虐待をなくす、僕なりの方法。
みなさま、いつも本当にありがとうございます。
今日は号外をお届けします。
おかげさまで、僕が長年温めてきた思いが形になってきました。
大学生のときに人形劇をはじめて、はや35年。
その経験の中で学んだことを全て入れ込んだ「パペット・カウンセリング」がスタートします。
それは、かわいいお人形を使い、特に若いお母さんの悩みや不安、孤独や怒りを取り去ることを目的としたプログラムです。
え? 人形で?
はい、人形で、人間の孤独や怒りが消すことができるのです。
これはまだ日本ではあまり知られていませんが、欧米では学校教育に取り入れられているカウンセリング手法です。
迷子になった自分の心を、本来あるべき場所に戻すことができる、と言われています。
八幡様:「・・・で?」
僕:「で?」
八幡様:「おやおや、また基本を忘れていませんか? 考えていることを誰かに伝えるなら、6W・・・?」
僕:「6W1H1Rっ! 出します! これです!」
いつ(When)→ いまから
どこで(Where)→ オンラインで
誰が(Who)→ 僕と仲間たちが
誰に(Whom)→ 悩めるお母さん方に
何を(What)→ 魔法のアニミィ人形を
なぜ(Why)→ お悩み解決のために
どのように(How)→ 販売します
どうなったか(Result)→ ???
八幡様:「Resultは? どうなりたいのですか?」
僕:「これは少しきつい言葉なので、あまり使いたくはないのですが。」
八幡様:「遠慮してはいけません。解決したい社会問題があるなら、堂々と言えば良いのです。」
僕:「はい。ここだけの話、僕がいま一番解決したいのは、虐待です。虐待を、なくしたいんです。」
八幡様:「なるほど。『虐待のない未来を作りたい』のであれば、パペット・カウンセリングが生まれたあの出来事をお伝えしてはいかがでしょうか。」
僕:「ゆきちゃんのことですね。。。あの事件は、ちょっと衝撃的な内容でもあるので、公開することを躊躇していました。」
八幡様:「大丈夫です。アニキがここまで強い使命感を持つきっかけとなったあの学びに満ちた事件を、個人情報には注意しながら、できるだけ詳しく書いてください。」
僕:「わかりました・・・。ではみなさま、なぜ僕がパペット・カウンセリングを志したのか、ここに記します。僕の過去を一緒に旅して、なにかを感じていただけると嬉しいです。」
ゆきちゃんの痣(あざ)
30年ほど前の話になります。
僕は大学1回生の秋から、3回生の夏休みが終わるまで、大阪で学童保育のアルバイトをしていました。
大好きな子どもたちと触れ合える時間は、本当に楽しくて、宝物でした。
施設は小さなプレハブを繋ぎ合わせた形で、靴を脱いで入れる、純和風の建物です。
それは地域の皆さんで建ててくださっていて、主に共働きの親を持った1年生から6年生までの子どもたちを預かっていました。
先生は、僕と、主婦の吾妻(あづま)先生(仮名)、そして代表の山下先生(仮名)。この3人がメインで、毎日勃発する様々な事件に対応していました。
2回生の冬のある日、吾妻先生が、小学校4年の女の子、ゆきちゃん(仮名)の肩を抱き、僕のところにやってきました。
ゆきちゃんは4年生にしては背が高く、おしゃれ好きで、少し大人びた子でした。お友達はいっぱいいるようで、見ていても安心な印象があります。
吾妻先生は突然、ゆきちゃんの袖をめくって僕に見せました。
さらに、太もものうしろ、脇腹、足の爪を見せます。
なんとそこにはすべて、痣がありました。僕は絶句してしまい、驚きの表情を隠すことができません。
ゆきちゃんは、そんな僕たちの反応はあまり気にしていないような顔ですが、目は合わせず、何も言いません。
そしてしばらくすると、吾妻先生の手をパッと振り払い、違う部屋に行ってしまいました。
取り残された僕と吾妻先生は、顔が真っ青になっています。
僕:「吾妻先生。あれって・・・。」
吾妻先生:「ですよね。。。」
あの痣は、転んで怪我をしたレベルではありません。明らかに、虐待です。
僕たちは、午後から出勤してくる主任の山下先生のご意見を仰ぐことにして、暗い気持ちで待っていました。
