見出し画像

決勝解説【セッターに核心を聞きました!】パラクライミングJC第2戦 2022/3/6

3月6日に開催されたパラクライミング日本選手権・決勝。ルートセッターの“マーシー”こと中島雅志さんが、課題のポイントについて解説してくれました。

ルート壁の全景
ルート壁の全景

▼日本代表を決める 【Road to world】

決勝のルートは全部で4つ。左右で傾斜が異なる壁に、それぞれ2つずつ、計4つのルートが設定され、左の壁の方が傾斜がきつくなっています。今大会は、日本代表の選考会も兼ねていて、【Road to world】と呼ばれるホールド(クラス名が記されたシールが貼ってあるホールド)に到達できたかどうかが、日本代表の選考基準となります。(※選考基準はほかにもあり、Road to world への到達の如何に関わらず日本代表に選ばれる場合があります)。

road to worldのシールが貼られたホールドをつかむ男子選手
赤丸の Road to world のホールドが代表選考基準

選手の出場クラスは、障害の種類や程度によって決まります。クラス分けについては以下にまとめました。

まずは真ん中から左側、傾斜の強い壁に設定された2つのルートから見ていきましょう。

▼視覚障害(男子)クラス(B1~B3)

いちばん左は、黒と赤のホールドがついたルートで、視覚障害(男子)クラス(B1~B3)が登ります。


マーシー:「ボリュームと呼ばれる大きいホールドがずっと続く構成になっています。大きいホールドでも、どのあたりを持つのか、どういう持ち方をするのかがポイントになってきます。僕らも目をつむって登ってみたときに感じた強度感で、ここまで行ってほしいという思いでセッティングしました。中盤、傾斜が変わるあたりからポイントに入っていきます。僕も、目を閉じて登ってみたが、傾斜の強いところに差し掛かってくると、体を固定しないといけないので、すごく苦しくなっていくのを感じました」

視覚障害男子のルートと、その中盤の傾斜に差し掛かる選手
視覚障害(男子)クラスのルート、強傾斜が苦しい

この中盤の傾斜を完全に抜け出せたのは、すべての視覚障害(男子)クラスの中で3人。その中でも、トップにたどりつけたのはB1クラスの會田選手のみでした。

トップに迫る男子視覚障害クラスの3選手、真ん中の選手だけトップを保持
トップに迫る視覚障害(男子)クラスの3選手、トップにたどり着いたのは會田選手

視覚障害(男子)クラスの日本代表に選出されたのは以下の通り。

男子B1:會田 祥 小林 幸一郎
男子B2:濵ノ上 文哉 江尻 元洋
男子B3:蓑和田 一洋

▼視覚障害(女子)クラス(B1、B3)
▼下肢機能障害(女子)クラス(AL2)
▼RP1(男子)クラス

左から2番目、青いホールドのルートは、視覚障害(女子)クラス(B1、B3)、下肢機能障害(女子)クラス(AL2)、「関節可動域および筋力とその他の機能障害」(男子)クラス(RP1)が登ります。


マーシー:「いろいろな障害の人が登るのでセッティングが難しかったです。このルートが調整にいちばん時間がかかりました。選手の障害によって何通りかの登り方が出てくるので、障害に合わせて、見えない状態で登ってみたり、右足のみで登ってみたりしてルートを練りました。今大会のルートセットは、左足だけが使える、左腕だけが使えるといった、たまたま選手の障害の部位が揃っていたので助かったという気持ちがありました」

女子視覚障害、女子下肢機能障害、その他の障害クラスのルート全景
視覚障害(女子)、下肢機能障害(女子)、その他の障害(男子)クラスのルート

マーシー:「全体的に、ホールドのかかりが真下に引けるものがあまりなく、ホールドを横からサイドで持つとか、体を上手く使いながら登っていかないと越えられない構成になっています」

左サイドからホールド持つ男子選手と女子選手の2画面
サイドを使うムーブが多い

マーシー:「視覚障害(女子)クラスについては Road to world は、傾斜が強くなったところに設定しましたが、ここのホールドは悪いです」


視覚障害(女子)クラスの2選手は、いずれもB3の Road to world を保持する地点までたどり着きましが、これが持ちの悪いホールドで、次のホールドを保持することはできませんでした。

