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正しく置くとはなにか?/ファ○○○への誘い

本記事は2つのテーマを取り扱います。前半と後半は全く別の内容ですので、興味がある方だけでもぜひ読んでいってください。

第一部:序文

オリエンテーリング愛好者の皆さま、こんにちは。突然ですが、初心者に最初に指導するとき、教えることはなんでしょう?
直進?コンタリング?だとしたらあなたは相当な狂人です。誰もが最初に学ぶ基礎中の基礎、正置。ところで聞きますが、あなたは本当に「正しく」置けていますか?

 自己紹介が遅れました。入間市OLC所属、佐藤遼平と申します。昨年一昨年もadvent calendarには記事を投稿させていただきました。この界隈において一定以上の成績を残すとついてくることの一つに、「指導」「講習」があります。これまで様々な場所で「トレイルランナー」「中学生」「大学1年生女子」「学生トップ選手」などに対しての指導の機会をいただいて来ました。その中で気づいたとっても大切な一つのこと、そして意外と盲点なことについて書こうと思います。

第一部 1章  トレイルランナー出身選手はなぜ速くならないのか?

 しょっぱなから喧嘩を売ってすいません。ただ私はずっと疑問でした。トレイルランナーからオリエンテーリングの世界に入ってくる方々は抜群の基礎体力を持ち、オンライン講習の機会があればいつもいらっしゃる熱意も持ち合わせています。ですが全日本などの成績を見てみると、同世代の学生時代からの「純」オリエンテーリング選手に対しては後塵を拝し、ミス率20~30%がザラです。大学生では2年生から活躍する選手なども多いのに不思議でしょうがありませんでした。
 最近になって気づいたのは彼らの技術は「違法建築」になっているのではないかということです(※あくまで憶測です、すいません)。皆さんはこんな会話をオンラインイベントで聞いたことがありますか?

村○さん「今回のレースは何を意識して臨みましたか?」
小○選手「そうですね、今回のレースはしっかりと正置することを意識して挑みました。それが今回の結果に繋がったんじゃないかなと思います。」

…聞いたことがないですよね。明確な指導者のいないこの界隈において、彼らの先生は偉大なる選手たちであり、また偉大な選手達の提供してくれる情報は、「プランの最適化」「スピードの維持」「ミスの最小化」など非常に高度な話です。しかし受け手はこれらの話を自分の技術に積み上げていってしまう。正置はできているつもりになっている。

 そして完成するのが、土台の柱が地面に刺さっていない家のような状態だと感じています。逆にではなぜ土台が完成しにくいのでしょうか?次の章では別の切り口で切り込みます。


第一部 2章 なぜ東大OLKの選手は速くなるのか?

 私の所属していた東大OLKは何十年にもわたって強豪クラブで、世界に羽ばたく多くの選手を輩出しています。同時に多くの選手をインカレのエリートに送り込む層の厚さを持ち合わせています。でもその実態は...いやースポーツ選手としては酷いもんですよ。月100キロすら走らねえエリート選手。インカレでの熱い思いを部誌に書いたと思ったら翌週にはもう忘れている。合宿に行けば練習にいかずに拠点でおしゃべりしてる。
 まあ仕方ないですよね。学生には誘惑が多いし、やりたいこともたくさんある。オリエンテーリングがどうしてもやりたくて入った選手というのは少ないでしょうし、サークルの雰囲気が好きで続けている選手も多いでしょう。それでも気づいたら厚い選手層を手に入れている。それはなぜでしょう?指導者が優秀だから?バカ言っちゃいけません。理由は簡単。「反復」が全てです。
 
 学生チームの最大の利点は、社会人が「大会」で練習することが多い中で内部の「練習会」が豊富にあることです。特にOBOGの人数が多く運営体制・ノウハウの整っている東大OLKではなおのこと。私は学生4年間、年間80レースほどの計時レースの機会を得て毎年50時間の練習時間を積み重ねました。

 そして練習会では一日何レースもできます。1レースでの正置機会を50回としたら、一日150回はできます。年間だと5000回やることになります。高度な技術はそれをやろうと思わないと成長しませんが、正置だけはやらざるを得ません。この反復の中で、正確な正置能力が身についていき無意識領域に落とし込まれていく。

