チェイス!チェイサー!ラン・アウェイ!

「ガガピー……間もなく大気圏再突入を開始します。」

一瞬のノイズのあと、明瞭に聞こえる自動音声は俺たちを沸き立たせた。

「来たッ!」

空から降ってくる宇宙調査衛星を拾い、いち早く打ち上げた奴に届ける。すると回収の手間が省けたありがとう、といくらかの金を渡される。人的被害が少なく済む、という理由で調査衛星の優先墜落地点に指定されたらしい地域で生まれたから、これが生きる手段、稼ぐ手段だった。同じ手段で生きている連中もたくさんいる、まさしく生存競争だ。

「かなりはっきりしてたな。すぐそこか?」

「……マジだ。そこの山に、落ちるぞ」

通信機越しの相棒の声も、興奮からか震えていた。送られてきた予想墜落地点は、今いる小さなテントからそう遠くはない所だった。

「俺が出る、ルート策定は頼む」

「拾えたらの話だろ」

「時間がない、行くぞ」

「ちょっと──」

通信を1度切ってテントから外に飛び出て数歩。轟音と閃光、衝撃波が一斉に襲い掛かってきた。

「ギャッ」

風に吹かれる空きボトルもかくやの勢いでゴロゴロと転がり、頭をぶつけて一旦意識が途切れた。


「─おい、おい!起きろ!お前が起きないと何も見えない!」

視界共有をしている相棒からの非難の声で意識を取り戻し、最初に目にしたものに言葉を失った。

「……俺、か?」

赤熱する小型の調査衛星を意に介さず手で掴んでアタッシュケースに仕舞っている者は、朝に鏡で見た己と同じ姿をしていた。同じ服を着ていた。

「マジか、人間のコピー?」

視界共有で同じものを見ている相棒と呆然としていると、携帯端末が小刻みに震えだした。最初はメールの通知かと思ったそれは勢いを増し、やがて画面を流れる濁流となった。

「ああクソ!マズいマズいマズい!」

「どうした、衛星は取られちまったんだぞ」

「あの変なの、お前の個人情報もコピーしていった!」

「ネットで第1発見者と取得者がお前になってるんだよ!追っかけろ!それから逃げろ!」

【続く】


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