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ネイティブアメリカンの世界への旅(4)

私のまわりにいる知人や友人たちはインディアンの太鼓や歌を聞くと何か言い知れない懐かしさを感じ、心が落ち着くという。私もそんなひとりだ。もし過去生というものがあるなら、その昔インディアンだった時があるのかもしれない。それとも、魂あるいはDNAに刻み込まれた人類が大地や自然とより親密に生きていた頃の感性が呼び覚まされたのかもしれない。

それはともあれ、私はセージに火をつけた煙で自分をスマッジ(浄化)し、インディアンのドラムをたたき、歌を歌いながら祈るネイティブの儀式に出会った。それは果てしない旅路でやっと故郷を見つけたような静かな喜びと安堵感を私に与えてくれた。同時に、どんな中傷や抑圧にも屈せず、時には秘密の隠れ場所で祈りの儀式を守り続けてきたインディアンの人々の真実に対する誠意と勇気に深い敬意と感謝の念を抱かずにはいられない。彼らは目先のことだけにとらわれない。自分の行為が7世代後の子孫に悪影響を与えないように、そして自分たちの与えられているすばらしい恵みを彼らに継承することができるように祈り、生きる習慣があるからだ。

善なる赤い道を生きるインディアンたちにとって、祈りは大切な生活の一部だ。祈りの中で、彼らはすべてとつながっていることを思い出す。大地と空と風と植物界、鉱物界、動物界と星の人々とスピリットたち、そして白い人々、黄色い人々、黒い人々と…。だからこそ、自分や身近な人々のためだけではなく、コミュ二ティや苦しんでいる世界中の人たちのためにも祈るのだった。そして私たちを導き見守っていてくれている創造主グレートスピリットに、自分の身を削って多くを与えてくれている母なる地球に、太陽に、月に、家族に友人たちに感謝を伝える。

<心から祈る>
彼らの祈りの儀式には、スエットロッジ(イニーピー)、ペヨーテ・ミーティング、パイプセレモニー、ヴィジョン・クエスト、サンダンス等がある。
私は最初の4つの儀式を実際に体験し、サンダンスにも最初はサポーターとして、後にサンダンサーとして参加することになった。これらの儀式の中で、何よりも私は自分のマインドが今までに経験したことがないほど深く静まっていくことに気づいた。最初にある種の抵抗や判断、あせり、こう見せようとか、こうあるべきだというコントロールの気持ちがどっと出てくるのだが、それらは祈りの中で徐々に引き潮のように引いていき、自分とグレートスピリットの空間が内面に広がっていくのだ。そして、そこに深く集中し、グランディングしていくような感覚を覚える。そのような境地になった時に、心の奥深くから畏敬の念や感謝、涙や祈りや自然と湧きあがってくる。そして時には、言葉にはならない神聖さを覚えるのだった。

今回の旅の中で出会ったネイティブの人々の中で、私の心に深く印象に残ったのは、苦難の過去を受けとめながら、今現在の状況の中で自分のベストを尽くそうと努め、善なる赤い道を謙虚に歩む笑顔に輝く人たちだった。そしてそのひとりが、シアトル郊外のスノーホミッシュ町でインディアン・グッズの店を経営するアンクル・マヒュー(マヒューおじさん)だった。

「商売はうまく行っているかって?ハ、ハ、ハ、わしは、店をやっているのがただ楽しんだよ。」とユーモアとやさしさでとろけそうな微笑みを浮かべて彼は言う。しかし、その眼には何か計り知れない奥深さがあった。その彼が、人生で一番大切なレッソンのひとつだと言って教えてくれたこと、それは「心を話す」ということだった。その言葉の響きを感じた瞬間、私の腹の底からウーッと湧きあがるような涙があふれ出た。…忙しい日常の中で、私は自分の心の本当の思いにどれだけ気づいているだろう?そして、内なる心の声を自分自身に、そして周りの人たちにどれだけ伝えているだろう?という疑問と共に…。

私はネイティブ・インディアンたちからいつの間にか祈りを学び始めていた。なぜならスエットロッジも、パイプセレモニーも、サンダンスも、すべて祈りの儀式だからだ。その中で、私たちは、自分自身の心と深くつながり、グレートスピリットに真剣に語りかける空間をもつ。そこでは、スピリットはただの想像上の存在ではない。今まで、頭の中で話をしていた否定的な、判断に満ちた声がやむ。意識が、気持ちがハートから、さらに腹に座っていく。そして今まで無視されていた魂の出番がやっと来る、そんな感じになっていくのだった。

この祈りのスペースに分裂はない。祈りの中で、私たちは自分たちにとってその時々一番大切な真実に気づく。旅先のひとつセドナでパイプセレモニーをリードしてくれた白人のシャーマン、ジョンはこんな話をしてくれた。
「ある日、ラコタ族の長老に尋ねたんだ。自分のようにネイティブでないものがインディアンの儀式をしてもよいのかどうかと…。すると、彼はただ『心から祈ることだ』と言った。そう、それだけなんだよ。」

そして私も何かのご縁で、この心から祈るということをインディアンたちから学びはじめたのだった。心からの祈りに国境はない。宗教の違いもない。私たちが真実や何か奥深いものに触れる時、魂が反応する。何がなんだか分からない涙があふれ出る。鳥肌が立つ…。インディアンも、白人も東洋人も、アフリカ人もみな同じだ。この祈りの中で、私は本来の自分を見出しつつある。許し、ゆだねる心が広がっていく。そして、この心からの祈りの中で、私たちの過去が癒され、地球が癒されるような気がしている。そして、一歩、一歩、統合に、真実に、平和に近づけるように思う。心からの祈りが地球上のあちこちに広がり、太鼓の響きと共に大勢の人たちの歌声として宇宙にこだますることを思う時、私は地球人としての誇りと喜びを感じる。


        <スー族の祈り>
おお、偉大なる精霊グレートスピリット…、
私は、その声を風の中に聞く
   その息は世界のすべてのものにいのちを与える。
   聞いてください。
私はあなたのもとに来ます。
  あなたの大勢の子供たちのひとりとして。
私は小さく弱い存在です。
  私はあなたの強さと知恵を必要としています。
私が美しさの中で歩んで行けますように
  そしてあなたの声を聞くことができますように
  私の耳を研ぎ澄ませてください。
人々にあなたが教えたことを、
  一枚一枚の葉っぱに、石に秘められた学びを 
  私が知ることができるように賢くしてください。
私は強さを求めます。
  私の兄弟たちに勝るためではなく、    
  私の最大の敵である自分と戦うために…。
私が汚れのない手と真っすぐに見開いた眼をもって
  いつでもあなたのもとに来れれるように準備させてください。
私の人生が夕日のように消えていく時、
  私のスピリットが恥を持たずに
  あなたのもとへやってこられますように…。
          チーフ・イエロー・ラーク (1887年) 






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