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“隻腕”クライマーのパラクライミングTALK⑪

片腕のクライマー・大沼和彦が主催する、パラクライマーたちによるインスタライブ。日曜日の夜に不定期でゆる~く開催。悪ふざけだったり、パラクライミングへの熱い思いだったりが繰り広げられています。

今回は、パラクライミング ジャパンシリーズ第1戦のチーフルートセッターの中島雅志さんこと“マーシーさん”が参加。次々と質問が投げかけられ、話は、日本のパラクライミング界の課題にまで展開しました。


▼今夜のお相手は…

チーフルートセッターの中島雅志さんこと“マーシーさん”。大会のライブ配信では解説も務めた
渡邉雅子 選手(AL2)、骨肉腫による左股関節離断
濱ノ上文哉 選手(B2)、網膜色素変性症で弱視

▼自分からあんな声が出るなんて…

大沼和彦(AU1):渡邉さん、予選のガッツのある登りはかなり印象的でした。

渡邉雅子(AL2):めちゃくちゃ恥ずかしいです。自分からあんな声が出るなんて。誰も騒ぎながら登ってないのに。

予選2本目のルートを登る渡邉選手

大沼:あの手とったら、あの声が出るのは分かります。

渡邉:本能の声です。新しい自分が出てきた。

マーシー:クライマーってそういう一手で、声が出ることがある。

大沼:ぜんぜん控えめな方だと思いますよ。

渡邉:声が出ると力を入れるリズムが取りやすい。本当に登りがいのあるルートでした。

マーシー:作りがいがある登りでした。

渡邉:決勝では手順を間違えちゃったけど。もっと頭を柔軟に、ムーブのバリエーションを増やしていきたいなと、今回すごく思った。

マーシー:決勝は足で使うホールドが大きくて、手で使うホールドが小さい。自分は作っている身なので「なんでそっち行っちゃうんだろう」って思うけど、下から知らないで見ていると、そっちのパターンもあるなと思うのかも。

女子AL2と男子RP1の決勝ルート。2選手でルートチョイスが異なった

渡邉:初めて出たロシアの世界選手権から、縦ピンチが苦手で、それが私の課題。マーシーさんにそれを見抜かれて、縦ピンチの課題を作ってくれたのかなって。今回も縦ピンチを見た瞬間に「これは私のために作られた課題だ!」と思って、変にやる気が出て、ピンチでつかみにいってしまった。変な思い込みみたいなものを外して、柔軟に考えられるようになりたいなと思った。

マーシー:ピンチを持った瞬間に、悪いなと思ったはずなんです。明らかに悪いホールドなので。なんとか戻って粘る体力があったじゃないですか。ちょっと右を見ればホールドがあった。現場での選択肢はいくつも持っていた方がいい。

渡邉:登りながら周りを見るっていうこと。目の前のものにこだわりすぎないように。 

マーシー:リズムよく登っていたかと思うんだけれど、詰まる部分があったときに、ほかの解決方法がないかなと、一旦思った方がいい。

渡邉:1回下に戻ってやり直してもよかったんですね。

大沼:自分もまっすぐ上しか見ていないです。横とか全く見ないです…

マーシー:終わってから思うことって結構あるので、次の大会に活かしてもらいたい。

▼日本のパラクライミングのレベルを上げるには

大沼:高野正さん(RP3)から質問です。「決勝ルートのグレードはどれくらいですか?13Aくらいあった気がします」

決勝ルートを登る高野選手

マーシー:グレードってジムで違いがありすぎて、グレードで伝えるのって何とも言えない。同じルートを登った結城周平さん(AL2)と同じように、片足で試登をしたときに、ゴールまでいけば12Dくらいかなと感じた。

大沼:
クラスによってもグレードの感じ方は違うんですね。

マーシー:ぜんぜん違うと思いますよ。12Cを作りましょう、といって作るというよりも、この選手だったらここまで来る、という考えでルートを作る。RP3で、2人が落ちてしまったパートで、どっちかは抜けてくるかなというイメージだった。抜けてきた1人が、それでもゴールは取れないだろうなという感じ。取れたらすごいというイメージで作った。

大沼:高野さんが落ちた部分は越えられそうだったなあ。次登ったらいけるんだろうなあ。

僅差の勝負となったRP3決勝

大沼:高野さんから返信です。「ワールドカップの13Bのルートの方が簡単でした」

渡邉:私が登った壁は どれくらいのグレード?