施設の中はいつもと変わらず、子どもたちの元気な声が響いています。しかし、僕は暗澹たる気持ちです。いつも元気な僕も、さすがに笑顔が出てきません。
それに追い打ちをかけるように、
吾妻先生:「鈴木先生、もうひとつ、相談があるんですが。」
僕:「何でしょうか。」
子どもたちが入ってこない小さい部屋に入り、小声で喋ります。
吾妻先生:「ゆきちゃんはたぶん、万引きしてると思うんです。」
僕:「ええっ!」
吾妻先生:「この前見たのは、小さな指輪で、まだ値札がついてたんです。他にも、香水だったり、口紅だったり。なかなか高そうなものを持っていたりするんです。で、それをお友達にあげてるんです。」
僕:「それ、本当なんですか・・・?」
吾妻先生:「はい。そのお友達が心配して私に相談してきてくれたので、確かです。。」
思ってもみなかった事実が重なり、僕の動悸はありえないほど早まっていました。これは僕にとって完全にはじめてのケースです。
僕は、痣の理由を考えました。
ゆきちゃんの親が、ゆきちゃんの万引きを改めさせようとして折檻し、痣がついたのではないか。
しかし、それにしてもあそこまでの痣を作るとは、行き過ぎている話です。
そこで山下先生が出勤してきました。山下先生は男性の元教師で、定年後にこの学童保育をはじめた教育のベテランです。
事情を詳しく話すと、
山下先生:「警察かなあ・・・。」
僕:「え! これって警察ですか?」
吾妻先生:「その前に、児童相談所ではダメでしょうか。」
山下先生:「うーん。児相はこの辺、まだ弱くて、強制力もないし、問題解決にまで至らへんケースがあるんよ。ここは一気に警察に行った方がええと思うな。」
僕:「あの、ちょっと待ってください。その前に、事実をちゃんと確認させてください。なんだか、いきなり警察に行っても解決しない気がします。」
山下先生:「なんでや? こうしてる間にも、ゆきちゃん、心ん中で泣いてるんやで?」
僕:「・・・はい。そうですが、僕、今日、ちょっとゆきちゃんのお家まで行ってきます。」
山下先生:「そんなん、あかん。あかんで! 介入したらあかん。やり過ぎると鈴木先生が傷つくで。吾妻先生も。なんや、あんたら熱すぎて怖いわ。いきすぎると、傷つく人も増えるんやからね、ここはちゃんとプロに任せること。話は以上です。」
山下先生は、間違っていません。
ここで家庭の問題に介入することは危険です。しかし僕は、何か心の中が悶々として、動かなければならない衝動に駆られていきます。
子どもたちが全員帰った後、吾妻先生がため息をつき、僕も釣られてため息が出て、無力感でいっぱいになっていきました。
吾妻先生:「鈴木先生。どうします?」
僕:「僕たちに介入は無理ですからね。どうしようも。。。」
吾妻先生:「私、思い出したんです。ゆきちゃんの手の甲。左手なんですが、いつも絆創膏をしてるんですけど、見ちゃったんです。」
僕:「怪我してるんですか?」
東先生:「あれは、多分、鉛筆の芯が肌の中に残ってるんだと思うんです。刺されて、芯が折れて、肌の中に・・・。」
僕:「うああああああああっ!」
僕は、声にならない声を出していました。
怒りと、悲しみが同時に押し寄せてきます。ゆきちゃんの心の痛みが、僕の胸の痛みに比例している気がして、怒気すら噴出しました。
吾妻先生もこらえきれず、泣き出してしまいました。
こんな状況なのに、何もできないのか。僕は本当に、何もできないのか。
僕は、その夜、苛立ちの中で一睡もできませんでした。
翌朝、大学の講義に出席しました。が、頭に浮かぶのはゆきちゃんのことばかり。
その日の夕方、山下先生が出勤した後、警察に通報する予定なのですが、僕はそれがどうしても間違ってる対応のような気がします。
思い悩んだ末、午前中の授業が終わった後、信頼している女性教授、上野先生に相談することにしました。
僕:「先生、ちょっとお時間いいでしょうか。お昼時間にすみません。」
上野先生:「どうしたの? 今日はなんだか疲れてない?」
僕:「いえ、疲れてはいませんが、少し不安になっています。」
上野先生:「よしわかった。研究室においで。」
そう言って、颯爽と歩いていく先生の姿を僕は足早に追いました。
Jewell(ジュエル)さんの本
