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おりおりいっぴつ #044(西郷さんに学ぶこと)

最期のときまで

信じ続ける

力はあるか?


鹿児島はタクシーでの会話が面白いのです。

運転手さんの多くが西郷さんを大尊敬しているので、素敵なエピソードをたくさん聞くことができます。

熱くなってくるとお国言葉も出てきて、ますます良い感じ。目的地に着くまでの間、僕は貴重な会話を楽しみながら、幕末の歴史の風を感じて走ります。

先日出会った運転手さんは、左手をグーパーしながらお話をされていたので、左手の薬指のタコが目に入りました。僕はそれを見て、

「もしかして運転手さん、剣道やってます?」

と言うや否や、

「おお! お客さんわかっと? もしかして、剣道されちょっと? あ、もしかして警察ん方かね? 顔がもう、刑事どんのもんね!」

と僕が警察の刑事だと推察。そう見えるのか・・・。と思いながら、昔剣道をやっていたことを告げた。そして僕は運転手さんにこう質問。

「必殺技ってあります? やはり気合いのチェスト! ですか?」

ドラマでは薩摩の人たちは、チェストー! と言いながら剣を斜めに振り下ろすシーンばかりだったので、これは薩摩のみんなが使える必殺技で、その掛け声だけで人は戦意喪失してしまうのではないかというのが僕の推察です。

すると運転手さんは笑いながら、

「私はもちろん示現流のチェストーじゃね。しかし掛け声っちゅうもんは、何をゆーてん、よかとじゃよ。最近は、ゆー人もおらんなって、まあ爺さまがチェスト派じゃったもんで、私もかっこよかもんだと刷り込まれちょったんやろうね。実際は、高らかに叫ぶんで、チエソー!!! と人には聞けるそうじゃね。必殺技? これは私、もう誰にも負けませんよ。鳥刺し面じゃね」

鳥刺し麺? ちがう。剣道だから、鳥刺し面。

まったく聞いたことがない技なので、率直に聞いてみました。鳥刺し面って焼き鳥みたいに面を串刺しにする技ですか? すると運転手さんは大きな声でひとしきり笑い、嬉しそうな顔で後部座席の僕を思いっきり振り返り、

「これは刑事さんに見せんといかんね」

と言って、目をギラリ。そして、すぐ近くの小さな公園の横で止まったのです。で、ちょっと降りましょう、と。ちなみに目的地はまだ先です。

僕はその言葉に気圧されながら、車を降りました。

少し先に歩いていた運転手さんは、芝生の広場の中央でくるっと振り返り、すごくいい姿勢で、僕に対して構えを見せました。しかし、竹刀がありませんので、エア剣道です。

そうなると僕も構えなくてはなりません。対峙します。

運転手さんは、僕の姿を見て、

「いざ、勝負」

とハリのある低音で言って、ゆっくりと手を振り上げたと思ったら、ものすごいスピードで打ち込んできたのです。片手で。

僕は怖くて、咄嗟にその太刀筋を避けまして、避けたついでに運転手さんのお腹あたりを、エア竹刀でパーンと薙ぎました。

あ、しまった。

殺気に反応して、体が勝手に動いてしまいました。昔、毎日電信柱に向かって練習してきた抜き胴を打ち放ってしまったのです。

※抜き胴とは:相手の面に対しての応じ技。 胴を打つ前に面を避けないと負けるという捨て身技。

運転手さんは、抜かれた胴のあたりをなでつつ言いました。

「いやあ、まいりました。はい、これが鳥刺し面になります」

満足そうな運転手さん。そして続けて、

「いやはや刑事さん。日本の警察も捨てたもんじゃないですね!」

職業を否定するタイミングを完全に逸してしまった僕は、いそいそとタクシーに乗り込みます。そして運転手さんを喜ばせたくて、西郷さんについての質問をしながら目的地まで向かいました。

「西郷さんの最期はここ、城山だったと聞きましたが、本当ですか?」

運転手さんは、遠い目をしながら、

「西郷さんは、最期まで人を愛しておられた。最後の最期も恨み言もなく、しっかり覚悟をされておったから、迷いもなかったと思う。人の心を信じて、純粋な心を通し抜いて自決されたんじゃね。じゃから、みな、そのお心を今でも讃え続けておるんです」

人の心を信じた西郷さん。さて、僕は、どうだろう。

最期の時、周りを信じ続けることができているだろうか。

うん。多分それだけは大丈夫だ。

すべてをやり切って、思い残すことがないくらいに動いて、全部手渡してしまえば、笑って死ねると思います。

あなたに、今日も幸あれ。


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