マーシー:いちばん上で11Dから12A。傾斜に差し掛かるくらいまでは11B。作ったあと全部外すので、みんなに触ってほしいなあとは思っている。

渡邉:あそこのボテを触るっていうのを目標にしていたが、残念ながら触れず。あのボテは印象的で、何年も覚えていそう。

渡邉選手が語るハリボテ。“でべそ”“ピザ”“風車”“手裏剣”など、選手によって表現はさまざま

ビーチ:ハリボテのカチは気づきづらかった。

マーシー:ピンチの上にもカチが付いている。そこも勝負どころだなと思っていて、探る能力が必要になってくる。ホールド全部を触って発見できるかどうか。発見できずに落ちた選手もいて、発見できるかどうかの差は、視覚障害の選手にとって重要な勝負どころ。

ビーチ:オブザベのとき、サイトガイドと黒い大きいボテを“でべそ”って言っていた。

マーシー:そういう表現で登り方が変わってきますよね。

ビーチ:會田祥くん(B1)も困っていた。サイトガイドの田中星司さんが、その“でべそ”ホールドを「“ピザ”が4つに切られていて、それがちょっとずつずれていて、真ん中に四角い穴があるんだよ」って。そのズレが微妙なズレなんで表現しづらかった。祥くんが「どういうことですか!?」って。僕のサイトガイドは丁寧に説明してくれたんだけれど、祥くんのサイトガイドの田中さんは「わかるでしょ!」って冷たかったみたい(笑)言葉では通じない難しさがあった。手順を覚えるのに、“ピザ”で分かれてる部分を、東西南北で表現して、「西、東、北、北、北だから!」みたいに言ってた。“風車”っていう表現もあった。

大沼:僕は“手裏剣”のイメージでした。

ビーチ:視覚障害の決勝の“きのこの傘”みたいなホールドが、オブザベの段階で物議を醸していた。

視覚障害クラス決勝で選手たちを惑わせた“きのこ”ホールド

ビーチ:あれを大きくピンチするんじゃないかとか。みんなそこでドギマギしていた。

マーシー:あれは謎だったと思う。実は、あの裏に鉄骨が壁から出ていて、それを隠すためだけのホールド。

ビーチ:なるほど、そういう裏話があったんですね。文字通り“裏”に秘密があった(笑)みんな騙された。

大沼:高野さんから質問。「日本のパラクライミングの課題は何ですか?どうしたらレベルが上がると思いますか?」

マーシー:人それぞれだと思う。障害あるなしにかかわらず、クライマーとしてレベルアップをしていくことが大事。

大沼:どれだけ登るか、ホールドに触れるかでも変わってきますよね。

▼競技人口を増やすために

マーシー:競技人口を増やすことで全体のレベルが上がるっていうことは確実にある。普及活動は、僕も含めみんなで協力してやっていきたい。同じクラスで戦う選手が増えれば増えるほど「負けるわけにはいかない、もっと鍛えなきゃ」っていう競争が絶対に生まれてくる。

大沼:AL1の選手とか、RP3の選手とか、バチバチしていますよね。僕のクラスは選手が少ないから競争があっていいなあ。パラクライマーを増やす意味では、体験する機会をもっと設けられたらいいなと思っていて。今回、ファンクラスができたのは、その一環だと思う。

新設されたファンクラス

マーシー:ファンクラスの選手とも少し話をしたが、次の3月のジャパンシリーズ第2戦に出てみたい、という声もあったので、そういうところから少しずつ増えていけば。

大沼:大内秀之さん(AL1)がキャンパラバトルというのをやっていたり、来月11月に自分のジムでも、渡邉さんのドキュメンタリー映画の上映を企画させていただいていて、その中でもパラクライミングに触れる機会が増えたらいいなと。