先生は当時、僕に人形劇のあり方や、劇中での子どもたちへの言葉遣い、さらには児童福祉の考え方や歴史を叩き込んでくれた恩人です。
ゆきちゃんのことを説明し、僕はどういう行動に出れば正解なのかを率直に聞きました。
上野先生:「鈴木君は、まだその子の内側を見てないわね。」
僕:「内側? いえ、相当暗い内側が見えています。」
上野先生:「ううん。それはまだ、鈴木君の想像でしかないし、誰かから見た事実しか見ていないと思う。
その子の心の中。本当の心の中を見てご覧なさい。寄り添って、話をして、あなたが感じる真実を見ないと、前に進んではいけません。」
僕:「本当の心の中ですか。。。あ、警察には・・・?」
上野:「早急に動かなくてはならないのは、第一に親への牽制です。これ以上、暴力で躾をしないようにしなくてはなりません。
圧力をかけるのではなく、まず虐待が犯罪であることを認識させる手を打ちましょう。
虐待をしたいと思っている親は、基本的にいません。虐待はしていない前提でお話をすることが大事です。
犯人に仕立て上げるのではなく、犯罪になっている認識を植え付けるだけです。」
僕:「つまり、気づかせるだけでいいんですね?」
上野:「最初はそれで良いでしょう。お子様に対する暴力の理由も突き止めて、原因を解決できればいいし、それができない場合の相談機関もあるから、鈴木君はその辺りは無理をせずにね。
まずは、その子の本当の心を見てあげることがとにかく大事よ。」
僕:「分かりました。でもどうやって・・・?」
上野先生:「まずはこれを参考にしなさい。」
そう言って渡されたのは、センセーショナルなタイトルの講演会のチラシでした。タイトルが大きく書かれています。
上野先生:「これね、去年私が大阪で講演した時のチラシなんだけど、このタイトルだけで、もう、わかるでしょう?」
僕は、そのタイトルを読み、児童虐待をしてしまう親の末路に大きな恐れを抱きました。
そうか。子どもが苦しいだけではなく、親も苦しいんだ。子どもを助けるためだけに動いてしまうと、どちらも救えなくなる可能性がある。
上野先生:「このチラシ、君にあげるから、いいタイミングがあれば使いなさい。」
そのチラシをいただいて、お礼を言って出ようとしたら、先生は僕を呼び止め、本棚から一つの書籍を取り出しました。
上野先生:「帰るのはまだ早い。ここからが本題よ。これ、ずっと欲しくてやっと届いた本なんだけど、この中にね。大事なことが書いてあるの。メモできる?」
そう言って、先生は蛍光マーカーでカラフルになっているページを開き、英語で読み始めました。
僕は座り直してメモをとるのですが、なぜだか全身の血が急に早く流れはじめ、手が震えてうまく書けません。
上野先生:「タイトルはね、Confronting Child Abuse Through Recreation。
これ、要は
『レクリエーションを通じて子どもと向き合っていけば、子どもの心が落ち着いていくよ』
っていう本なんだけど、ま、簡単に言えば、児童虐待にどうやって向かっていくか! という使命感でいっぱいの本なの。
※(↓)Amazonで見つけました。あくまでご参考に。
この中に、人形を使うと効果があるって書いてあるのよ。鈴木君は人形劇をしてるんでしょ? きっとその論理が使えると思うの。」
僕は、脳天にビリビリビリと雷が落ちたような感覚になっていました。背骨もゾクゾクと震えています。
今思うと、きっと魂が震えていたのだと思います。
上野先生:「作者のJewell(ジュエル)さんが言ってること、翻訳して言うわよ。」
僕はそのとき持っていた学生手帳に、先生の言葉をメモしました。
相手を傷つけない言葉を使うこと。会話の中に突破口がある。
自分の心と体を離して、心を人形に宿し、体は命を宿すための稽古をする。
相手が自分自身のことを好きになるような対話をすること。
相手に決めさせること。上から目線では、押し付けようとする強さに相手は逃げる。
相手の感情や情熱を探し当て、逃げ場を作ること。感情が見つかっても慌てることなく、寄り添い続けること。
相手の立場を考え、一段低い位置からのアプローチで人形を操ること。
どこまでも広がる柔らかい想像力と、臨機応変の対応力こそが、人形を使う時になければならない。
