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手のひらごしの未来と夢

月に二回、根付の彫刻教室に通っています。
根付とは、巾着や煙草入れ、印籠などを帯に吊るす時に滑り止めとなる、3〜4cmほどのちいさな留め具です。主な素材は木材、動物の角や牙、陶磁器、金属、ガラスなどで、モチーフは自由。遊び心あふれるアイデアと、精巧な細工が魅力の美術工芸品です。根付彫刻を習い始めて10か月。根付師である先生のご指導のもと、動物の根付づくりに取り組んでいます。

いま作っているのは大きな目が特徴のニシメガネザルです。フクロウのように首を回転させ、カエルのような手足で昆虫を捕まえる。知れば知るほどユニークな動物です。

同時に、深刻な現実も知りました。
ニシメガネザルの主な生息地であるカリマンタン(ボルネオ)島では、パーム油のもとになるアブラヤシのプランテーション化が進み、多くの希少な生きものたちのすみかが今も失われ続けていること。そして、2023年9月現在、ニシメガネザルは国際自然保護連盟(IUCN)が発表するレッドリストの、絶滅の危険性が高い危急種(VU)であることです。

わたしたちの便利で快適な暮らしは、無数の動物や植物の暮らしをうばい、命を脅かしている。心に留めておかなければと思いました。

ニシメガネザルの根付に、アブラヤシを加えることにしました。アブラヤシにのぼるニシメガネザルと、背中に隠れた昆虫。イメージは、カリマンタン島の森です。

根付はどれも手のひらに収まる大きさです。削っていると、手元が滑ってコロンと転がります。体のかたちや目の位置など、数ミリ単位の彫刻は気の遠くなる作業で、思うようにいかなかったりくじけそうになったりします。それでも、動物たちのことを学び、考え、作業に向き合うことは、楽しくてかけがえのないものです。

江戸時代に生まれた根付は、その時代の「粋」や「文化」を表現してきた美術工芸品であり、新しい時代へと伝わってゆきます。

動物の根付をつくることは、今は自分のためかもしれません。でも、いつか誰かに伝わったら。そしてまた何十年後、自分が作ったものを振り返ったときに「今たくさん生息している動物だね」と言える世界でありたいです。

次回作は凛々しいシロフクロウにしようか、それとも白黒の水玉模様のマレーバクの赤ちゃんにしようか。削ってはじっと眺め、また削る。手のひらごしに見る未来と夢は、大きく膨らみます。

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