クリスマスツリーを飾ること(2)

クリスマスの断片的記憶です。

①小学生の頃のピアノの発表会は、クリスマス直近の日曜日に行われていた。隣町のでっかいホール、でっかいスタインウェイのピアノがある。初めて下ろす、フワフワしたワンピースを着る。決まって黒だった。舞台の縁は真っ赤なポインセチアで彩られている。
何十人も生徒がいるため、めちゃくちゃ飽きる。自分の演奏はほんの数分で後は暇。尻の痛みと闘いながら、ほとんど聴いちゃいない。(年齢順に演奏のため、後半は高校大学のお兄さんお姉さん。曲がくそ長くスローテンポな上に、練習不足でつっかえつっかえ弾くから全くつまらない)年齢が高くなると、今度は睡魔との闘い。

圧迫感ある空間に一日中閉じ込められた後に、初めて外に出る。既に日は暮れ、宵の明星が淡い緑色の空に出現していた。ワンピースにコートを羽織っただけでいつもより薄着だから、またホールとの落差でいっそう寒さが肌からしみこんでくる。(この時期は凛然とはしているものの、無風の場合が多く体感はそこまででもないし、大気は静止してずうっと透き通っている。非科学的に言えば、光が真っ直ぐに進んでくる気がして、星もとても美しい。)
星に向かって(正しくは駐車場に向かって)、スキップした。ご褒美として配られるお菓子がいっぱい詰め込まれた袋を抱えて。パンプスがアスファルトの上でタッカタッカと鳴る。

帰宅するとすぐクリスマスパーティの準備に取り掛かる。クリスマス前最後の休日だからここにやるしかないのだ。手巻き寿司とでかい鶏肉とサラダとピザをテーブルに並べ、年に一度の登場!の華奢なグラスとか、カラフルなカトラリーとか、トナカイ柄のランチョンマットとかもセッティングした。ツリーの電飾も点灯する。グラスにチラチラと楽しげに反射していた。

「乾杯!」両親がワインで、私は気の抜けたシャンメリー。炭酸が苦手で前日に空けて置いておいた。あとはもりもり食べるだけだった。「酢飯無くなるの早すぎ」「意外と鶏、パサパサ」「来年は普通に照り焼きチキンにしよっか…」「ピザまで入らないかも」口々に言い合う。
ちなみに広い居間なのに結局寒くてストーブの周りに密集して座ってるのが、なんだか滑稽だった。暖かいのは温風が届く範囲だけで、部屋は全然寒い。一日中いないから家がすっかり冷めるのも仕方ないのだが……
腹がくちくなってフローリングにごろんと寝転がる。
私「あーあ、今日は疲れた。もう寝ようかな」
母「まだケーキあるよ」
私「食べます!!!」


②今日は父も母も仕事で遅くなるらしい。そういう時は、思う存分本を読む。カフェラテの素をカップにサラサラとあけて、甘い飲み物を淹れる。ブランケットに包まって、ストーブの前に座り込む。定番スタイル。
冬休みの長期貸し出しで、佐藤さとるファンタジー全集を4、5冊借りてきた。世界観が可愛らしくて、当時のお気に入りだった。随分古い感じの装丁で、誰がつけたのか、茶色いシミが黒子みたいに点々とあるやつだ。

なんだか気配がする。ハッと顔を上げた。ドアのガラス部分が光でチカチカしていた。17時になったので、タイマー設定で居間にあるクリスマスツリーが点灯したのだった。
12月からは一晩中付けっぱなしにする。控えめな、密かな、イルミネーションのつもりなのだ。外にやるやつって恥ずかしいし、田舎の住宅地においては少しばかりうるさく見えませんか?

子供の特権「冬休み」を行使していること、年末が近づいていることを急にさとって、寂しくなった。