これらの一言一言に痺れまくる僕。
先生は続けます。
上野先生:「自分のことが嫌いな子どもの特徴として、まずは近しい人の心を傷つけて、自分の立ち位置を確認しようとするのね。
その段階が終わると、どんどん自分を傷つける方向に舵を切っていく。
周りが自分を認めなくなるようにわざと働きかけ、自分を傷つけるための手段をエスカレートさせていく。
そうなると最後は?」
僕:「え。まさかの。。。」
上野先生:「そう。自らの命を終わらせようとしてしまう危険性もあります。
自分の生き方や考え方に強いこだわりを持っていればいるほど、その選択肢を増やしてあげること。
そして明るい未来へと柔らかく導いてあげなければ、援助はできないってことね。」
僕:「選択肢を増やして、柔らかく、導く・・・。」
頭と胸がいっぱいになった僕は、先生にお礼を言うとすぐに部室に篭り、茶色い布を使い、人形を夢中で作りました。
たまたま同席していた先輩が一人手伝ってくださって、体はまんまるの、丸い目をした、おちょぼ口の人形が完成しました。
大きさは子猫くらいをイメージして作りました。僕はその人形を抱いて、学童へ走ります。
未来から来たホーリー
吾妻先生の顔、目の下のクマを見ると、僕と同じように悶々と苦しんだ様子です。
山下先生は、今日、子どもが帰る前に警察に通報します、と息巻いています。やはり順番が違う気がしますと言っても、山下先生の正義は揺るがせません。
時間がありません。
僕は吾妻先生に作戦をざっと説明しました。先生はゆきちゃんを別室に誘い出すことをかって出てくれました。
まずはじめたのは、子どもたちに、僕の作った人形を認知させることです。
そこにはゆきちゃんも居ますので、人形がどんな性格で、どんな喋り方をして、どんなことを考えているのかをわかるようにします。
僕は人形を丸いちゃぶ台の上に寝かせ、それをただジーッと眺めます。
すると、僕のことをいつも注目してくれているともこちゃんが、僕の目線の先にある人形に興味を持ち始めます。
ともこちゃん:(人形と僕を見比べながら)「ねね、これ、だあれ?」
僕:「あ、ともこちゃん。この子、わからへんねん。なんか、ずっと寝てんねん。」
その声にざわざわと反応し、近づいてくる子どもたち。
僕:「おい。起きろ。もう何時やとおもてんねん。」
ともこちゃん:「なあ。起きい! ちょっと!」
人形:「ん? ふわあああああ。おはよう。よく寝たあ。」
と言って僕の左手が人形を起こします。
僕:「おはようって。もう夕方や〜!」
子どもがゲラゲラと笑います。
人形:「あれ? ここ、どこだ?」
ともこ:(人形に向かって)「北野田北学童やで!」
人形:「北野田北? 北二つ? 変なの〜。」
子どもたちも変に思っている名前なので、ここでも笑いが生まれました。よし、つかみはOK。
ゆきちゃんも遠巻きながら、こちらを見ています。
人形はそこからも子どもたちとの会話の中で成長していきました。
未来から来た宇宙人で、名前は子どもたちにつけてもらいました。当時流行っていたアニメの主人公の名前にちなんで、ホーリー。
おちょぼ口の愛らしさと、その性格で、子どもたちにすぐに愛されました。
ホーリー:「なんだか、また眠くなっちゃったなあ。」
たけしくん:「そんならこれ、ベッドにしい〜!」
そういってやんちゃ盛りの5年生のたけしくんが、幼児用の座布団を持ってきてくれました。子どもたちは、たけしくんの優しさに、尊敬の眼差し。
ホーリー:「わあ、柔らかい。ありがとう、たけしくん。君は優しい子。君の未来は、みんなのリーダーだよ。ふわあああああ。おやすみ。むにゃむにゃ・・・。」
未来からきたホーリーの予言めいた言葉も入れ込みながら、僕はちゃぶ台ごとホーリーを持ち、誰も入らない小部屋に連れていき、そこで眠らせました。
ゆきちゃんとの会話
それから子どもたちは、いつものように、遊ぶ子、宿題をする子、絵本を読む子、けん玉を練習する子、蜘蛛を追いかけ回す子。
それぞれが自立して動き始めた頃、吾妻先生がゆきちゃんを、ホーリーが眠っている小部屋に誘導します。
小さな窓からは西陽が差しはじめ、部屋全体が赤く染まっています。
ホーリーが眠るちゃぶ台のすぐそばに、奥の部屋に続く襖があります。僕はその襖を少し開けて、奥の部屋に隠れて座りました。
