奥様、よなよなダンスをする

ハロウィン前日に『ゾンビ・デ・ダンス』というものを知った。

新しいもの好きの夫が見つけたのだが、そのゾンビ・デ・ダンスとは、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン（以下USJ）で開催されているハロウィンイベントのダンスだそうで、テーマソングであるAdoの『唱』ともに、とにかくバズっているらしい。（イベントは2023年11月5日に終了）

流行りものに興味のないわたしは、夫の話を「ああ、また始まった」と流し気味に聞いていたが、夫は大まじめで「そのダンスが楽しいから、完璧に覚えるぞ！」と言う。

え、なんで？

夫はやると言ったらやる人だ。おまけに、いつもわたしも強制参加になる。ああ、めんどうなことになったと思った。

その日の夕食中、夫はイベント動画（※１）をひたすらわたしに見せた。ステージで踊るクマやイリュージョン的なパフォーマンス。へえ、USJっておもしろい。

そして、ビジュアル系ファッションに身を包んだキャストや日本人形になったゾンビたちが、観客の目の前で激しいリズムに合わせダンスをしていた。

よく見ると、近くにいる子どもたちも同じく上手に踊っている。まるでUSJ全体がダンスホールのようで、みな楽しんでいるのがよくわかった。ふむ、これは面白そうだぞ。わたしもやる気になってきた。

でも、はたして踊れるのか。

片付けを済ませたあと、リビングのテーブルを端によせ、テレビの前に夫とふたりで仁王立つ。さあ、レッスン開始だ。

参考にしたのは、USJ公式チャンネル（※２）のダンスレクチャー動画。教えてくれるのは実際のキャストさんのようで、きりりとした笑顔がまぶしい。

簡単な説明のあと「それではみんなで一緒に！　ヒュー！！」と明るい声とともにダンスが始まる。

♪じゃ、じゃ、じゃ、じゃっじゃ～ん、じゃじゃじゃじゃじゃ！！！
ちょちょちょ、ちょちょちょちょ、ななな～、ななな～♩

キレのあるダンスを見ながら、必死に真似る。

なんじゃこれ、難しくない？　何度も動画を再生するが、リズムが早くて体がついていけない。

ていうか、サビの部分がB’ｚの「ウルトラソウル」に聞こえるのはわたしだけだろうか……

ダンス素人にはあまりに高度な動きだ。もうすこしわかりやすいサイトはないものかと、リアルアキバボーイズの踊ってみた動画（※３）に、助けと笑いを求めることにした。

すると最少年メンバーの龍くんが、なんともわかりやすく教えてくれる。やはり今年のレッドブルdanceyourstyle日本チャンピオン。飲み込みが早く、教え方もじょうずだ。夫とともにスローテンポなリズムで、動きをひとつひとつ確認してゆく。

やがて、メンバーのひとりが、あのフレーズを口にした。
「ウ、ル、ト、ラ、ソウル、へい！」

……やっぱり！！　
同世代にとっては聞き覚えのあるリズムなのだと、ちょっとほっとした。

しかしながら、アラフィフに入りかけの夫婦が、くねくねと体をひねる姿はなんとも滑稽だ。とくに夫はお酒を飲んでいたため、徐々に酔いが回ってきたのか「おれは、もうだめだー」。ゆでだこの顔で、ドジョウ掬いみたいな動きをしている。わたしはわたしで、ガニ股のひょっとこ踊り。しかもなぜか顔にまで力が入る。互いの姿にゲラゲラわらった。

その後、夫と一緒にダンスをすることはなかったが、実はこっそりひとりで練習をしていた。じつはわたしも、やるといったらやる派だ。

とりわけ難しいのは、例の「ウルトラソウル」の部分だった。右肘を上げ、おろし、首を斜めにスライドさせる。両手を合わせ前から上にすくい上げる。と同時に、腰を落として両膝を開いて、ジャンプ。上半身と下半身の動きが見事にバラバラで、頭がこんがらがる。

動画をなんどもリピートし、風呂上がりや洗濯の合間に鏡の前で踊る。口ずさむのは、やはり

ウ・ル・ト・ラ・ソウ！（ジャンプ）
ウ・ル・ト・ラ・ソウ！（ジャンプ）

歌詞をおぼえるより、振りを覚えるのが先。体を動かせないときはイメージトレーニングをした。布団の中で何度も、何度も。

そして、できた。

「ねえ、みてみて！　ゾンビダンスできるようになったよ！！」
夕べ、布団に横になっている夫に向かって声をかけた。

夫は「っふ。いいよ、じゃあやって。」「うん」

音楽に合わせればよかったのだけど、忘れないうちに、はやく見せたかった。さっそくわたしは、いつも通り口ずさみながらおどった。

♪にゃーにゃいにゃにゃーい、ウルトラソウ！！！
んちょちょちょ、ちょちょちょ、ななな～ななな～♩

最後のほうは笑ってしまって、やや動きが崩れた。

「おお、全部踊れたじゃん。」ふだんあまり褒めない夫が言った。
「でしょー！」

満足だった。そして楽しかった。
その日、気持ちよく眠れたのは言うまでもない。

しかしながら、大人気だったUSJのハロウィンイベントは終わってしまい、頑張って覚えたダンスは、過去のものになろうとしている。

来年も開催してくれるといいな。ゾンビ・デ・ダンス。
大阪まで足を運ぶかどうかは別として、ひっそり踊る40代がいることをここに残しておく。

参考動画

※１　実際のイベントの様子

※２　USJ公式チャンネル　動画

※３　REAL AKIBA BOYZ　踊ってみた動画

テーマソング　Ado『唱』