山内雅弘 螺旋の記憶Ⅲ ~ オーケストラのための (プログラムノート)
来たる2024年11月27日に行われる「オーケストラ・プロジェクト2024」
にて当日配布されるプログラムノートを先行公開いたします。
山内雅弘 螺旋の記憶Ⅲ ~ オーケストラのための(初演)
Masahiro YAMAUCHI: Memory of Spiral Ⅲ for Orchestra
曲名の通り「螺旋の記憶」と題した作品の3作目です。第1作はフルートとヴァイオリンの二重奏曲で 1996 年に作曲しました。第 2 作は 2 本のヴィオラのための作品で、2020 年に作曲し、翌 2021 年 6 月に開催された私の作曲個展で初演されました。第1作、第 2作ともにシンプルな二重奏曲ですが、第 1 作を作曲した際に、2 つの楽器が曲線的に絡み合う音響イメージから DNA の二重螺旋構造を想起し、このような曲名を付けました。当初よりシリーズ化の計画が有ったわけではなく、2 本のヴィオラの作品を思い立ったとき、やはり2つの楽器が絡み合うイメージから再度この曲名を使用しました。そして、今回はオーケストラという最大編成で、そのイメージをもう一度確認したいという思いからこの曲名となりました。二重奏曲のような編成ですと、そのシンプルさから DNAの二重螺旋のイメージはストレートに連想されますが、今回はオーケストラという大きな編成が故に、全体の響きの中に様々な螺旋的音型が織り込まれるという形を取ることとなりました。その上で、曲全体が一つの持続したエネルギーを持って螺旋のように最初から最後まで持続するさまを思い描きました。この曲の大きな特色は、冒頭の 5 分近く(全体の演奏時間の 3 分の 1 ほど)にわたって、ほぼ弦楽器のみ、すなわち弦楽オーケストラの形で演奏されるということで、それは私としても初めての試みです。また、この曲では、ある音型や旋律断片が、のちに最初のそれとは様相を変えて再現することが意図的に仕込まれていますが、それは古典的な意味での「再現」とは異なる意図、役割を持っています。
今回のテーマである AI について言えば、この曲には AI が関わっている部分は全く無く、全ては人間である私の創作です。といって、別にAI を否定する気持ちはありませんし、AI が跋扈する未来に悲観的でもありません。結局は便利な道具として、人間が使われるのではなく、いかに使うかということだと思います。ただ、今の私にとってはまだ未知の分野で、これからの研究ということになりそうです。数年後にそれによって自分の創作が変わるのか、それは自分にも分かりません。
最後になりましたが、今回演奏してくださる大井剛史氏、東京フィルハーモニー交響楽団の皆さん、そして、この演奏会の実現にご協力下さった皆様に改めて感謝申し上げます。