泉房穂氏の暴言を振り返る

前明石市長泉房穂氏の発言が批判を集めている。

氏に対する評価は両論あるようだが、自らのパワハラ発言で辞任に追い込まれた過去があることは事実。だが、その発言すら「市民を思ってのこと」「悪いのは何もしなかった職員の方」と擁護するような風潮があるように思う。
ここでは、職員の視点から、擁護派の意見「職員が何もしなかった」について検証してみることとする。

1.「7年間なんもしてない」発言

以下、泉氏の発言内容は、AERA.dotのページから引用させていただいた。

なんもしてないやないか、7年間! 平成22年から何してんねん、7年間! お金の提示もせんと、楽な商売じゃほんまお前ら! アホちゃうかほんまに。

上記発言は、協議が始まって間もなく、おそらく十分な説明すら聞いていない段階で飛び出している。協議とは名ばかりで、最初から説明を聞く意思などなく、一方的に職員を怒鳴りつけることが目的だったことは想像に難くない。その直後に、かの有名な「火つけてこい」発言があり、その後も執拗に「7年間なにもしていない」を繰り返していることから、泉氏の逆鱗に触れたのは、事業開始から7年が経過するのに、用地買収・物件移転が完了していない、という点にあることが推察される。
では、担当の職員が「7年間なんもしてない」との指摘は的を射ているのだろうか。

2.「7年間」の趣旨

市長が怒ったからやっと行っとんか! まだ正式にやってないやないか! 単なる放置やないか、7年間! すまんですまん! そんなもん! すまんじゃすまん! この話は! 7年も何しとってん。


問題になった事業は「国道2号明石駅前交差点改良事業」であるが、その概要及び主要な経過については、明石市建設企業常任委員会の資料を参照いただきたい。

事業着手は平成22年、上記の発言があったのが平成29年であり、ここから起算すれば確かに7年が経過していることになる。が、資料に明らかなとおり平成22年度は地元説明会及び用地測量、平成23年度は物件調査を主に行っている。また、本件事業主体は国(国土交通省)であり、明石市は用地買収業務を受託しているが、受託契約の締結は平成24年4月であることが記載されている。すなわち、用地買収業務に着手したのは平成24年4月以降であり、平成29年度における経過年数は5年程度ということになる。
激昂していたのか知らないが、事業初年度から用地買収に着手できないことは、認識がなかったのだろうか。

3.「なんもしてない」の趣旨

だってそうやろ? だってやってないんやから。正式手順もやってないやないか。金額提示やってないやん、まったく。何しとったん? 値段交渉でしょう? 値段も提示せんと何をしとったん。ややこしいところ後回しにしとったんやろう!

察するに、当初から難航が予想される案件だったのであろう。氏の主張は、早期に価格を提示し、(『正式手順』という語から)土地収用法の適用を視野に入れろ、という趣旨であると解される。
しかし、上記のとおり明石市は用地買収業務を国土交通省から受託しているにすぎず、業務の進捗は各年度の委託費によって大きく左右される。担当部長も説明を試みているが、国からの予算が来なければ買えない、のである。
予算の裏付けがないまま契約を締結することができないのは当然のこととして(自治法232の3)、実務的な問題として租税特別措置法の適用要件がある。
公共事業による用地買収の場合、一定の要件に当てはまれば、譲渡利益から特別控除額(上限5,000万円)を差し引くことができるとされている(租税等別措置法33の4)が、この特例適用の要件として「買取り等の申出があった日から6か月以内に譲渡されている」ことが挙げられている。
この「買取りの申出」は「個別交渉等の場面で、事業施行者等が買取り資産を特定し、その資産の対価を明示してその買取り等の意思表示をしたこと」とされているので、地権者の利益を考慮し、6か月以内に契約の目途が立つまでは概算額を提示するのが実務上の取扱いとなっている。
以上を勘案すれば、氏が再三言及している金額の提示は「(措特法の関係で)しなかった」し、「(予算がなくて)できなかった」と言えるだろう。

4.まとめ
明石市議会の議事録を検索すると、平成31年3月4日の総務常任委員会で以下のような発言がある。

千住委員
職員は職務怠慢でないと、ルールどおりしっかりやっていたということで、管理する者とすればそう判断してよろしいのでしょうか。

中島総務部長
総務部長の中島でございます。そのように考えていただいてよろしいかと思います。

氏を一躍有名にした一連のパワハラ発言は、(『7年』にせよ『なんもしてへん』にせよ)重大な事実誤認に基づいていることが、公式にも認められていると言ってよい(ただ、氏の舌禍による辞任が平成31年2月2日、出直し選挙が行われたのが同年3月17日なので、上記発言は「鬼の居ぬ間に・・・」という感じがしなくもない笑)。
一連のやり取りの中で恐ろしいのは、言葉の荒さや勢いではなく、聞く耳を持たない点だ。記事の中でも、上記の事項は担当部長等も説明を試みた様子であるが、発言をことごとく遮り、自らの主張を繰り返していることがうかがえる。
いかに優秀であろうと、一人の人間が行政の仕事全てを把握することなどできない。業務を知悉している担当者から得た情報によって判断するのが上に立つ者としての役割だろう。

一国の首相を小馬鹿にするような発言をしているが、自らの聞く力を省みるつもりはないようだ。

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