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いまこそ『泥流地帯』

~『泥流地帯』『続泥流地帯』とは~

三浦綾子著「泥流地帯」「続泥流地帯」(新潮文庫)


昭和51年から北海道新聞日曜版に連載された三浦綾子の小説。

 大正15年5月24日、十勝岳の大爆発により発生した泥流(火山湖の崩壊や熱により融かされた残雪)が麓の農村を襲い、144名が犠牲となった国内最大の泥流災害。
 入植から30年、数多の困難を乗り越え築き上げた美田とささやかな安寧を手に入れた開拓者たち。その全てを一瞬で奪い去る災禍がなぜ「正しく生きる」者へ降りかかったのか、試練とは一体何なのか、善因善果、悪因悪果は人間の勝手な幻想なのか。

 未曽有の災害に直面した北の開拓民たちの生き方を題材に、膨大な取材によって綿密に描かれた三浦文学の代表作。幾多の困難に直面する現代にこそ読み継がれるべき名作中の名作です。(文庫版は新潮文庫より、電子版は小学館より刊行)

 なお続編として『続泥流地帯』がありますが独立した2作というよりは通読してはじめて成立する、実質的な「上下巻」としてお読みいただくことを強く推奨します。

 とかく読後感が「暗かった」「救われない」などネガディブな傾向が非常に強い本作品。とんでもない。本当は明るく、前向きで、救いに満ちて、胸キュン要素さえ溢れる超ポジティブ小説です。
 よっく(節子のマネ)お考え下さい。30年開墾を続けた田畑に、敷き詰めたように重なり合うおびただしい数の流木と、硫黄を含んで火をつけたら青白い炎を立てて燃えちゃう泥土が1メートルも積み重なった状態から「よっしゃ、復興しよか」となる登場人物たちのメンタル。
 もちろん史実に基づいたものですが、これ以上ポジティブな物語があるでしょうか。

この風景を前に「よっしゃまた田んぼにしたろ」と思えるメンタリティが物語の根幹です


 しかも未曽有の大災害に加え貧困、差別から人身売買まで、大正末期から昭和初期の社会が抱えていた負の要素をしっかり押さえ、主要登場人物が揃って試練(不幸)の森を彷徨っているのに隙あらば恋愛です。

 石村耕作 石村拓一 曾山福子 深城節子
 大正から昭和にかけて4人の男女が繰り広げる恋愛ドラマ、特に頻繁にさく裂する耕作の鈍感砲にはムズキュンを通り越してイラキュンです。

 今となっては何度読み返したのか全く見当もつかないほど中毒性があり愛してやまない『泥流地帯』『続泥流地帯』。
 超絶ポジティブかつイラキュン恋愛要素が満載。さらに連載時から意図的に「平易な言葉で」誰にも読みやすく書かれ、かつ敬虔なクリスチャンである筆者がキリスト色を抑えに抑えた(三浦文学比)作品。特に若い方にはぜひ読んでもらいたいのです。

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