エクストリーム帰寮とそれにまつわる独り言

読者さん、暇人さん、こんにちは。これはエクストリーム帰寮Advent Calender 2021 の23日目の記事です。去る11月末〜12月上旬にかけて開催された熊野寮祭2021の企画、「エクストリーム帰寮」の模様を私視点でお届けします。

Q.この企画は何?
A.能動的に迷子になれる企画。帰寮者は距離を5km単位で指定し、有志ドライバーによってランダムな方角へ飛ばされたのち出発地点である熊野寮を探し歩く。地図・交通機関の利用は原則禁止。中には一文無し縛り・スマホ縛り・コスプレ縛りetc.を設ける者もいる。

Q.これを書いたのはどんな人?
A.どこかから逃げるように京大へ転がり込んだ総人2回生。昨年は休学しておりアルバイト漬け→入院。春から京都で一人暮らしを始めるも生活リズムと単位がボロボロに。二外の中間テストを翌朝に控える中での初帰寮。

人間誰しも迷子になったことが一度くらいはあるでしょう。遠足、ショッピングモール、遊園地。私は上記全てに加え隅田川花火大会での実績もあります。何であれその時の感覚を思い出してみて下さい。不安で心細くて絶望的で、ついでに寒かったり暑かったり……
でもその中でほんの少し、親とか学校とか知ってる町とか、既知との繋がりを強制的に断たれた事に解放感・高揚感を感じたことはないでしょうか。自分を知る者は誰もいない。誰も自分にとって意味を持たない。ここで何をやろうと社会的存在としての「私」は影響を受けない。迷子とはすなわち、己を日常的に規定する関係性が極限まで削ぎ落とされた状態です。絶対的アウェー環境で孤独だからこそ、可能な限り無添加の自己(そんな物あるかは知りませんが)を以て世界と対峙することができるのかもしれません。要するに迷子になった方は意外と状況を楽しんでるケースもあるんじゃないか、という事です。
大抵の場合、迷子センターや警察や既知の人物に発見・保護されることで迷子状態は解消に向かいます。ここで子供時代のあなたの胸中に、温かい安堵と同時にどこか切ない疼きが生じたことはないですか。何か楽しい出来事(夏休みとかジェットコースターとか)が終わる時の様な名残惜しい感覚。私はこうした体験から、「人間は時折迷子になれる機会を探してるんじゃないの?」と考える様になりました。

しかし、歳を重ねて色々な連絡ツールを持ってしまった我々にとって迷子状態になるのは簡単ではありません。増えた知識と経験、GPSのせいで自分がどこにいるか大体検討がついてしまう。さらに友人知人家族とは電波の届く限りどこまでも繋がることができる。次に本気で迷子になれるのは、老いてボケてからかもしれません。こんな状況にやんわりと抵抗できるのが能動的に迷子になりに行く「エクストリーム帰寮」という訳です。

以下口調をモノローグ調にして当日の話をします。

0時出発組だった私は2時間ほど余裕を持って熊野寮を訪れた。ちょうど第一陣が誓約書を書くなどするために玄関外まで列をなしていて、何となくせわしない雰囲気が漂っていたのを覚えている。意外と帰寮者多いな〜とか考えながらそこを抜けると談話室中央に並ぶ給食サイズの大鍋×2が目に飛び込んできて、その日の夜ご飯が決まった。豚汁&ご飯セット350円で出発前にお腹を満たせたのは大きい。ありがとう、あったまり屋。その後友人と喋ったり桜Trick上映会を観たりしてるうちに時間が来たので、窓口で最低限の書類(緊急TELとか希望距離)を書いて玄関外でドライバーを待つ。電話番号を知っている人物が私のお下がりを使っている弟しかいないことに気づいてふーんとなった。
距離については高校時代に一晩で歩いた最長距離(横浜駅〜ディズニー)を参考に最近の怠け具合を加味して35kmとした。当時はそれなりに健脚だったし水泳もしていたのだが、卒業以来布団から出られない日が半分くらいある。二度寝をすると夢の続きが見られるけど、三度四度と繰り返すとストーリーや画質は劣化する。それでも寝潰した現実から逃げる様に再び瞼を閉じる。何日かするとまた行くべき所へ行ける様になる(相当疲れるけど)。そんな暮らしぶりなので命綱となるものは結構充実させた。スマホ、懐中電灯、財布、水、反射タスキ。モバイルバッテリーも借りた。迷子としてはチート級の装備をざっと確認する。極力使わない様にしよう、と独り言をお守りの様に唱えているとドライバーらしきお兄さんが近づいてきた。

