ポッキー。
「はい、ハッピーシェアね!」
最近彼氏と別れたばかりの私に、そうやって親友のチカはポッキーを渡してくれた。
チョコがたっぷりコーティングしてあるのに、ほんのちょっぴり塩気を感じたその1本が嬉しかった。
チカと話すとなんかスッキリする。
先生に怒られたときだって、お母さんと喧嘩したときだって、いつも私のグチをうんうんとうなずきながら聴いてくれた。
チカはいつだって明るく、クラスの中でも目立つ方だった。
顔も可愛いし、いつも男子から話しかけられる。
私が付き合ったのはサッカー部のタクロー。向こうから頼み込まれて勢いで付き合ったけど、
「好きな人ができた……」って。
は?なにそれ。
所詮高校生の恋愛なんてこんなもんよねー…と半分ヤケになっていた私をずっとチカは励ましてくれた。
「ま、ウチら受験もあるし、大学に入ったらいい出会いあるって!」
そうやって、ケラケラとチカは笑った。
そーゆーとこだよ、チカのいいところ。
「ねぇ、もう一本ちょうだい!」
私もすっかり元気になって、チカから強引にポッキーを奪った。
最後の一本だったことに、かじってから気づいた。
「ごめん、最後だったんだね…」
「ううん!気にしないで!それより…元気になってよかった!私また買うね!またシェアしよう!」
その一言にまた目がうるむ。
なんでそういうこというかなー。嬉しい。
次の日に、今朝コンビニで買ったポッキーを手に学校に向かうと、教室にはチカとタクローがいた。
なぜか私の足はすくみ、教室に入れない。
タクローが頭を下げて、チカがうなずく。
え、そんなのないよ…。
私は教室に入ることなく、家に帰った。
枕に突っ伏して、しばらく泣いた。
昨日のポッキーの味を思い出して気持ち悪くなった。
親友?
は?なにそれ。
私の彼氏だったって知ってるくせに。
好きな人ができた、ってよりによってチカだったんだ。
泣き疲れて眠った。
目を覚ましたのは夕方でLINEが3件入ってた。
何かのはずみで友達登録した機械的なメッセージとお母さんから「夕飯どうするー?」の一言。
そしてチカから
「どうしたの?大丈夫?」
って。
心の底からチカを憎いと思った。
私の気持ちも知らないで…よくも…!
私はそれっきりチカとしゃべらなくなった。
チカは最初こそ気まずそうにこちらを見ていたけど、人気者の彼女はいつだって周りから何かしら話しかけられて、どこかへ消えてしまう。
完全に私たちは絶交した。
私はしばらく一人で学校で過ごした。
「お前…進路どうするんだ?」
3年になって担任の梨本先生はずっと同じことを尋ねてくる。
漠然とA大学を受験しようと考えていたので、それを伝えると満足そうに、
「そうか、頑張れよ」
と言ってくれた。
受験を迎え、合格通知を手にし、キャンパスライフの始まりを迎えた。
「大学に入ったら、いい出会いあるって!」
こともあろうにあの女の一言が頭に浮かぶ。でも、もう昔の話。
オリエンテーションに向かって、イスに腰を下ろす。
隣で緊張感もなくポッキーを食べている女がいた。
「えっ…!久しぶり…!?」
思わず私は目の前のチカをにらんだ。
「ちょ、ちょっと怖いって!どうしたの!」
さんざん思いの丈をぶちまけてやろうと思ったが、うまく言葉が出てこなかった。
「タクロー」と一言出すのが精一杯だった。
チカは
「昔の彼氏じゃん。懐かしいね!え、なになに、タクローとまた付き合ったの!?」
チカは気持ちを察することが昔から苦手だった。だから時々私を傷つけることもあった。
でも、その倍くらい彼女に話を聞いてもらった。
そのたびに私は立ち直れた。
それなのに、私はその親友を許さないと決めつけてしまった。
どこまで自分勝手なんだ、私。
「食べる?」
会話に困って、チカはチョコのたっぷりかかったポッキーを私にくれた。
その味は甘くて、前に食べたときのほろ苦い味を感じさせなかった。
「ポッキーって甘かったんだね」
そう彼女に伝えるとケラケラ笑った。
「そりゃポッキーは甘いでしょ!」
授業開始の時間になり、チカはそそくさとポッキーをかばんにしまった。
私はその甘い甘いポッキーを明日、彼女とシェアする気でいる。
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