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フェアの紹介 「特殊設定ミステリ7選」

特殊設定ミステリというのは、現実世界ではあり得ないような設定(たとえば超能力とか心霊現象など)が存在しているという前提で書かれているミステリのことです。
舞台が現代日本ではなく、魔法が当たり前に使えるファンタジー世界だったり、異星人が登場する他の惑星であったりもします。
 
「実は犯人は透明になるマントで身を隠していたんだよ」というのが密室の真相だったら読者は怒り狂うでしょう。(こういうミステリを店主は実際、読んだことがありますが。逆にびっくりしました……)
でも、最初から「透明マントが存在する」ことを読者に提示していれば、その上でトリックやロジックに組み込んでも十分フェアであると言えると思います。
 
特殊設定ミステリは近年、大流行でいろいろな作品が発表されていますが、すでに90年代後半から名作と呼べる作品が存在していました。
玉石混交のこのジャンル、当店のおすすめをぜひご覧ください。
 
生ける屍の死(山口雅也/東京創元社)
ニューイングランドの片田舎で死者が相次いで蘇るという怪現象が起きる中、霊園経営者一族の上に殺人者の魔手が伸びます。
死んだはずの人間が生き還ってくる状況下で殺人を犯す意味って……? というのが本作の眼目です。
ちなみに、この事件を追う探偵グリンもまた死者となっているのが面白いところ。
店主が知る限りでは、国内で特殊設定ミステリが最初にヒットしたのはこの作品ではないでしょうか。発刊は1989年10月です。
 

 
七回死んだ男(西澤保彦/講談社)
本作の特殊設定は「反復落とし穴」。いわゆるタイムリープ現象です。
同じ一日が何度も繰り返されるという設定なのですが、そのたびに殺人事件が起こってしまいます。
被害者は主人公の祖父。唯一、タイムリープが起きていることを認識している彼は何とかして殺人を未然に防ごうと奮闘するのですが、なかなかうまくいかず……。
西澤保彦さんはこの作品以外にも「特殊設定ミステリ」を多く書かれていて、このジャンルの第一人者のひとりと言っていいでしょう。
 

 
さよなら神様(麻耶雄嵩/文藝春秋)
この作品には「神様」が登場します。
最初の短編「少年探偵団と神様」の冒頭一行目は、「犯人は上林護だよ」というセリフから始まります。
これ、神様が言っていることなので絶対に間違っていません。
つまり、読者にとっては事件が提示される前からすでに犯人の名前が知らされているという……そんなミステリ、普通ありませんよね?
犯人視点で描かれるミステリのことを「倒叙ミステリ」と呼びますが、それとはまた違います。
麻耶雄嵩さんならではの特殊設定、そして後味の悪さは随一です。
 

 
折れた竜骨(米澤穂信/東京創元社)
ロンドンから出帆し、北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。
その領主を父に持つアミーナは、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会います。
……というあらすじだけだと、ファンタジー小説のように思えますよね。
違います。剣も魔法も登場しますが、しっかりしたロジックに支えられた本格ミステリです。
犯人当て(フーダニット)が好きな方には絶対おすすめです。
 

 
アリス殺し(小林泰三/東京創元社)
大学院生・栗栖川亜理は、最近不思議の国に迷い込んだアリスの夢ばかり見ています。
ある日ハンプティ・ダンプティが墜落死する夢を見た後大学に行ってみると、玉子という綽名の男が屋上から転落死を遂げていました。
次に見た夢の中でグリフォンが生牡蠣で窒息死すると、現実でも牡蠣を食べた教授が急死。そして不思議の国では、三月兎と頭のおかしい帽子屋が犯人捜しに乗り出していましたが、なんとアリスが最重要容疑者に……。
夢の世界と現実世界がリンクしながら進むという異色のミステリですが、中身はしっかりとした本格物です。
店主はあまりダイイングメッセージもののミステリが好きではないのですが、これは本当に感心しました。
 

 
星詠師の記憶(阿津川辰海/光文社)
「星詠会」という「未来視」の超能力を研究するグループの内部で起こった殺人。休職中の刑事がひょんなことからその解決に乗り出すことになります。
「紫水晶に未来の映像が映し出される」という設定をトリックに巧みに取り込んだ本格ミステリです。
とは言え、奇想天外なトリックが使われているわけではなく、犯人特定は極めてロジカル。
少々複雑な手順で真相が解明されるので、解決編は流し読まずにじっくり整理しながら読み込むととても面白いと思います。
 

 
屍人荘の殺人(今村昌弘/東京創元社)
デビュー作にして5冠達成。映画化までされたベストセラーなので、この作品については説明不要かもしれませんね。
店主が語るまでもなくちょっと検索すれば本作を賛美する書評は山ほど出てくるでしょう。
ベタなクローズド・サークルものなのですが、その閉鎖空間を作り出すネタが「特殊設定」なのです。
そしてその「特殊設定」がただ単にクローズド・サークルを作るためだけに用意されたものではなく、殺人事件そのものにも、トリックにも活かされているのが秀逸です。
犯人当てミステリとしても非常に良く出来ていると思います。
 


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