 その結果としてある程度の土台ができレースをまとめられる選手が完成していきます。男子が女子より早く技術的に成熟していくのは、早くから高い正置能力の求められるコースに放り込まれることが理由なのでは?とも思います。こういうこともあって、私が学生のコーチをやっていたころは技術的指導よりも、参加したくなるチーム作りを意識してやってきました。

第一部 3章  正置を勘違いしてはいけない。

 ここまでを読んで憤慨してる方もいるかもしれません。「正置なんて基礎中の基礎だろ!できるわバカにすんな!」と。いやいや、この話は関係ないなって思いながら読んでる選手のほとんどが正置をマスターしてはいないと思いますよ。学生トップを指導してても出来てないと思うことは多いし、私のミスもだいたい正置が出来ていないからだと思っています。

そもそも正置とは…
× コンパスを用いて進行方向と地図を合わせること
○ 自分の進みたい方向に地図の角度が合っていること
です。さらに言えば、進行方向に見えるものと地図上の正面方向の情報が一致していることです。なんか難しいことを言っているようですが、


ポイント① 進みたい方向を向く・地図上で進みたい方向を正面に置く

ポイント② コンパスで向きを補助する

ポイント③ 見える情報と地図の情報が合っている

の3ポイントで構成されていることで、理論上これらができていればミスはルートチョイス以外では全くしません。

 また、正置はポストやCPでやるものではなく常に必要な技術です。走りながら方向が変わったら見えているものと合うように地図をまわす。分岐が出てきたら正しいと思う方向を向いて奥に見えるものが正しいかを確認する。ただ、これをずーっとやっていると時間がかかるから、速い選手ほど「プランを覚える」「直進で方向転換をなくす」「簡単な区間を無視する」ことで正置ができていなくてもなんとかなる区間を作っていくのです。

 結局のところ、ずーっと正置ができている状態が保てるようにならないとその上のステップには進めないのに、「プランを覚える」「直進で方向転換をなくす」「簡単な区間を無視する」を早くからやろうとして苦戦する選手は多いです(脚が速い選手とかに多いかな?)。


第一部 4章  正置ができていない選手はなにができていない?

ポイント① 進みたい方向を向く・地図上で進みたい方向を正面に置く
ポイント② コンパスで向きを補助する
ポイント③ 見える情報と地図の情報が合っている
の3要素では①と③が重要です。②はあくまで補助であるという意識を持ちましょう。

 特に③をできない選手のなんと多いことか。自分の進む方向が合っている保証のないまま進んでしまう。間違ったことをするとき、必ずなにかの違和感はあります。当然世界に一つとして全く同じ景色の道の分岐はないし、全く同じサイズ・形のピークはありません。
 しかし残念ながら、人は自分の考えているルートをもとに、次の分岐右だから…、3つ目の沢…と上っ面のプランだけで全然違う景色を切り進んでいってしまいます。方向転換の瞬間の正置が全くできていない。

 突然話は変わりますが、工場の安全管理の考えで「安全ヨシ!」「指差呼称」というものがあります。左右正面の安全が確保されている上で動き出すことの重要性を示すもので、これはオリエンテーリングにおいても当てはまる考えです。方向転換の瞬間というのはその先のリスク管理ができていない状況です。その時に正置ができていなかったら...そりゃミスしますよね。ある程度のリスクは追わないとダメだろ!という声が聞こえてきそうですが、それはリスクレベルのわかる責任者レベル(エリート選手)の話です。だいたいの選手はそこにどんなリスクがあるかはわかっていません。ミスをしないことが重要なオリエンテーリングにおいて、リスクが分からない人は極力それを避けるべきです。方向転換において③見える情報と地図の情報が合わせることは絶対に意識してほしいですね。


 次に進みたい方向を向く・地図上で進みたい方向を正面に置くについて。あなたはよく見ませんか?ポストで脱出するときに180度近くぐるっと回りながら正置している選手。ポストだけじゃありません。道の分岐に棒立ちして、うーんと考え込んでいる選手。これらは正置について非常にもったいないことをしています。

ミス防止例1
1,次のプランは分岐を右に曲がること
2,分岐についたので分岐の右方向を向く・地図を道の続くほうに合わせてまわす
3,コンパスで補助して正置してみる
4、ん?進むはずの道と、自分の向いている道の方向があわないぞ?

