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W2D1 学園- 학교

 ルナはしばらくその場で暮れなずんでいく空を眺めていたが、やがて空が真っ黒になっていくにつれて、家に帰らないと、という気持ちが強くなってきた。
 今、自分がいるところは、眼の前に映し出される地図によってだいたい理解している。
 鷲ヶ峰の近くにある、鷲ヶ峰団地の上。
 どうして地下にいたのに、出てきたところは鷲ヶ峰団地の屋上なのか。
 ルナはその時点で頭痛がしてきそうではあったが、自分自身が改造されるという理不尽と非日常を経験したのちだと、このような景色すら不思議に、そして理不尽に思わなくなる。
 そのことを思うと、もう他のことは考えられなくなった。
 ルナは周囲を見渡し、手入り口を探す。
 しかし防犯のためか出入りできないのを確認すると、ゆっくりと息を吐く。

 そして自分は死んでもいいや、という考えで縁に立ち、すっと身を投げる。
 しかし、体に埋め込まれたショックアブソーバーはかなり性能がよく、まるで猫が着地したかのようにすとんと地面に立つことができた。
 尻には尾ひれがついており、服も異形。
 こんな姿で歩くわけにはいかないと、ゆっくりと裏道を歩く。
 ここからであれば歩いても帰れる。
 それだけはなんとも言えない安心を感じた。

 しばらく歩き続けているうちに、涙がこぼれてくる。
 一体どうしてこんな目に遭わなければならないのか。
 そして自分は洗脳され、兵器にされる前に逃げ出し、ここにいる。
 その姿は兵器であり、そして人である。
 その狂気にルナは耐えるかのように、ゆっくりと歩いていく。
 それだけでも十分に心が壊されてしまうようで、ただじっと前を見つめることしかできない。
 うしろを振り向いたら怪物に追われてしまいそうな気がする。
 一方で前を向けば敵が待ち構えているかもしれない。
 時間がたつにつれ、家に近づくにつれ、さらに不安が強くなってくるのを、それでも自分はこの体を与えれたのだと納得させ、家へと向かった。

 三十分ほど歩くと、王禅寺の自宅にたどり着いた。
 自分がさらわれた場所は、その時に何もなかったかのように落ち着いたたたずまいで眠りについている。
 教会に至る道もすっかりと、ルナを知らないかのように休んでいた。
 そのことを思うと、急に涙がこぼれだしそうになる。
 ルナは改造されてもこのように泣けるのかと思い、さらに涙を流した。
 こんなところまで人に模して造らなくてもよかったのに、
 ヒトとして生きるにはあまりにも中途半端で、機械なのか、人間なのかもわからない。
 機械であることを否定しようとして、眼を閉じる。
 しかし、目の前に表示される各種メーターは、自分が機械であることを否定させないようにしていた。

「난... 사람이야...僕は……人さ…」

 ルナはつぶやく。
 ここまで涙が止まらないのは、一体いつぶりだろうか。
 普段はどんな悲しくとも涙などでないし、つらくともそのそぶりを見せないでいようとしている。
 それでも泣いてしまうほどであることを考えると、自分がどれだけ悲しんでいるのかが理解できた。

 自宅に帰るとシャワーを浴びる。
 そのたびに体に走った無数の、ルナの人工眼であるからこそ見える傷は、自分が異形のものへと強制的に変身させられていることを認識させられる。
 服は何とか脱げたが、尻から延びる尾っぽをどのように隠したらいいのか、知恵が回らない。
 落ち着いたらいろいろと試してみようと思うも、そんな気持ちにならなかった。
 シャワーから上がると、パジャマを着ようとする。
 しかしパジャマは袖に通した瞬間、力が強すぎたのか、脇の部分から袖が抜けた。
 ルナは破れたパジャマをじっとみて、立ち上がり、キッチンにあるゴミ袋を取り出す。
 しかし、その時もまた、ビニル袋はいとも簡単に破れてしまった。

 自分のこの、意味のない怪力、そして能力。
 それを今、まじまじと見せつけられ、そしてどうしようもできずにその場に蹲った。

 結局ルナはシャツを着ることもできず、裸で布団の中に入った。
 身体は何か搭載されているのか、暑くも寒くもない。
 裸なのにもかかわらずこのように気持ちよく過ごせるのは、もしかしたら改造されたからかもしれない。
 そう思うと、余計に涙が流れる。
 このような時、どうしたらいいのかもわからない。
 つらい時にこそ祈りなさい、と牧師は以前言っていた。
 それでも、このようなときにはそんな思いすら沸き起こらず、ただ佇むことしかできない、
 気持ちの整理ができないせいか、すぐに目が覚めてしまい、大きく目を見開くことになってしまう。
 そのたびに腕に取り付けられた変身リングが飛び出てしまう。
 ルナはそれを触ってみる。
 まるで心臓がマッサージされているかのような、独特な快楽。
 ルナはゆっくりとその快楽を味わい、息を吸って、吐く。
 不思議と涙が引き、代わりに自分の身体への喜びが感じられる。
 しかし、それがもし自分を同胞殺しに仕向けるものであったら。
 その不安にルナは急いで手を放し、ゆっくりと深呼吸する。
 その後は眠れず、じっと朝になるまで空を見ていた。

 空はルナを置いて移り変わっていき、朝から昼へ、昼から夜へと移り変わっていく。
 ルナはこの週、電話も入れることなくすべてを休み、じっと改造されたままの姿で空を見ていた。
 自分がこのように改造されても空、そしてほかの人間は変わりなく生き、笑い、泣いている。
 そんな景色がうらやましくなる。
 一体自分は何を間違えていたのだろうか。
 信仰が間違っていたのであろうか。
 あるいは、神様なんか信じたからであろうか。
 ルナは何が間違ってこのような体になってしまったのかが分からず、再びぼっと空を見る。
 空も、近所の中学校に通おうとしているのであろう中学生も、何もないかのように動いている。
 一体自分はどうして一般の道を外れてしまったのか、理解できずに、再び涙を流した。

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