって当たり前」ってなるとちょっと違うやんか。だから渡すからこその心構えというのをちゃんとしておかないと。
手数料も高いしね。今回180万円集まったけど30万円くらい手数料引かれた。30万円ってインスブルックの往復代。そう考えると、もしかするとクラウドファンディングだけが選択肢じゃないかも。

大内:オレ、キャンパラバトルってイベントをさせてもらってるやないか。パラクライミングの関係者にはいつもお世話になっていて、みんなのおかげで作り上げられてるイベントやなと思って。そういったものを増やす必要があるのかなと思う。

大内さんが企画したキャンパラバトルには多様な人たちが参加した

大内:障害のある人が出る人向けの大会にするのか、障害のない人が片手だけ両手だけの登りなんかを体験する大会にするのか。

大沼:同じカテゴリーの選手を探すというのはかなり大変。なかなか出くわさない。1回出たことがあるんですけど、チーム制でポイントでやるコンペ。あれは力の差がそんなに出ないし楽しかった。

大内:日本のイベントに海外の選手を呼びたいなとも思ってる。オーストリアのジムがめっちゃ良かったから、オーストリアに合宿に行くとか(笑)今やっていかんと、せっかく自分たちが世界に行ったことが無駄になっちゃうからね。おんぶにだっこじゃなくて。世界に行ったことが無駄にならないように。後輩たち、次世代の人たちのために。

大内:じゃあ、やるか、大沼くん。

大沼:やりますか。やるか、やらないか(笑)

(了)

▼障害別クラス分けについてはこちらの記事を↓

▼“パラクライマー”大沼和彦【日曜日のインスタライブ】22年6/26


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