ミス防止例2
1,ポストに着いた。だいたい次のレッグ方向は来た方向から斜め左か。
2,斜め左を向く・レッグ線方向に地図をまわす
3,コンパスで補助して正置してみる
4,あ!下りだと思ったけどこの斜面登りだったのか!

 ここにおいてポイント①の要素はそれぞれの2,の項目です。コンパスを振る前に目的の方向を向くことを意識してください。その方向を向くだけでいいんです。

 進行方向にだいたいの目星をつけておくことにより、コンパスで補助した際にミスに気づけます。だって、進みたいと思った方を向いて、コンパスが全然違う方向差したら誰だってミスに気づけますよね?進みたい方を向いているはずなのに、見たいものがなかったら気づきますよね?

 コンパス主体で正置をしようとするから、逆正置したり、何を見ればいいか分からなかったりするわけです。

ここまでをまとめると、
(1)進みたい方向を向く・進みたい方向に地図をまわしてからコンパスを振る
(2)出来る限り(方向転換時は必ず)景色と地図を合致させる

が重要な要素となってきます。ではどうやったらできるようになるかを最後の章で考えていきましょう。

第一部 5章  じゃあ正置できるようになるにはどうしたらいいのさ!

 結論から言いましょう。2章に戻ります。正置ができるようになるためには反復が全てです。大会じゃなくて練習会・合宿の機会を選びましょう。幸い、サマチャレや山川Dreamなど、以前に比べて学生以外にも練習機会は開かれつつあります。

えっ?そういう話じゃない?では、実際に練習の機会を得たとき、以下の4つのやり方を試してみることで、練習機会の不足は補えると考えています。

・動作の反復練習
①ポストに着く
②脱出方向・次の進行方向を向く
③絶対に地図を見ないで行ける次のCPまでをプランする
④コンパスで方向を調整する
⑤脱出して地図を見ないでCPまで行く
⑥CPに着く
以下②~⑥を繰り返す。

シンプルなようでとても難しい練習です。③がカギで、自分のレベルにしっかり合わせて行うことが重要です。最初は「次の道の曲がりまで進む」とかでいいぐらいです。
で、一番重要な技術が②。上手になってくると、④のコンパス修正はほぼ要らなくなってくるはずです。この練習でミスをするということは③の組んだCPまで、今のあなたの正置の能力では繋げないということ。

・コンパスなし練習
 コース1本コンパスなしで走ってください。スピードは遅くて大丈夫です。正置の練習とは矛盾するようで、一番正置の練習になります。これはポイント③の練習ですね。コンパスをたよれないので、常に自分の進行方向に地図で捉えているものが見えていないといけない。=常に正置ができていないとミスに直結します。経験のない選手は地図から実際の地形をイメージする能力が低いのも、正置が難しい理由の一つですが、その能力も身に着くでしょう。

・地図をちゃんと折る練習
 集中するのは地図をしっかり折ること。他は普段通りでコースを周ってください。ただし重要なのは、自分がこれから進む地図上の部分に集中できる状態で地図を持つこと。
 大きすぎてすぐにそのエリアが見つからない様ではダメですし、小さすぎて隠れてしまうようではダメ。もちろんくしゃくしゃで何が書いてあるか見えなくてもダメです。パッと地図を見た時に指で抑えている箇所周辺に必ず見たいものがあると、正置がとてもスムーズになります。

・爆速逆ランオブ
 自分より速い選手の練習についていきましょう。その選手がレースしている間はプランもなにもしなくていいです。ただ一生懸命ついていった上で、できる限り正置ができている状態を維持してみてください。最初は難しいと思いますが、これができると自分のレース中はずっと正置がやりやすくなると思います。


 以上、いかがでしたでしょうか。正置技術は一見シンプルなようで、とても奥が深いです。一方でこれを極めればそれだけで日本のトップを目指せるような魅力を秘めていると感じています。皆さんも来年は正置を意識して楽しいオリエンテーリングライフを!