襖の隙間から声だけを通し、人形は持たずに、ゆきちゃんと会話をしようと試みたのです。
吾妻先生に促され、ゆきちゃんがホーリーを覗き込みました。
ゆきちゃん:「ホーリー、まだ寝てるんや。」
吾妻先生:「起こす?」
ゆきちゃん:「おこさんでもええ。」
ホーリー:「誰? 誰かいるの?」
吾妻先生:「あ、起きちゃった。」
ゆきちゃんは口をつぐんで、寝ているホーリーを凝視しています。襖の奥でホーリーになりきっている僕は、声も変えています。
ホーリー:「ゆーきちゃん。」
ゆきちゃん:「・・・(警戒してます)」
ホーリー:「あれえ? いないのかな? 僕の夢だったの? (寂しそうな声で)ゆきちゃん・・・。」
ゆきちゃん:「・・・。」(吾妻先生の顔を見上げる)」
吾妻先生:(笑顔で)「お返事してあげて。」
ホーリー:「ゆきちゃあん。」(涙声)
ゆきちゃん:「どうしたん? なんで悲しいん?」
ホーリー:「うう。ゆきちゃん。やっぱり居てくれたんだね。よかった。」
ゆきちゃん:「なんで泣いてるん?」
そのとき僕は、本当に泣いていました。
ゆきちゃんの心の中の純粋な部分が愛おしくて、僕の体と心が離れて、人形に乗り移っています。
ゆきちゃん:「どうしたん? ホーリー。寂しいん?」
ホーリー:「寂しくて、寒くて、体が重いんだ。」
ゆきちゃん:「抱っこしてあげようか?」
ホーリー:「うん。でも、僕、お風呂に入ってないから汚いよ。」
ゆきちゃん:「そんなん、かまへんわ。」
そう笑ってゆきちゃんは、ホーリーを抱き上げた。
襖の隙間からのぞいて見ると、まるで赤ちゃんを抱っこするように、大事そうに抱き上げ、ホーリーのお腹をトントンとしてくれています。
その姿に僕はまた涙が止まりません。
ホーリー:「ああ。あったかい。あったかいなあ。ゆきちゃんは。」
ゆきちゃん:「ホーリーもあったかいやん。(体についた糸屑を取りながら)本当に未来からきたんか? ホーリー。」
ゆきちゃんが自発的に話し出したのをみて、吾妻先生は静かに小部屋を出ました。他の子どもたちのじゃまが入らないようにしてくれるはずです。
ホーリー:「未来から来たんだよ。ゆきちゃんに会いに。」
ゆきちゃん:「え? うちに会いにきたん? なんでなん?」
ホーリー:「うん。それはね。これからの未来に起きる、とっても悲しいことが起こらないようにするために、だよ。」
ゆきちゃん:「悲しいこと? うちが悲しいん? 誰が悲しいん?」
ホーリー:「みんなが悲しい。」
ゆきちゃん:「いやや。うち、悲しいのはいやや。みんなが笑っとらんと、いやや。」
ホーリー:「そう。だからそうなる前に、なんとかしなければならない。」
ゆきちゃん:「どうすればいいん?」
ホーリー:「教えて欲しいんだ。今、ゆきちゃんの中で、これは絶対に誰にも言えないと思っていること。心の中で、決めている大事なこと。それを教えて欲しいの。
僕が、ゆきちゃんの思ってることを聞いた途端、悲しいことがストップして、悪いことがなくなっていくから。」
ゆきちゃん:「ほんま? そしたら、願い事も叶えられるん?」
ホーリー:「叶うよ。ゆきちゃんがそうなって欲しいと強く思うなら。」
ゆきちゃん:「うち、お母ちゃんに幸せになってもらいたい! お母ちゃんがもっともっと綺麗になれば、オトハン(後夫のお父さん)が嬉しいから、悲しいことはなくなんねん。」
僕はゆきちゃんのその想いに言葉が詰まりそうになりましたが、なるべく口調を変えず、会話を続けます。
ホーリー:「そうか。お母ちゃんのために、ゆきちゃんは何ができる?」
ゆきちゃん:「ネックレスとか、指輪をあげる。」
ホーリー:「お金はあるの?」
ゆきちゃん:「ないから、貰う。」
ホーリー:「誰から貰うの?」
ゆきちゃん:「(声を落としてホーリーの耳元で)オトハンの金庫が、いつも開いてんねん。そこから。」
ホーリー:「ダメやん。それ、泥棒だよ。」
ゆきちゃん:「うん。何回も怒られてる。」
ホーリー:「それって良いこと?」
ゆきちゃん:「あかんこと。でも、俺のもんはお前のもんやって言ってたし。いずれうちのもんやったら使ってもええかな思て。」
ホーリー:「そのお金で、お母ちゃんは本当にきれいになるの?」
