あのとき不機嫌だった理由
なぜだろう。いらいらする。
家のことも、仕事のことも、うまくいかない。このいらいらはどこからきて、どうしたら治まるのだろう。
この頃、何をするにも、早くやらなきゃとか、テキパキしようとか、頭で思ってはいるが、思うようにできない。
計画立てて取り組んでいても、途中で「ああ、あれもあった」と他のことが気になり始め、つい手を出してしまう。結局自分のすべきことが見えなくなり、時間だけが過ぎて、思うように進まない。
それに、夫のちょっとした一言が、いちいちかちんとくる。
上司でありパートナーでもある夫は「○○して。」と指示をしてくる。たまにどうでもいいことまでお願いされるので癪に障るが「わかった」「わかりました」とこたえていた。
だけどこの頃は「○○して。」と言われるたびに、おもしろくない。なんか偉そうだと感じてしまう。
たとえそれが仕事中で、上司として発する言葉であっても。
何気ない生活の中の「サラダを運んで。」のひと言すらも。
わたしはおかしいのだろうか。
沸点高めのわたしは、どんな感情も顔に出やすい。いわゆる敏感な夫にはすぐ気付かれる。
「なんだその態度は。」「別に。」「別にってことはないだろう。何かあるなら言えよ。」「何にもないって。」
夫はけして悪くない。ただ無性に腹がたつから、なんて言えない。
互いに語尾が強くなって、しまいにカーンとゴングが鳴る。
夫は職業柄、つねに論理的に話し、弁が立つ。
「そうやってイライラしながら仕事をしてるからいつもミスをするんだ。」
「お前はなんでも人のせいにする。」
「あの時だってそうじゃん。」
以前のことまで穿り返してくるから、余計にかちんとくる。今は関係ないでしょう。
わたしは考えを言語化する能力が低く、反論できない。というより反論できることなどないのだ。言葉にならない思いをこらえているうちに、頭の中のやかんが沸騰しそうになる。うわああ~と、大声で叫びたい! 危険、キケン、ピーッ!
そうなったときは必ず、
「もういい。ちょっとトイレ行ってくる。」と、ふりしぼって言う。
「あ、また逃げた。」
なんと言われてもいい。夫の冷めた声を背中で聞きながら、走るように事務所をあとにする。
こころよおちつけ。しずまれ。
たいして用もないトイレに入り、カギをかける。
心臓は脈打ち、呼吸は荒い。
どうしていつもわたしは不機嫌で、ひとり熱くなっているのだろう。
夫は、わたしは反応しすぎだという。
もっと落ち着けと、考えてから話せという。
そして何事も否定から入るなという。
にこにこ笑っていろという。
わたしだって、わたしだって、と思う。
穏やかでいたい。
落ち着いていたい。
素直でいたい。
笑っていたい。
不機嫌になってしまう理由も、なんとなく気づいている。
40代半ば、年齢的なものもあるだろう。だけどそれだけじゃない。
ほとんどは、自分の内にあるもの。
自分の不甲斐なさとか、焦りとか、さびしさとか、不安とか、あとは……
「あ、また逃げた。」夫の言葉がこだまする。
逃げてるんじゃない。
戦っているんだ、なにかと。
守っているんだ、なにかを。
ひとつ、大きく息を吸って、吐いて、トイレのドアを開けた。
これは、わけもなく荒ぶっていた、わたしの話。
ついこないだ、いっぱいいっぱいだったときの話。
いまも沸騰することはあるけれど、トイレには行ってないし、
今日は夫がホワイトデーにと買ってきてくれたイチゴのホールケーキを口いっぱい頬張って、満たされている。
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