そういえば…実は正置の練習になるチョー魅力的な練習法があるらしいですよ。以下、第二部となります。

第二部 ?????のすゝめ

 改めましてオリエンティアの皆さんこんにちは。ファシュタが好きすぎて自分の立ち上げた情報誌の名前をファシュタにしちゃったオリエンティア、ファ藤遼平と申します。主な実績は、東北大合宿ファシュタ5年連続参戦などです。

知らない人向けに…ファシュタとは、一斉スタートで行う練習メニューです。リレーのようにコースは何パターンかに割り振られます。コースは何箇所か集合箇所が設けられ、再集合してまたスタート、を繰り返します。東大OLKでは何段階かのレベル別でウェーブスタートを行い、後ろから速い選手が追ってきます。

 今の学生オリエンティアは合宿機会が少ないでしょうし、社会人オリエンティアにはなかなかファシュタをする機会がありません。この世の中がもっとファシュタであふれるように、布教するためにこの記事を書きました。広がれファシュタの輪!

 以下、物語はある合宿でのファシュタとなりますが、これまでファシュタで私が仲を深めてきた幅広い世代の先輩・後輩の皆さま(通称ファッ友)が登場します。ようするにフィクションなので、その辺を気にしない方だけお読みください。

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 合宿3日目。これまでの練習で疲労はピークに達し、身体のあちこちが軋む音を立てる。それでもかの時は否が応でもやってくる。PM2:00、その時まで、あと15分。
 皆、それぞれの個人練習を辞めて集合場所に集まってくる。もう体は暖まっているはずなのにその時に向けて、優勝したらすぐツイートする後輩Tがアップに向かっていく。
インカレチャンプMは、「いやー今日はもう身体動かんよ~」と誰も求めていないハンディキャッピングをしている。嘘だ、絶対速い。むかつくのでMのもとを離れ参加を躊躇っている女子に声をかけに行く。「え?ファシュタやらないの?」「いやーどうしましょう?」「これやると速くなるよ」麻薬に誘うような呼びかけだが、あながち間違っているとも言えない。OLKはファシュタで強くなる、私はそう信じて疑わない。

 10分前、これまであんなにはしゃいでいた人たちのテンションがなぜか低い。朝は「ファー」「ファーwww」って盛り上がっていたというのに。そりゃそうだ、だってファシュタ辛いもん。これまでの辛い経験が脳裏にフラッシュバックする。誰かが言っていたファシュタは二郎系ラーメン、的を射た表現だと思う。

 5分前、地図が配られる。そうすると場のボルテージはまた上がり、なぜか皆その場で足踏みを始める。迷っている1年生に強引に地図を渡す、ごめんな。そしてこっそりデフだけ見て、距離を確認する。3.9㎞!!!嘘だよ長すぎるよ。OLKにはまた、「ファシュタは2㎞」という格言が存在する。これはたぶん、どんなに疲れていても2㎞なら頑張れるから死ぬ気で走れってことなんだと思う。現実逃避というけど、今日は私もそれにのっかる。あと2㎞頑張れば終わる、あとたったの2㎞...。ああ、本当にやりたくないなあ...。

 3分前、スタート地区へ。参加者が4つぐらいのグループに割り振られる。1つ目は女子と1年生男子、2つ目は非インカレエリートの男子と女子トップ選手、3つ目はインカレエリートと引退しかけのOB、4つ目は学生を代表する選手とまだ速いOBとかのことが多い。1分差の時間差でスタート、タイムキーパーは4グループ目のOBが務める。
 ここでまた駆け引きが始まる。脚自慢のM選手が「お前らスタートはゆっくり出るんだぞ!!」とか言ってくる。「ゆっくり行きましょ!!」って返しておく。たぶん残念ながらそうはならない。

 そうして5秒前。4,3,2,1,スタート。1つ目のグループ15人ぐらいがわらわらとテレインに散っていく。1年生と女子だから、脱出もゆっくり。先頭でエリート経験ありの女子Nが後輩男子をひきつれ飛び出し歓声があがる。数人が突拍子もない方向に踵を返し走り出しどよめく。きっとあれは道大回りを選択した選手達だろう。