ゆきちゃん:「うん。お母ちゃんをもっと、うちがもっと綺麗にすんねん。」
僕には、ゆきちゃんの強いこだわりがそこで見えました。
Jewellさん(上野先生)に教えてもらった理論であれば、その「こうしなくてはならない」という頑固な思い入れに対して、まずは選択肢を増やすこと。
そうして気持ちを柔らかくできれば、お金を盗むことも、それを使って高い買い物をすることもなくなっていくはずです。
さらには、それが異常行動と見えている親にとっても、将来のゆきちゃんへの恐怖感が薄らいで、虐待(という名のしつけ)もおさまっていく。
そう思って、僕はこう提案していきました。
ホーリー:「今日、お母ちゃんに迎えにきてもらおうよ。だから、ここで一緒に待っていよう。僕からも、綺麗になる方法を伝えたいんだ。お母ちゃんはもっと綺麗になるよ。絶対。」
ゆきちゃん:「ほんま? お母ちゃん、もう泣かん? たくさんわろてくれるかな。」
ホーリー:「ゆきちゃんが、お母ちゃんを綺麗にする方法をわかっていればね。」
ゆきちゃん:「そんなん、わかってる。お母ちゃんはいらんっていうけど、本当は指輪をせなあかんねん。口紅ももっと赤くせなあかんし、靴もピカピカやないとあかん。」
ホーリー:「そうだね。お母ちゃんはピカピカじゃないとね。お母ちゃんが輝くようなものを、ゆきちゃんはあげたいんだね。」
ゆきちゃん:「うん。でも、、、全部、返してきなさいって言われてん。うち、お母ちゃんのためにと思ったんやけど、わかってもらえんかった。」
そう言いながら、ゆきちゃんは自分の左手の甲を触り始めた。
手の傷と、心の傷
ホーリー:「その絆創膏はどうしたの?」
ゆきちゃん:(なんの迷いもなく)「うち、失敗したら自分でここを刺すねん。バツやねん。」
ホーリー:「刺すって、針を?」
ゆきちゃん:「ううん。鉛筆。」
ホーリー:「ううっ。痛いね。。。大丈夫?」
ゆきちゃん:「大丈夫。その時は痛いで。でも、後からだんだん慣れてくる。」
ホーリー:「そうか・・・。実は、僕も刺すんだ。」
ゆきちゃん:「ホーリーも?」
ホーリー:「北野田西公園の、きのこのベンチのところに、砂場があるのは知ってる?」
ゆきちゃん:「知ってる。」
ホーリー:「砂って、人の心とおんなじで、いろんな形に変わるの。その時のダメだった自分の心を、その砂場で作るんだ。で、そこを刺すの。」
ゆきちゃん:「ハートのかたちを作って?」
ホーリー:「そうだよ。だからこれからゆきちゃんも、自分が悪いことをしたり、人を悲しませたりした時は、手を鉛筆で刺すんじゃなくって、砂場で作ったハートを刺すんだ。」
ゆきちゃん:「でも、それって、自分の心を刺してるってことにならん?」
ホーリー:「たしかに、そうなるね。でも、手を鉛筆で刺すより痛くないでしょ? 砂場のハートと、ゆきちゃんの手と、どっちが大事?」
ゆきちゃん:「うーん、どっちも大事。どっちも刺したらあかん。なんか、自分の心を刺したらあかん気がする。手も刺したらあかん。そうか。一緒なことやもんな。」
ホーリー:「ゆきちゃん。すごいね。自分で気がついたんだね。そうか。どっちも刺したらあかんか。わかった。じゃあ僕もこれからは寂しくても、悲しくても心を刺すことはやめるよ。」
ゆきちゃん:「ホーリーも、寂しいんか?」
ホーリー:「寂しいよ。僕はひとりぼっちだからね。誰も僕のことを褒めてもくれないし、誰もこうやって抱き上げてもくれない。
色も茶色いからうんこみたいだって言われて投げられちゃったりもする。でも、ゆきちゃんは違った。僕を抱きしめてくれている。」
ゆきちゃん:「あはは。だって、ホーリー可愛いもん。」
ゆきちゃんは、ホーリーをたかいたかいのように持ち上げ、くるっと回った。僕はまた、溢れ出てくる涙と戦う。
ホーリー:「ゆきちゃんも寂しいの?」
ゆきちゃん:「うち? どうやろ。あんまり考えへんようにしてるかも。お母ちゃん、夜の仕事やから昼はずっと寝てるし、朝起きてもおらへん。」
ホーリー:「本当は、どうしてほしいの?」
ゆきちゃん:「本当は? うち、本当はな、一緒に朝ごはん食べて、一緒に買い物行って、一緒にアイスクリーム食べて家まで帰りたい。
あと、お母ちゃんの似合う服で、ファッションショーもしてあげたい。