車いす選手によるコンペ「キャンパラバトル」

渡邉:やりたいことをやってみた、そして楽しい時間を過ごせたという記録を、クラウドファンディングで映画にしてもらったので、それを見てもらうことで、自分の可能性を広げるという喜びを伝えるツールにしたいと思っていて、何か所かで上映会を続けていきたいと思っている。映画をチャリティー上映して、私と同じ小児がんの子どもたちが可能性を広げてもらえる機会につなげていきたい。小児がんの子や義足の子をクライミング体験会に招待したい。

マーシー:全くクライミングに関わっていない子を誘えれば、それだけでもぜんぜん人口が増えていきそう。

渡邉:何がしたいか分からないけれど、何かしたいという子に対して、クライミングという選択肢を提示してあげたい。そういう選択肢はいくつあってもいいなと思った。

大沼:自分のクラスの場合は、自分と同じような人が周りにいないので、力技で増やしていくしかない。自分は医療関係で働いているが、整形外科で働いているときは声掛けをしていた。 

マーシー:退院するときにもう一声掛けて力づくで誘う!

▼ワールドカップを意識した課題づくり

大沼:岡田卓也さん(RP1)からの質問です。「IFSCが出しているルートセッティングのガイドラインは参考にしているんですか?」

RP1の岡田選手

マーシー:目は通していて、最低限、則らなければいけないところは則っている。ただ“日本の選手がワールドカップに出たときに対応できる”というのが、僕の中のテーマとしてあって、それに向けた選考大会なので、そのことを意識してルートを作っている。

大沼:ルートセットにおいてもレベルが上がっているなと感じます。

マーシー:ワールドカップの動画を見ていると、そっちにどんどん近づけていきたいなと思っている。

ビーチ:ワールドカップの課題もマーシーさんに作ってほしい。

マーシー:やっぱり目の前で見たいっていうのはある。動画越しだと分からない部分もあるので。

ビーチ:国にもよるけれど、たまにひどい課題もありますよ。

大沼:おもにヨーロッパの国ですよね。

ビーチ:そうそう、雑だなーっていう。

選手が登れるグレードはふだんから見ている?

マーシー:めちゃくちゃ見てます。こんな登りをしているっていうのをメモって情報を蓄積させていく。

ビーチ:じゃあ得意・不得意はバレてるわけですね…

マーシー:メモってます。

ビーチ:やばいな、マーシーを怒らせると、ビーチ潰し課題ができる…

大沼:高野さんからメッセージ。「SNS止めようかな」。みんな警戒している(笑)

マーシー:参考情報がなくなっていく。

ビーチ:大沼さんは足が上手な選手なので、足を潰せば落とせる!手に目が行きますけど、実は足の人なんですよね。

大沼:手で止めているというより、足の親指でムーブを作り上げている感じ。

ビーチ:なのでマーシーさん、親指を使わせない課題をお願いします。

パラクライミングで、リードの課題は出てこないのかな。技術的には難しいかもしれないけど、RP3の選手はぜんぜん問題なくできる。いつかリードの課題が出てきたらいいな。

大沼:ボルダーの大会があってもいいなと思う。

ビーチ:視覚障害クラスは花形を飾っている。いちばん難しい課題を登れるクラスでありたいと思う。そういうクラス同士の争いがあっても面白い。祥くんが13台を登れるようになっているし、一般と同じレベルに行けるのはいつになるかな。クラックとかジャミングとかのムーヴを入れてもらっても面白いかも。ワールドカップでもまだ見たことない。でも、それをやったら祥くんの独壇場になるか…

日本代表の阿部桃子選手も興味を持ってくれて、AL1のルートをキャンパで登ってくれていた。

マーシー:視覚障害クラスの壁も目隠しで登ってもらった。

ビーチ:そういうのをエキシビジョンとして組み込んでもいいかもしれないですね。一般の日本代表選手にも登ってもらいました、みたいな。

マーシー:そういう話も出ている。

ビーチ:盛り上がりそうですよね。

そろそろ広島での日本選手権のイメージも始めている?今回はどこのクラスをいじめようと思ってるんですか?

マーシー:選手の情報は着々と蓄積しているんで。

大沼:広島の壁は傾斜があって、そこで毎回落とされている。来年3月の広島大会、楽しみにしています!

(了)

広島大会の傾斜のあるルート壁

▼障害別クラス分けについてはこちらの記事を↓

▼“パラクライマー”大沼和彦【日曜日のインスタライブ】22年10/16

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