嗚ゝ、李明博君! 大韓民国、経済再興戦略の挫折と苦悩 5(完)

 2012年の8月10日。
 韓国の李明博大統領は突如として竹島へ上陸した。
 これに対し日本政府は急遽、在韓国大使の一時帰国を決定。
 さらに8月14日には李大統領が天皇陛下に対して。

 「韓国を訪問したければ、独立運動で亡くなった人々を訪ね、心から謝罪してほしい」

 と要求したことなど受け、日本の対韓感情は一気に悪化することとなった。

 韓国大統領が竹島上陸 玄葉外相、大使に帰国指示:日本経済新聞   https://www.nikkei.com/article/DGXNASGM1002H_Q2A810C1000000/

 李大統領「天皇謝罪要求」にかつてない怒りの声 ネットも政治家も新聞もこぞって批判 https://www.j-cast.com/2012/08/15142974.html

 そこからの日韓関係はみんなも知っているように、民間の一部では依然として活発な往来が続いているものの、国同士の関係としては改善されていない。
 どころか、文政権になってからも変わらず、むしろこの数か月でさらに悪化しているといっていい。

 「結局、李明博も反日だった」

 といえばそれまでだけれど、だが、ちょっと待ってほしい。
 日韓関係の悪化もちゃんと見ていたなら風の音を聞き、風の息遣いを感じられたはずだ。
 これくらいの反日はなあに、かえって免疫力がつく。

 え? 「さっきから何をいってるんだ」って?

 いやあ、おじさんになると、ときどき昔のネタを無性にやりたくなることがあるんだよ。
 ほら、キン肉マンとか今でもスタンプラリーをやったり、シティハンターが映画化されたりしてるだろう?
 男の子にとって子供のころハマったものや、若いときに見たものは印象に残るからねえどうしても。

 うん。そろそろつまらないと思われそうだからここまでにしよう。
 わかる人がわかればいいから。

 さて、このときの李明博大統領の竹島上陸に関しては、大体どこのメディアも似たような分析をしていたんだ。
 どんなものかというと。

 「支持率を失い、兄が逮捕されて追い詰められた李大統領が支持率を上げるために行ったパフォーマンスである」

 確かにこれは間違いではないと思う。
 韓国では「反日」というカードは保守、左派両方に受ける有効なカードだからね。
 でも、ここまで李明博大統領の業績と彼が置かれていた状況を読んできた人なら、彼が追い詰められたといってもただ保身のためだけにそんなに単純な行動に出る人物ではないと気づくはずだ。

 といって、陰謀論をいいたいわけじゃない。
 むしろ韓国にとっての現実はもっと残酷なものだということなんだ。

 思い出して欲しいのは、彼の大統領としての大目標は韓国経済の立て直しにあった。
 そのために。

 ・五輪やF1などの大規模なイベントの誘致
 ・河川改修事業に代表される公共事業
 ・韓流と総称されるコンテンツ事業への支援
 ・トップセールスによる技術、製品の売り込み
 ・財閥と中小企業の歩み寄りのための委員会を設置

 と色々やってきたわけなんだけれど、もしもこれらの政策、方針がきちんと目に見える成果を出していたなら、彼はおそらくこれほど追い詰められなくてもよかった。

 何より、韓国経済が構造的に問題を抱えていることは、彼の就任前からわかっていたことだからね。

 韓国・李明博新大統領の前途 | 時事オピニオン | 情報・知識&オピニオン imidas - イミダス https://imidas.jp/jijikaitai/d-40-021-08-02-g209

 この点、李明博大統領が格差と雇用の不安定化、そして財閥と中小企業との対立を、新たな雇用を拡大することによって回避しようとしたこと自体は評価できる部分といえる。

 また、彼の大統領としての手腕も2008年の通貨危機を乗り越え、さらに2010年のギリシャ財政危機以降顕在化した、ユーロの債務危機の中でかじ取りを行ったことも忘れるべきじゃない。

 <総合>韓国・世界経済危機に備え非常体制
 http://www.toyo-keizai.co.jp/news/general/2012/post_4891.php

 何より、問題は李明博本人よりも彼の後継者たち。
 朴槿恵政権にしても、現在の文在寅政権にしても、李明博政権を批判しつつ、実際には李明博政権の方向性を継承している部分が多いということにある。

 財閥は相変わらず強いままだし、格差も改善される気配がないからね。そしてそうした構図に対する反発が強まっているのは今も同じだ。

 「文在寅政権は民心から遠ざかった」…国会前で大規模民衆大会
 https://japanese.joins.com/article/685/247685.html

 今回、李明博大統領という人物のことを長く書いてきたのはようするにそこに理由があるんだ。ここ何代かの大統領を見ても、彼ほど韓国の経済構造の改革で、方針を立てて行動をした人はいなかったという意味においてね。