だってな、この世で、あんなに美しい人はおれへんねん。オトハンもトラックやから3日くらい帰ってけえへんし。
だから、寂しいなぁ。でも、もう慣れてかな、あかんねん。」
ホーリー:「そうか。お母ちゃん、忙しくて、本当はゆきちゃんと一緒にいたいのに、疲れてるから、きっと難しいんだね。」
ゆきちゃん:「うーん、ほんまは、うちは生まれてこん方がよかったんかもしれん。そう思う時があんねん。」
ホーリー:「どうしてそう思うの?」
ゆきちゃん:「お母ちゃん、もうぜんぜん笑わんもん。忙しいからかな。だから、本当は綺麗やのに、綺麗やないねん。」
これが、上野先生がいう、「本当の心の中」だと、僕は感じました。この長いパペットセラピーで、ゆきちゃんの内面をようやく理解することができたのです。
その日、出勤前のやや不機嫌なお母さんと、ゆきちゃんと、ホーリーとの対面は劇的なものになりました。
心を開示できたゆきちゃんが、自分の言葉で真実を話し、お母ちゃんがもっと綺麗になるためにはどうすればいいかを、涙ながらに論じました。
お母ちゃんをもっと綺麗にしたい。
その一心で、お金を盗み、お母ちゃんのためにあらゆるおしゃれアイテムを安く、怪しまれずに買うために電車を乗り継いでセンバ(市場)まで一人で行っていたことも判明しました。
お母ちゃんに捨てられたアイテムは全部、お友達にあげていました。
オトヤンから盗んだお金の合計金額はいずれ返すために帳面につけていたようで、8万2千円でした。
体のあざは、イライラしたお母ちゃんの体罰でした。
ゆきちゃんの頑固で自分の気持ちを言おうとしない我慢強さに怖くなり、このままだと愛されない女に育ってしまうと思い、つい厳しく当たってしまっていたとのこと。
お母ちゃんは強く反省していました。
もっとゆきちゃんに寄り添うことを約束し、もっと笑顔になることで、内面の美しさを表現することを理解してくれました。
綺麗になるというのは、なにも着飾ることではなく、お互いに笑顔を交わすことで、どんどん美しい世界になっていくのだということを3人で語り合いまして、その場はお開きとなりました。
しかし、児童相談所には報告させてほしいと山下先生が食い下がったので、それはそれでお母さんが了承されて、報告書だけは書かなくてはならなくなり、そこは吾妻先生が担当することになりました。
後日。
大学で上野先生に報告しに行った時、こう言われました。
上野:「へえ〜〜〜〜〜! 驚いた。大成功じゃん。たぶん、鈴木君。君が日本で初めてパペット・カウンセリングを実践した人だよ。」
僕:「へ? 本当ですか?」
上野:「日本のセラピーは、腹話術を使ってできるものが昔からあるけど、今回みたいに動かない人形を使って、お嬢さんに抱っこさせた状態で、天の声を使って心を開いて、さらに解決に導いていく手法なんて、初めて聞いた話。あは! 面白い。研究したいわあ〜!」
そう言って上野先生らしい褒め方で、僕を認めてくださいました。
お母さんの言葉
八幡様:「説明ありがとうございました。おかげで、アニキの志がよく見えました。
人形が、心に潜むストレスやトラウマを引き出し、選択肢を増やすことで自分で気づかせ、スッキリと行動に移していけるよう環境を整え、第一歩を踏み出すきっかけを作ってくれるのですね。」
僕:「そうなんです。とはいえ、僕自身はまだまだ道半ばの人間です。
いつかパペット・カウンセリングをさらに昇華させて、パペット・セルフ・カウンセリングとして世の中に出していき、虐待をゼロにしたいと思っています。
技術として体系化し、パペット・カウンセラーを育てていきたいのです。」
八幡様:「よくわかりました。その後、ゆきちゃんはどうなったのでしょう。」
僕:「はい。お母さんが、ゆきちゃんの左手の黒ずんだ黒子のような穴を見て、その理由(気づかない虐待)に涙しながら言ったんです。」
お母さん:「私、この子の心をこんなふうに刺してたんですね。ごめんね。ゆっこ。ごめん。自分で、刺すなんて。どんなに痛かったやろうか。ごめんね。お母ちゃん、あんたの心を刺してたんやね。」
僕:「お母さん。手の痛みは最初だけだったみたいです。でも、お母さんに叩かれる時は、心が痛かったと思います。