強い傾斜部分を登る女子視覚障害クラスの2人の選手
強傾斜を登る視覚障害(女子)クラスの選手

視覚障害(女子)クラス(B1、B3)、下肢機能障害(女子)クラス(AL2)クラス、重度の「関節可動域および筋力とその他の機能障害」(男子)クラス(RP1)で日本代表に選出されたのは以下の通り。

女子B1:青木 宏美
女子B3:江尻 弓
女子AL2:渡邉 雅子
男子RP1:岡田 卓也

つづいて真ん中から右側の壁に設定された2つのルート。左側の壁に比べると傾斜は弱めになっています。

▼下肢機能障害(男子)クラス(AL2)▼RP3(男子)クラス

左から3番目の黒と黄色のホールドのルートは、下肢機能障害(男子)クラス(AL2)、軽度の「関節可動域および筋力とその他の機能障害」(男子)クラス(RP3)が登ります。

下肢機能障害とRP3クラスのルートの全景
下肢機能障害(男子)とRP3(男子)のルート

マーシー:「全ルート中、グレードがいちばん高く、シンプルに悪いです。大きいホールドが基本的に下向きについていて、足で踏みづらい、あるいはまったく踏めない。Road to world は、重要なポイントですが、そこから上は僕からの挑戦状。Road to world を取ったからといって安心せずにトップを目指して欲しいです」


AL2の結城選手。足に使っているホールドで滑る場面も。最後は、左手⇒右手とダイナミックに飛びつくもフォール。

左手と右手それぞれでホールドに飛びつく片足の男子選手
踏みづらいフットホールドが多い

決勝に臨んだ2選手、高野選手と安良岡選手の到達高度は同じ。到達までにかかったタイムが勝敗を分け、10秒差で、高野選手が優勝となりました。両選手ともに Road to warld まであと一手に迫るも届かず。規定により、決勝1位となった高野選手が代表に選出されました。

壁を登る男子RP3の2選手
会場をあおる高野選手(左)と Road to world まであと一手に迫る安良岡選手(右)

下肢機能障害(男子)クラス(AL2)、「関節可動域および筋力とその他の機能障害」(男子)クラス(RP3)で日本代表に選出されたのは以下の通り。

男子AL2:結城 周平
男子RP3:高野 正

▼下肢機能障害(男子)クラス(AL1)
▼上肢機能障害(男子)クラス(AU2)

いちばん右側の緑色のホールドの壁は、下肢機能障害(男子)クラス(AL1)、上肢機能障害(男子)クラス(AU2)が登ります。

車いすクラスと上肢機能障害クラスの選手が登るルートの全景
下肢機能障害(男子)AL1クラスと上肢機能障害(男子)AU2クラスのルート

AL1クラスの選手は、キャンパシング=腕だけを使って登ります。実は、出場選手3人というのが各クラスの成立条件であり、今大会でクラスが成立したのはAL1のみでした。競技人口の拡充は、パラクライミングの課題のひとつです。

壁を登る車いすクラスの男子選手3人
Road to warld に到達した畠山選手(中)、大内選手(左)が代表に選出

マーシー:「上肢機能障害クラスに関して、選手は右腕が使えないので体を静止できず、デッド=片腕で飛びついて登るので、このルートでは上手く足をかけられるかどうかがポイントになってきます。大きいホールドは厚みがあって足で置きやすいですが、それ以外の小さいホールドに関してはすごく薄くて、置きづらい」

慎重に足を置く上肢機能障害の選手たち
置きずらいフットホールドが続く

マーシー:「このルートは、トップ取りが難しいです。トップの手前の大きいホールドの上に小さいホールドがついていて、そこに手が届かないと保持しきれないです。そこからゴールに飛びつく動きになるのですが、その動きがどこまでできるかがポイントです」

トップを取る上肢機能障害クラスの大沼選手
トップを取るAU2クラスの大沼選手

下肢機能障害(男子)クラス(AL1)、上肢機能障害(男子)クラス(AU2)で日本代表に選出されたのは以下の通り。

男子AU1:大沼 和彦 大谷 武彦
男子AL1:畠山 直久 大内 秀之

決勝の模様は、日本パラクライミング協会のユーチューブチャンネルにアップされていて、解説を踏まえて観ると、より楽しむことができます。是非ご覧ください!

みなさんのサポートは、パラクライミングの発展のため、日本パラクライミング協会にお届けします。https://www.jpca-climbing.org/