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県外学生踊り子はよさこい祭りの夢を見るか?

じりじりと肌を刺す太陽。一糸乱れぬ隊列。カラッと晴れ上がった8月の昼過ぎ。太陽は南中高度を目指している。

両足に纏う黒足袋は太陽光を吸収し、みるみるうちに体力を奪う。

Tシャツなりタンクトップなりワンピースで少しでも熱を逃したいのに、自慢の衣装がそうさせてくれない。

アニメで「変身を2回残している」などといった使い古されたセリフを余裕の表情で言いたいところだが、衣装の中に着込んだ衣装は想像通りに僕の身体から水分を奪っていく。

初めての高知。先輩は目をギラギラさせて、高知がいかに素晴らしいかを説いてくれた。子どもの頃から続けていたという「よさこい」。運動もなにもしていなかった僕は授業の息抜きというより、大学のサークル活動で彼女ができたらいいなという邪な思いで入った。

大学近くの老人ホームの慰問演舞で、喜んでくれたおじいちゃんを見て「踊ることは誰かが喜んでくれるんだな」と思い、わずかばかりの自信がついた。

それが今、本場の高知に足を踏み入れた。

万国旗はためく風景はさながら運動会のよう。

出店があり、いかにも地元の祭りという感じだ。

まぁ、いい。僕は僕なりにやれることをやるだけだ。

この日のためにバイトも休みをとった。店長には怪訝な目で見られた。あとでどやされるだろうなぁ……

しかし、この暑い中こんなに衣装を着て、思いっきり声出して踊るんだろ?正直やってられない。クーラーの効いた部屋でカルピス飲んでゲームしたい。

「……から来ました……です!!」

地方車(じかたしゃ)の上から威勢の良い声で踊り子を鼓舞する先輩。普段はとても可愛く、正直好きだ。でも、彼女からすれば踊り子の中の一人にすぎない僕は踏ん切りがつかないでいる。

まぁ、でも先輩の声で踊るのは悪くはない。この灼熱地獄の中のオアシスは彼女だ。熱心に誘ってくれた先輩と仲良く話している姿を見るとちょっと胸が痛む。

「ズゥゥゥ……ン!!」

なんだ…これ…!?いつも聴いてる曲か!?

心臓が震える。どうすればいいんだ?

鼓動がやまない。痛くはない。むしろ心地いい。

「よいやっさ!」

先輩の声で思い出す。

あぁ、そうだ。知らない曲じゃない。いつも練習してきた曲。一生懸命覚えた曲。僕なりに必死になって身体を動かしてきた。そのたびに先輩たちは褒めてくれた。

僕なりによさこいが楽しいと思えてきたばかりだ。

曲が始まれば暑さなんてどうでもよかった。

手になじんだ鳴子の音色。空にはためく袖。

右にも左にも前にも後ろにも一緒に踊ってきたチームメイトがいる。

「高知じゃビールがうまいんだぜ!」

豪快に笑った先輩の気持ちが今ならわかる。

未成年なのでビールは飲めないけれど、ひとしきり踊った後のカルピスはうまそうだなと思った。




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