それでも、お母さんがもっと綺麗になれば、生活も豊かになるし、お母さんの機嫌も良くなると信じて、一連のことが起きました。これは、ゆきちゃんの、お母さんに対する愛情の表れです。
いい娘さんを持たれましたね。」
お母さん:「はい。私の・・・天使です。」
ゆきちゃん:(泣きながら)「お母ちゃんは、私の一番大切なお母ちゃんやもん。」
僕:「2人はそんなやりとりをして、1年間の経過観察を児相と一緒にしていきました。
しかしそれから虐待は一度もなく、お父さんとも仲良く、お母さんは職業を変え、近所のオムレツ屋さんの看板娘? になって繁盛させました。
そしてゆきちゃんはなんと、学童でのパペット・カウンセラーになって大活躍しました。」
八幡様:「子どもはすごいですね。ホーリーは、ゆきちゃんと一緒に生きたのですね。」
僕:「はい。ホーリーには、人の心に寄り添うキャラクターを最初に植え付けたおかげで、誰もが、ホーリーの言葉を聞くのです。
しかも、ちょうどよい大きさで、可愛いので抱っこができて、動かし方によっては本当に生きているみたいに動きます。
結局、みな、自分の中に答えを持っていて、それを外に出す作業をしているだけなのですが、心がどんどんスッキリしていくので、魔法の人形と呼ばれるようになりました。」
八幡様:「それが、今回作ったアニミィですね?」
僕:「はい。まずは4体、作ってみました。これは指を入れて、いきいきと動かすことができます。
ここにくるまで、たくさんの皆様にご協力をいただき、ようやくクラウドファンディングの開設に行きつきました。
この人形の使い方などは、これからあらゆる方法でお伝えしてまいります。
いちおうここでも概要をお伝えしておきますと、
という感じです。」
八幡様:「では、この始まりを継続していくために、アニキ自身が動きましょう。
人形劇もどんどんやっていきましょう。全国の皆様に呼んでいただいたら、アニミィ人形を持って馳せ参じましょう。
そこで、ワークショップを行い、使い方を伝播させましょう。
そして、全国の素敵な街の素敵な方々にお会いして、この記事に紹介していけたら素敵ですね。」
僕:「それはいいですね! 皆様、ぜひ。人形劇で僕を呼んでください。全国どこでも行脚します。」
(人形劇のご依頼やお問い合わせはコチラからどうぞ)
おわりに
ANiMiの公式サイトや、READYFORのページにあるように、人形で起きた魔法のような奇跡は、まだまだたくさん、書ききれないほどあります。
あなたの目の前でその奇跡を起こすために、難しいハードルはひとつもありません。
よろしければぜひ、まずは手にとってください。その可愛さに癒されてください。
その可愛さとは、あなた自身の人柄から滲み出てくる可愛さに他なりません。
あなた自身を、そして身近な人を、アニミィ人形を通して、たっぷり愛していただけると嬉しいです。
はじめての方は、下記の説明をご参考ください。まずはREADYFORへの登録からスタートとなります。
また、シェアも大歓迎です。
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できる範囲で構いませんので、ご協力をいただけますと幸いです。
※僕が教育を志したきっかけが詰まった旅物語はこちらです。
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STEP⑥リターンの送付先を入力し、支援を確定する
支払方法を選択・入力した後は、リターンの郵送先を入力してください。
確認画面で、入力に誤りがないかご確認いただき、「支援を確定する」をクリックしてください。
なお、入力情報を間違うと、リターンが届かない又は届くのに時間がかかる可能性がありますので、ご注意ください。
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KAMI ing out マガジン
「僕のアニキは神様とお話ができます」「サイン」の著者、アニキ(くまちゃん)が執筆。天性のおりられ体質を活用し、神様からのメッセージを届けま…
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