 1分がたち、第2グループがスタート。ここが一番タチが悪い。ファシュタを中途半端に知っているから、ろくに地図を読まずに全力疾走で飛び出していく。まるで石をよけた下の虫が散っていくかのように思い思いの方向へと走っていく。

 第3グループが走り出して1分後、いよいよ私もスタート。ポスト位置を雑に読んで走り出すと、後ろから猛然と抜いていく人の波。当然脚自慢のM選手もいる、やっぱり。ラスポゴールのような勢いで飛び出したのに、足下には倒木やツタだらけ。この恐怖、さあファシュタが始まりだ!1ポまでは下り、今日一日練習したテレインなので大体のポスト位置はわかる。全力疾走のはずだが皆速すぎて前を抜けない。足下も、ナビゲーションも限界ギリギリで走り続ける爽快感、ここだけは何度やってもたまらない。

 そうして1ポをパンチ。前に第3グループが見える。順番に追い抜きながら更に前のグループを捉えていく。まさにごぼう抜き。箱根駅伝の留学生と俺らしか知らない感覚。だが少しここで冷静に減速して、この後に備えて地図の先読みをしながら前の選手の陰に入る。私の勝負レッグは2-3、ここで先頭に立つのだ。

 人につく形で2番ポストに着く。ん?なんか違わね?…まさかの隣接コントロールである!!
 周りにも困惑している選手が数人いる、ニヤニヤしながら冷静さが武器の後輩Aが抜いていく。どんどん抜かれていくけどリロケートしないとやばい。どこだここ…2つ隣の沢じゃん!!自分のヘタさに絶望しながら大急ぎで戻る、そして2ポへ。全然人がいない。後ろにも数人しかいない。間違いなく、さっきのコントロールで隣ポに気づかず進んでいる人間がたくさんいる...彼らを恨みつつ、勝負レッグだったはずの2-3へ。

 2-3は登り基調のレッグ。中盤には壁のような斜面を登る。爆速で展開する序盤から一気に減速。しかし歩こうものなら後ろから怒号が飛ぶ。
「走れ!!!!」「歩くな!!!」「あああああ!!!」「佐藤ゴラァ!!!」
怒号の中を切り裂き、時に自分も怒号を飛ばしながら人をパスしていく。面倒見がよく温厚といわれているキャプテンを抜き去る。「○○(本ファシュタのコースプランナー)死ねぇ!!!!!」…えっ??
昔偉大だったOBが人に走れと叫びながらふらふら歩いている。途中で転んだ人間の叫び声が遠くから聞こえる。1年生が地図を右手に握りしめている。

 そうして3ポをパス。3ポからは見通しの良い下り斜面で連なる選手が見える。おあつらえ向きの下り坂だ。

 普段のレース、下りというのはナビゲーションリスクがあるため意図せず自分にリミッターがかかる。ファシュタにおいてはそのリミッターは必要ない。とりあえず一人でも多く前の人を抜けばいいだけだから。覚悟は決まった、恐怖は捨てた。100メートル走のようなフォームで斜面を駆け下る。足を置いた先に倒木がないことを祈る。あったら偶然乗れることを祈る。一瞬だけ飛んでいるような感覚を味わうが下りは終わり、前から4番目。先頭が見えた!!!

 …というところで4ポにつき、1クール目が終わり。OLKや東北大のファシュタは1~3回の休憩箇所を途中に挟む。早くゴールできるとたくさん休憩できるので良い。体力自慢の同期同士の最後の抜き合いに場が盛り上がる。予想外に速く帰ってきた1年生が先輩にかわいがられている。今回は休憩は1回だけ。勝つチャンスはあと1回。優勝bot T、絶好調男O、道走りマンMに次は勝たねばならない。ただわかっていることは...フィニッシュは今いる場所より高いところにあるという悲しい事実だけである。

