そなたの願い、一つだけ叶えてしんぜよう

ある日何処からともなく神様が自分の目の前に現れて「ワタシは神である。そなたの願い、一つだけ叶えてしんぜよう」とか言ってくれないかなぁ?


こんな幼稚な夢は誰もが一度は思い描いただろう
筆者もその一人である

さて
そんな神様が本当に現れて「願いを一つ叶えてやる」などと言い出したら果たして人は「世界平和」「災害復興」「飢餓解消」「動物愛護」などの広い目で見た願いを申し出るだろうか?

筆者を含め大多数の愚かな人間は私利私欲に走るだろう

しかし
その結果どうなるかまでは残念ながらあまり考えが及ばないようである

そこで
夢のような題材でありながら極めて現実的(というか皮肉的)な視点で顛末を妄想してみよう

※この話はフィクションであり実際の人物事件団体等には一切関係ありませんし舞台が地球上であるとは一言も書いてません


「はぁ~……金欲しいなぁ……」
「金さえあればなぁ……」

口癖のように毎日同じ独り言をブツブツ垂れ流してる中年の男
今回の主人公である

見本という国に住んでいる
何かの本で読んだが宇宙の彼方には成り立ちや環境がソックリの星がありオマケにその星にある日本という国は言語まで全く一緒らしい
広い宇宙である
そんな事があっても不思議ではない

しかし
主人公はリアリストである
遠い宇宙の彼方にそんな星があるとか全く興味が無い
ただただ自分が大金を手にして一生遊んで暮らしたいだけ
中年にもなってそんな浅はかな思考だから職場ではうだつの上がらない万年ヒラ社員で妻子も居ないのである

そんなことより金が欲しい
とにかく金が欲しい
神様が目の前に現れて「そなたの願い、一つだけ叶えてしんぜよう」などと言い出したら5000億円くらい貰おう




目が覚めるとまだ薄暗い時刻のはずなのに妙に明るかった
明るいというよりは眩しい
漫画でよく見る「ピカー」という光が部屋全体を照らしている

その光の中心から一人の老人が現れた
白装束に古びた杖
謎の長髪と髭
世間一般でいう「神様」のような風貌だ

「何だお前は?泥棒か?ウチには金なんか無ぇよ!他当たってくれ」
主人公は眠い目を擦り面倒臭そうに言い放った

なおも立ち去ろうとしない老人
相変わらず光り続いて眩しすぎる

「だから金なんか無ぇっつってんだろ!」
眩しい光と怒りですっかり目が覚めてしまった
今日も仕事だ
年下の上司にアゴで使われ若造からは白い目で見られる簡単な仕事だ
こんな老人の相手してるヒマは無い

「そなた……金が欲しいのか?」
突然老人がポツリと呟いた

「はぁ?」
「だから……金が欲しいのか?と訊いておるのだ」
「そりゃ欲しいに決まってんだろ!金要らないなんて奴ぁ見た事無ぇよ!」
「そうか……其程までに金が欲しいのか」

何て不毛な会話だろう
主人公は無視して仕事へ出掛ける準備を始める
準備といっても前の日に買ってきたコンビニ弁当を烏龍茶で無理矢理流し込み顔を洗って歯を磨いて髭を剃って着替えるだけだが
すっかり胃腸が弱くなり烏龍茶で流し込まないとごはんが食べられなくなって久しい
髭は相変わらず濃いが頭髪はどんどん薄くなる
毎朝の準備の時ですら腹立たしいことばかりである

T字カミソリの替え刃はもう何年も取り替えてない
おかげで毎日何処かからか血が滲んでるが気にしない

「金が……欲しいのか?」
件の老人はまだ言ってる
いい加減にして欲しい


「欲しいよ!!くれるんなら許してやるよ!!!」

心の声がつい言葉になって口をついてしまった

その瞬間例の光が更に強くなり老人の風貌もより一層神様に近づいた





「ワタシは神である。そなたの願い、一つだけ叶えてしんぜよう」



???

「はぁ?今何っつった?」
「ワタシは神である。そなたの願い、一つだけ叶えてしんぜよう」

もう時間が無い
とりあえずテキトーに「じゃあ5000億円くれよ」と言い返した

「承知した……5000億円で良いんだな?」

そう言うと老人はサーッと消え例の眩しい光も消えた
「何だったんだ!?」
主人公はまだ夢でも見てるのかと思い玄関を出る


電話が鳴った
この時間の電話はロクな内容じゃない
無駄に長い人生で得た教訓の一つである

「……もしもし?」
上司からである

「会社の経営が苦しいのでお前クビね。もう来なくてイイよ」

上司はそれだけを淡淡と言うと通話は切れた
事態を良く飲み込めず折り返し電話を掛けてみたが着信拒否されていた



おいおい
金どころか仕事クビとか一体どういう事だよ??

とりあえず職場へ向かったが玄関に「◯◯◯◯は本日を以て懲戒解雇とする」「◯◯◯◯立入禁止」と書かれた紙が貼ってある

労基署へ行く気力すらなくとりあえず帰宅……

帰宅したらニュース等でよく見る奴が立っていた
確かコイツは竹中兵蔵とかいう人材派遣会社のドンだ
こんな御立派な奴は一体何の用事だ?