「定員1名だけどいい?」
ミニバンを多用するこの企画において他の帰寮者との相乗り交渉が省けるとは思っていなかった。スポーツカーじゃあるまいし彼なりの拘りなんだろうなと解釈し、よろしくお願いしますと駐車場へ。京大魑魅魍魎大図鑑の"中の人"だと語るその人はスタスタと一番奥のスペースまで進み、そこを指差した。えっそこ何も停まってなくな……

停まってた。魑魅魍魎号と言うらしい。超ミニ、超低重心、定員2名。乗り込む際に両膝と頭をぶつけた。呆気に取られつつも「これなら険しい山道には入れないはず…」と甘い期待をしてシートベルトを締める。車酔いは大丈夫か、こんな事やって後悔してないか、等の問いを済ませると彼はエンジンをかけシフトレバーに手をかけた。次の瞬間、魑魅魍魎号は丸太町通を駆け抜ける一筋の光になった。自分より明らかにガタイの良い車両をぐんぐん追い抜き、メカメカしい駆動音を車内に響かせる。街は光の束になって後ろへ後ろへ。警察に検められると少しまずいとか、どんな事故でも前部座席は守り抜ける装甲にしてあるとか、そんな話が運転席から聞こえてくる。目・耳から入るカオスな情報の量に圧倒され、そしてちゃんと迷子になりたかったので烏丸通の交差点で目を閉じることにした。別にそこまでしなくても、と突っ込まれたけどしばらくはそうして走っていた。
登り坂に差し掛かってもその勢いは衰えず、やがて鋭角ターンが連続するようになった。一瞬緩やかになったかと思えば今度は同様の下り坂が始まる。ハンドル捌きは実に派手で楽しげで、いつの間にか2人して遠心力に揺られながらけらけらと笑うばかりになっている。某スペースマウンテンもこれには敵わないだろう。
うねり道を抜け終わる頃にドライバーがもう一度目を開けるよう促す。今なら意味が分かった。右側には凸凹した斜面、左側はガードレールがあったりなかったり。どちら側にも暗闇が鬱蒼と茂っていて、超ミニでなければどこかに車体を擦っていただろう。そして、その路面を見ながら駆け抜ける山道はこの上なく面白かった。落ちてる枝は避けなければいけない。鋭角ターン後は視界ががらりと変わる。彼の運転はかなり巧い。車に乗るというのはこんなに楽しいのか。

「あっ鹿がいる」

なんかいた。でかいでかい。急斜面すぎて逃げるに逃げれず、魑魅魍魎号の目と鼻の先を走り続ける。人間達は鹿!鹿!と錯乱状態で奇声をあげ、SNSに上げたいのに上げにくい残念な動画が撮れてしまった。狂ったような笑い声はここで最高潮に達し、その後には独特の沈黙が広がった。私は再び目を閉じた。

彼は何度か車を停めては「ここじゃないな」と呟き、少し走り回っては別の所に停めた。3度目の停車で降ろされた私は道中後部座席でリュックが暴れ回っていた事、そこには翌朝に迫った中間テストで使うPCが入っていたことを思い出したが努めて忘れた。側には右京警察署の看板がある。厳密に言えばもう迷子ではない。しかし電波は繋がらず、辺りは一面の暗闇と森。木々のシルエットが全てを覆っているため北極星は探せない。黒い影の隙間に月が覗いているけどその先を詰める知識がない。迷うこと1分、魑魅魍魎号が走ってきた方角が京都だろうとアタリをつけて歩き始めた。

歩き始めるまでに3000字書いてしまったので一度ここで公開します、、続きが出来たら更新します。






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