 また、日韓関係にしても、彼が竹島に上陸する以前の日韓関係はけして悪いものではなかったし、その前の廬武鉉政権に比べれば日本に対する批判というのも政府周辺ではあったにしても、大統領自身はほとんどしていなかった。

 「韓国はなぜ反日か」

 なんて、ずい分これも使い古された言葉なんだけれど、これは最近の韓国の行動に関していえば。

 「韓国(の大統領や経済)が困っているときに、一番手っ取り早く喧嘩を売れて、リスクが少ない国が日本だから」

 というのが正直なところだろう。
 アメリカ、中国はもちろん、ロシアや北朝鮮に手を出せばこんな程度じゃすまないからね。
 
 そうすると李明博大統領の行動が。

 「李明博大統領が個人を守るためのパフォーマンス」

 ならこれはまだいいんだけれど。

 「韓国経済の構造改革に失敗した大統領が最後にとることのできたカードが反日だった」

 だったとしたら、それはより両国の関係、そして韓国経済が悪い事態に進んでいくことをすでに暗示していたという可能性もある。

 何年か前に。

 「韓国経済はいずれ構造的に破綻するだろう」

 といえば。

 「ネット右翼の妄言だ」

 と笑われたところだけど、最近はすっかり韓国の新聞社の方がこんな調子(↓)だし。
 
 張夏準教授「韓国経済はいま国家非常事態だ」(1) | Joongang Ilbo | 中央日報 https://japanese.joins.com/article/947/247947.html
 
 もっとも、今後の韓国経済がどうなるかなんてことは実のところ誰にもわからない。
 衰退するにせよ、なんとかやっていけるにせよ、もうあれだけの経済力のある国だから、簡単な構造を変えることはもはや不可能だからね。
 だからそこは今後の推移を見守るとしよう。

 ちょっと話が本題からズレ過ぎたけれど、最後にもう少しだけ「李明博大統領の評価」に戻るとしよう。
 まず、個人的な感想ではあるけれど最初の竹島上陸に関しては。

 「竹島に上陸した上で、天皇陛下に謝罪を要求した李明博は許せない」

 より。

 「李明博よ! お前もか!」

 という感想の方が強かったのが正直なところだった。

 「あの割とまともに政策立ててた李明博でさえ、最後は反日という定番のカードを使うしか方法がなかったというくらいに、韓国という国を運営するのは難しい」

 ということなんだから。
 そしてこれは日本と韓国が今後も続き限りは永遠に変わることのない問題でもある。

 「韓国が危機のとき、決まって彼らは日本批判をはじめる」

 という点において、我々はその付き合い方を考えていかないといけない。まあ、できれば。

 「やっぱりこんな国とは断交しかない」

 という短絡的な方向ではなくて。

 「ある程度の覚悟を持って付き合わないとめんどくさい」

 くらいの穏便な結論にすませて欲しいところだけれどね。
 ほら、韓流が「遊びじゃない」という話をしたときにも書いたことだけれど、彼らは彼らで色々と必死なんだよ。
 それに若い世代にとって韓国の社会、経済の構造は生まれたときからのものだし(だから財閥に近い保守派が嫌われるんだけれどね)、それを改革できないのは彼らの責任というわけでもない。

 え?

 「逆にそれを聞くと日韓関係が今後よくなるとか想像できない」

 ・・・ああ、うん。
 それは正直そうだと思うよ。しばらくはどの道こんな感じだろうし、どちらかの政権が変わればいきなり良くなるなんてこともないだろうから。
 けれどそういう時代だからこそ。

 「個人の付き合いというレベルなら、国同士の関係に左右される必要はない」

 と割り切ってもいいんじゃないかとも思う。

 どこの国にでもどうしょうもない悪人はいるし、善人というのもいる。
 その点、いい人と出会えたならその出会いに感謝するくらいの方が人生はまあ気楽なんじゃないかな。

 色々と思うところはあるけれど、韓国という国は「とりあえず国が色々やっているから」成果はともかく、日本としても学べる部分は多いだろうしね。

 李明博大統領もそうした「学べるライバル」の一人ではあったはずなんだけれど、残念ながら彼の評価が今後韓国国内で回復するかといえば難しいだろう。
 今まさに本人が汚職をめぐる裁判の最中だということもあるけれど、金大中、廬武鉉の頃の韓国は「今と比べればまだ経済的にもよかったと思える時代」だったろうし、財閥が保守的と見らている分、若い世代には左派への支持が強いという事情もある。
 
 結局、李明博大統領という人はほとんど評価されず、ただ忘れられていくであろう存在だからこそ、彼が少なくとも経済政策においては真剣に国のことを考えてたという点を評価し、ボクは余計にこう思うんだ

 「嗚ゝ、李明博君! 今や誰も君を評価するものがないなんて、寂しいことである!」

 と。 

 ありがとうございました。

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