「3000億円あげます」
「はぁ??」
「この3000億円を原資に労働者から更に金を毟り取りましょう」
「はぁぁぁぁ!????」
「つーかこの3000億円も労働者から毟り取った金です」
「何言ってんだ!???」
「アナタは会社をクビになりましたね?」
「何で知ってんだよ!??」
「それが正常なのです!クビにできないなんて異常なんです!」
「そんなワケあるか!!!明日からどうしろっつーんだよ!!」
「だから3000億円あげると言ってるじゃないですか」
「そんな得体の知れない大金ホイホイと貰えるかよ!!?」
「一部はアナタの退職金も入ってますから遠慮なくどうぞ」
「おいおいちょっと待てよ!何他人の退職金勝手に使ってるんだよ!?」
「退職金などという制度がおかしいんです」
「ちょっと待ってくれ……」
「とりあえずこの3000億円が今日集めた退職金の全額です」
「それじゃあ泥棒じゃねぇか!!?」
「いえ!退職金制度を廃止しないと見本経済は破綻します!」
「破綻してるのはお前の脳味噌だろ」
「そんな事はありません!いずれは賃金も廃止です!」
「……全く理解が追いつかないんだが?」
「とにかく3000億円は受け取りなさい!ワタシはこれで失礼する」
「………」



昼頃
テレビを点けたら竹中兵蔵が何やらアジってる
「ワタシは見本経済を救った」
「本日ワタシは素晴らしい仲間とともに新しい経済再生の第一歩を…」
相変わらず此奴の言ってる事は理解しがたい

……と思ってたら突然画面が切り替わった
総理大臣の緊急記者会見だそうだ

今の総理大臣は自由見ん主党の菅儀偉
前総理大臣の安倍晋臓の後継……というか繋ぎである

菅儀偉がいつもどおりカンペを読み上げる


「2000億円を上限とする報酬を無作為抽出した人物に拠出する」


……何のためにそんな事を?
税金下げるなり給付金や補償金出すなりした方が良いんじゃねぇの?
つーか無作為抽出とか言って結局はおともだちに出すんだろ?

そう思いながら銀行へ行った
当面の生活費としてなけなしの貯金を切り崩すために

「………!????」

ATMの画面に表示された口座残高が2000億円を超えている
慌てて履歴を見てみると「セイフキョシュツホウシュウ   199,999,995,000」
……と何とも中途半端な入金額が記載されている

まさかさっきの無作為抽出で自分が当たったのか!??
政治家とおともだちになった記憶なんか無いぞ!??


信じられない事ばかり起きるのを訝しがりながら自宅に戻ると其処には安倍晋臓が立っていた
前総理大臣の安倍晋臓が何故!??
いや今更驚く事ではない
今朝から既に何度も何度も度肝を抜くような出来事が起こっているではないか

安倍晋臓が相変わらず早口で捲し立てるように話しかけてくる
「梅を見る会の参加費5,000円です!受け取ってください!」

……梅を見る会
何やら見本強酸党を始めとする野党が「国費を使って有権者を買収している!」とか騒いでたヤツだ
自分はそんなの参加した覚えは無いし何より呼ばれるだけの「功績」も無い
それなのに安倍晋臓が5,000円札を自分に押しつけてくる

「コレを受け取って貰わないと困るんです!今更帳簿の訂正でんでんなんて言ってられないんです!」

でんでん……そういや安倍晋臓が総理大臣の時に「云々(うんぬん)」を読み違えて「でんでん」と言ってたな
コイツまだ「うんぬん」じゃなくて「でんでん」だと思ってるのか……

フフフ……と例の読み違いを思い出し笑いしてると安倍晋臓が勝手に自分の家に5,000円札を置いて「確かに渡しましたからね!あとはそれを◯◯ホテルに払ってくださいね!」と言い残して小走りに去って行った



怖くて受け取れない金ばかりだがどうにもバランスが悪い
現職の内閣総理大臣が約2,000億円
人材派遣会社のドンが3,000億円
前職の内閣総理大臣が5,000円

前者二人はともかく安倍晋臓の器は小さすぎやしないか?


などとまた笑っていたら次の来客が現れた




「税務署です」



「あなたが本日手にした現金は全て課税所得です」
「現在の税法ではほぼ全額納税してもらう事になりますね」
「現金で3,000億円と口座に約2,000億円ですね」
「それでは差し押さえします」


コチラが事情を説明するまでもなく勝手に置いていかれたり勝手に口座に振り込まれた金は悉く「差し押さえ」と称して消えた
つーかちょっと待て
最初に竹中兵蔵が持ってきた3,000億円の中には自分の退職金も入ってるんじゃないのか??

慌てて税務署の奴を追い掛けようとするとまた来客だ
今度は誰だよ!?


「東京地検特捜部です」
「安倍晋臓の公設秘書からの収賄で逮捕します」
抵抗する間も無く手錠が掛けられた

……待てよ?
現金を置いて行ったのは安倍晋臓本人だぞ?
それが何故公設秘書からの収賄になるんだ?



留置所でボーっとしていると今朝見た光がまた現れた
神様を名乗る老人と一緒に
思わず叫んだ

「冗談じゃねぇよ!!!」

老人はポツリと言った
「お金が欲しいなら非課税所得と言うべきじゃったの」

既に思考能力が無くなった自分はすぐ言い返した
「じゃあその非課税所得で5,000億円くれよ!!」






日付が変わると見本は国全体が変わり果てていた
インフラは壊滅状態
経済も完全に破綻している

テレビでは見本強酸党の恣意和夫委員長が吠えている
「税金の無い国は我々が作りました」
「自由見ん主党の悪者はほぼ逮捕しました」
「見本強酸党は素晴らしい政党なのです!」

………
ふと振り返ると其処に安倍晋臓が立っていた
え?さっき恣意和夫が「自由見ん主党は逮捕した」とか言ってなかったっけ?

安倍晋臓はニヤリと笑いながらこう言った
「ワタクチは神様に『絶対に逮捕されない』事をお願いしたんです」……と

2020年12月31日

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