減量苦騎手列伝3 田口大二郎騎手

減量に苦しめられる職業の一つに「騎手」があります
吉永正人騎手(当時)が「雨の日に、帽子のひさしから落ちてくる雨水が本当にうまい」と述べた話は有名です

以前から書きたかった「減量に苦しむ騎手の話」
本当に苦しんだ騎手からちょっと笑える騎手まで
どこかで読んだ雑誌の記事や出典がハッキリしない記憶を頼りに書いてみたいと思います


田口大二郎騎手

1994年騎手デビュー

この年次にデビューした騎手のインタビュー等を何故か目にする事が多かった
理由は分からない

御多分に漏れず田口大二郎騎手の発言等を目にする機会は多かった

新人騎手が必ず訊かれる「目標とする騎手は誰ですか?」という質問に対し大概は「武豊騎手」等の凄腕騎手や所属厩舎所縁の先輩騎手の名を挙げたりするものだが田口大二郎騎手は違った

「目標はクリス・マッキャロン騎手です!」
「関係者から『田口を乗せておけば大丈夫だ』と言われるような騎手になりたいです!」

田口大二郎騎手がデビュー時に所属したのは中野隆良厩舎である
間違っても「柴田善臣騎手が目標です」なんて言えないのは分かる
それにしてもクリス・マッキャロン騎手とは大きく出たモノだ
まあ夢はデカい方が良いだろう


……デカくなるのは田口大二郎騎手の夢ではなく体重なのだが
(体重を「デカい」と表現するのが誤りなのは承知の上)

デビュー間もない頃に某競馬雑誌で普段の食生活を訊かれた事がある
田口大二郎騎手は悪びれる様子も無く「コンビニ弁当」と答えている
さすがの訊き手も心配しただろうに田口大二郎騎手は「(体重は)大丈夫ですよ!」と断言している

この時は

さて夏競馬
古馬との混合戦が開始され3歳牝馬(当時の数え年表記では4歳牝馬)の負担重量は52kgである
ここでデビュー間もない31勝未満の騎手を乗せると▲3kg減の恩恵が受けられる
つまり52kg-3kg=49kgで出走出来るのだ
この負担重量を利して少しでも上の着順を狙いたい関係者は▲3kg減の若手騎手を積極的に乗せていた(現在はそうでもない)
デビュー初年の夏競馬時点でまだ31勝に到達していなかった田口大二郎騎手にもその声は掛かったはずだがその形跡は見られない
何故だ?

その答えは後に明らかになる

負担重量超過

デビュー時に体重が47kgを超えていたのは同期の中で田口大二郎騎手だけであった
そして「コンビニ弁当」「大丈夫ですよ」発言
更に50kg未満での騎乗機会無し

そうこうしているウチに公表負担重量50kgで騎乗出来ず50.5kgで出走というミスを再三犯すことになる
更には土曜日に50kgで乗っていたはずが翌日曜日に50kgで乗れないどころか51kgで乗るのがやっとという筆者自身あまり聞いたことの無い「1kg超過」という事態まで引き起こす
これにはJRAもおかんむりで実効10日の騎乗停止処分を喰らわせている

その後も負担重量超過を度度起こしながらデビュー満3年を経過し本人にとって悪夢だった「▲3kg減」が解除された
因みに当時の規定では31勝に到達すれば△2kg減になり51勝に達すれば☆1kg減になり100勝に到達すればデビュー満3年経過を待たずして減量特典が無くなるとされていた

減量苦と負担重量超過を繰り返していた田口大二郎騎手がそのような好成績を挙げられるはずもなくただただ減量解除日を待っていたように見えた

しかしそれだけでは終わらなかった

減量苦が祟って徐徐に障害競走での騎乗が増えていた田口大二郎騎手
当時の障害競走最低負担重量は55kg
それにさえ乗れれば良かったはずなのに……

1999年のある平地競走で55kgに騎乗していたもののその後は59kg~60kgでの騎乗が続いていたが同年の新潟ジャンプステークス(当時はハンデ戦)で遂に盛大な「ヤラカシ」をしてしまう

何と公表負担重量55kgでの騎乗が出来ず55.5kgでの出走となってしまった

後に出版された某競馬暴露本である騎手の事が書かれていた
何でも調整ルームか競走当日の控え室か何処かで減量に苦しむある騎手がカップラーメンを食べているのを別の騎手が目撃したというのである
目撃した騎手が慌てて「何やってるんだ!?」と止めに入ったが減量に苦しむ某騎手は逆ギレし「腹減ってるのにメシを食って何が悪い!」と開き直ったとの事である

この時期にここまで減量苦が大きく知られていたのは筆者の知る限り田口大二郎騎手だけである
其れを以てしてこの記事が田口大二郎騎手の事だと断じるつもりは無いが冒頭で紹介した大言壮語っぷりやコンビニ弁当等の危機感の無さとは充分線が繋がる気はする

以降55kgでの騎乗が無くなったのは勿論の事ではあるが彼は更に斜め上を行く

何と公表負担重量57kgですら乗れずしかも騎手変更にまで至ったのである
当時の規定では2kg超過で騎手変更だったと記憶している
(現在は超過に関しては基準が緩くなっている)

さすがにこれでは騎手続行は不可能だろう
本人もそう思ったのか或いは過酷な減量が祟って身体を壊してしまったのか(本人はそう弁明している)直後に引退している

騎手晩年のJRA公式サイトで田口大二郎騎手の顔写真が差し替えられていた
デビュー当初はどこにでも居るアンチャン風の顔写真であったが差し換え後は「何もわざわざそんな写真使わなくても」と同情したくなるような「顔がパンパンに膨れ上がり見るからに騎手として太り過ぎ」なのが一目瞭然な顔写真であった
同時に公称体重も57kgと書き換えられたが恐らくはそれ以上あったと思われる

西谷誠騎手は身長が伸び過ぎた事による体重維持困難
橋本広喜騎手は体質の変化と疾病による体重維持困難
……と理由が付けられるが果たして田口大二郎騎手は何と書けば良いのだろうか?「コンビニ弁当とレース前に食べたカップラーメン」だろうか?


2021年01月17日

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