 わずかな休憩を終え、第2クールへ。スタート時より人が減っている気がするが、これもまた定めである。第1グループのスタートの数秒前、1人の1年生が帰ってくる。皆から歓声で迎えられつつ、そのまま休憩なしでスタートしていく、かわいそうだがこれもよく見る光景なのだ。前半で速かった人は後ろのグループに下げられる。こっそり前のグループに移動しようとするOBの服をつかんで引き戻す。ファシュタに甘えたやつはいらないのだ。

 そしてまた第4グループもスタート。さすがに最初ほどのスピードはないが、悲鳴をあげる身体にはつらすぎる。一つ目のコントロールは有利パターンらしく、他の第4グループの選手より前で取る。どうしよう…まだ地図読めてないんだけど。本来ここで地図を止まって読むべきではあるが、ファシュタにそんな余裕はない。走りながら要所だけ地図から情報を抜き取る。そしてちょっとツボり何人かに抜かれる。

 着いた2つ目のコントロールにはファシュタに参加していない他のメニュー中の1年生。襲い来る人の波にどうしていいかわからずポスト前で身を小さくして棒立ちしている。あの子やめないといいな、そんなことを考えながら次のポストへむかう。ポストはあと3つ。登り→登り→平坦→道走りでゴール。この登りは粘りどころ...ほんっとうにしんどい。合宿3日分の疲れ、さすがに皆走れず歩いている。

 もうゆっくり歩いてもいいかな...?そんなことを考えると背中に人の気配。猪突猛進系女子Aがぴったりとついてきている。登りの前に抜いたはずなのに。女子に負けるわけにはいかない、そんななけなしのプライドとともに最後の力を振り絞る。だがAは離れない。
少し斜面が緩くなったところ、頑張って突き放してポストへアタック。Aは離れた。次の斜面でほっとすると油断ゆえか脚を攣る。限界か。しかしここまで頑張ってきたのにやめるわけにはいかない、精神力だけで走る。前に人は見えないけど、「走れ!!」と自分に対して怒号を飛ばす。
そうして2番手で最後のレッグ、前には絶好調男Oのみ。とても簡単なレッグで抜くのは無理か、もう今日は無理なのか?一縷の望みに賭けて前を追う。すると前のOの脚が鈍る。私も進もうと思っていた斜面、思ったよりずっと足場が悪い。チャンスはここだ!!

 遠回り覚悟で道に出て全ての力をもって走りぬく。ラストコントロールを先頭で取り、無心で拠点まで道走り。後ろももう限界!!勝った!!

 拠点にはファシュタに参加しなかった人がいて、ニヤニヤしながらこっちを見ている。勝者の特権として、最後まで後ろから来る選手達に檄を飛ばす。気持ちがいい、これが最後までやりぬいたご褒美なのだ。つぎつぎとゴールした選手達と健闘をたたえ合う。「まじか~」「最後抜けると思ったんだけどな~」そう言う人々の表情は明るい。「あっオレペナじゃん!隣ポ取ってる!」そう言う選手の表情すら明るく、その選手をみんなで笑い飛ばす。この全員が達成感で一つになれる瞬間が、私がファシュタで一番好きな時だ。表現しようもないほどの達成感と、出し切ってボロボロの身体の中で、合宿は終わりを告げた。

…はずだった。

ポスト撤収管理担当N「いや合宿終わってないですよ~。コントロールの撤収行ってくださ~い」
いやもう勘弁してください...。

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以上しょうもない文章をお読みいただきありがとうございました。まじめな文章より書いてて楽しいですね!


まじめな話をするとファシュタは、
1、ハイスピードの中での正置能力が鍛えられる
2、不整地を走る恐怖心がなくせる、走りながら地図を読む能力が身に着く
3、ミスのあとのリロケート能力が鍛えられる
4、不整地を走る技術が身に着く、人の技術が見れる

など他の練習ではできないことがたくさんあり、とてもおススメの練習ですので、さまざまな練習機会で開かれてほしいなあと思います。

あと持病が治る・宝くじが当たる・彼女ができるなどの報告もありますがこちらは真偽不明ですのでご了承ください。あと中毒性がございますので用量用法を守ってご利用ください。

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 そして、ここまでで筆を置かせていただきます。駄文をお読みいただきありがとうございました。皆さんよいお年を!!

↓ファシュタの一例。このファシュタはスタートの勢いが足りない。


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