見出し画像

「木を見て森を見ず」へのアンチテーゼ。1粒のカカオを1つの森として捉える。

カカオを使う企業が、カカオの産地を森林ごと守るという動きがある。

フランス・リヨン近郊を拠点にするチョコレートメーカー「ヴァローナ」。100年の歴史を誇るこのメーカーは、カカオの種の保全活動をより科学的な視点から押し進めるためのプロジェクト「カカオ・フォレスト」を2015年にスタートさせた。

ヴァローナの精鋭部隊「カカオ供給チーム」のメンバーだったピエール・コステ氏が始めたこの取り組みは、現在ヴァローナだけでなくフランスのパティシエ協会「ルレ・デセール」やその他のチョコレートメーカー(ヴェイスのような同業者や協定パートナーなど)、農学エンジニアの教育機関や研究所など、各方面の関係者たちの賛同を得て、徐々に規模を拡大している。

カカオ供給チームの一人、農学者のジュリアン・デスメ氏はこう話す。

「大前提として、自然の恵みであるカカオを守ることはエコロジーの観点でとても有益だという揺るぎない事実があります。それまでにも私たちは、集約的でありながらも環境負荷が低く、人々の営みと生態系を共に尊重した伝統的なアグロフォレストリー(*)に取り組んできました」

*アグロフォレストリーとは、農業(Agriculture)と林業(Forestry)を組み合わせた造語。1970年代にカナダの国際開発調査センター(IDRC)の林学者ジョン・ベネ氏の研究から生まれた概念で、日本では「森林農業」や「森を守る農業」などと呼ばれる。樹木を植え、森を管理しながら、そのあいだの土地で農作物を栽培したり、家畜を飼ったりすることを指し、森を伐採しないまま農業を行うことが最大の特徴。つまり従来の単一栽培と違い、カカオ以外の農作物や材木なども収穫できるため収入の安定につながると考えられている。

「『カカオ・フォレスト』は、カカオを取り巻く最も適切なアグロフォレストリーを決める試みです。タロイモやヤマイモ、トウモロコシ、その他果物や木材等、カカオと同時に生産でき、かつそれ自体も生産者の二次的財源ーー商品化して市場に出す、もしくは食糧として収穫できるーーになるものは多く存在します。しかしそのなかでもきちんとカカオの生態系を尊重でき、かつそれ自体に高い収益性がある農作物はどれなのか、どのような栽培をすることがより効果的なのか、といった事柄についてはまだ議論の余地があり、生産者やメーカー、各分野の専門家たちを巻き込みながら探究を続けています」

それ以外にも、温暖化をはじめとする環境の変化や生態の多様性にも柔軟に対応できるカカオ栽培の在り方などについても、並行して研究が進められている。カカオの生態系を尊重し、かつ生産者のコミュニティにとって有益な栽培方法をパートナーたちと共につくっていくこと、それこそが「カカオ・フォレスト」の目指す道筋だ。

「『カカオ・フォレスト』はヴァローナやピエール・コステから発足したものではありますが、決して私たちの独り舞台ではありません。よりエコロジーかつより効果的なカカオ栽培を目指し、チョコレートに関わる全ての人に門戸を開いてビジネスモデルを提案したい」

プロジェクトを通じて見出したシステムを、ゆくゆくはドミニカ共和国全体、そしてその他の国のサプライチェーンまで広げていくということだ。

ヴァローナ ジャポン
〒102-0074 東京都千代田区九段南2-9-4
https://www.valrhona.co.jp/
https://www.instagram.com/valrhonajapon/