一聴で落ちる言葉【ワンフレーズレコメンド 1月9日分】
※この記事は企画「ワンフレーズレコメンド」の1月9日分のものです。
前日に投稿された、この企画の主催者であり首謀者であるハグルマルマさんの記事はこちらから↓
こんな良い文章書かれたらハードル上がっちまいますね。どうしよう。俺は俺で行きます。長文乱文ですが、気持ちだけは負けません。どうかお付き合い下さい。
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私がUNISON SQUARE GARDENが好きになって今年で4年目である。彼らが描く流線型のストーリーに魅了されて脳内にある言葉たちをなにかの形に残したいと思い、文章を書き始めた。
ワンフレーズレコメンド企画でも、もちろんユニゾンを語りたい。今回は、ファンとして初めて当日に聴けたオリジナルアルバム「Patrick Vegee」発売直後まで感覚を巻き戻して書いてみたい。
「スロウカーヴは打てない(that made me crazy)」のワンフレーズについて、最初に聴いた衝撃を思い出しながら語らせて欲しい。
ときに、曲を好きになるタイミングとはどんな時だろうか。1回聴いて好きになる曲、何度も聴いて好きになる曲、誰かが聴いていたから好きになる曲…。
様々あるだろうが、私は自分の中で歌詞が腑に落ちた時に好きになることが多い。特に、今まで自分が形成していた概念が覆るような「目からウロコが落ちる表現」に出会った時の感動は、曲を聞く度に思い出し、何度もリピートしてしまう。
「スロウカーヴは打てない(that made me crazy)」
一発で好きになった。一聴目で恋に落ち、腑に落ち、常識が徹底的に壊される表現に出会った。今でも忘れられない。職場から遠く離れた家に帰る時に郵便センターで受け取り、車の中で開けてドライブしながら聴いたスロウカーヴは打てない。いったん車を停めてリピートした。
「好き」を乱打するので、ぜひ受け止めていただきたい。
1.恋は短し愛に長し
どういう意味の言葉だ?となった方は、ことわざ辞典で万事解決。こんなことわざがある。
「帯に短し襷(たすき)に長し」
帯にして腰に巻くには短く、
襷として肩にかけるには長すぎる。
そんな長さの布に例えて、「中途半端でどっちつかずの状態」を指すことわざである。
この言葉を知ったのはsumikaの「Answer」という楽曲だった。1回聴いただけで私のフックに引っかかった。思えばそもそも、このことわざの語感が好きだったのかもしれない。
「恋に短し愛に長し」
こんなことわざは、無い。
恋と言うには短い、なにか足りない気持ち。
愛と呼ぶには長い、重たすぎる気持ち。
そんなどっちとも取れない気持ちを、ことわざをモジって表現したのだ。
語感、意味合い、全てにおいて私の未完成な心のパズルをカチッとはめた表現だった。こんな表現があったのか、好きだ。
2.友達以上恋人未満
「友達以上恋人未満」
少女マンガ、恋愛小説、ラブストーリーで、恋人にはなっていないけどお互いに好いている2人の為にある表現。友達ではないし恋人でもない、いうなれば中途半端な状況だが、人間関係なんぞ言葉一つで表せるほどシンプルにできていない。むしろこれぐらいが人間らしいというものだ。
いつから使われているかは分からないが、よく使われるし、これ以上分かりやすい表現は無いと思っていた。そう、PatrickVegeeが発売するまでは。
「恋 以上 愛 未満」
恋やら愛やらは、「好き」を表す言葉だ。だが、誰かを思う気持ちは、やっぱり一言で表せるほど単純じゃない。
対象への好きな気持ちを数値化できれば良いのだが、数学のように一意的に表せるほど、人の気持ちは体系化していない。気持ちを読み解く教科書は無いのだ。
だから、「好き」「like」「Love」「恋」「愛」「月が綺麗ですね」「すこ」「好き(語彙力)」「べ、別に好きじゃないんだからね!」「無理」などと多種多様な表現をする。
「恋よりは強いけど、愛と言うと言い過ぎなんだよねぇ」と人間らしい、一言で表せない気持ちを、多種多様な気持ちを、一言で表しちゃったのが、「恋に短し愛に長し」なのである。
しかも昔からあることわざを使って、これ以上なく語感の良い言葉を作ってしまったのである。好きだなぁ。
ここまでは前半。後半の良いところを乱打。
3.変化球な表現にストレートで返す
恋に短し愛に長し?って君の覚悟を聞いてんの!
「恋よりは強いけど、愛と言うと言い過ぎなんだよね〜」って、いやいや。君の覚悟を聞いてんの!
つまり、今まで話してきた人間らしいどっちつかずの気持ちは一蹴。
で、結局君の覚悟はどうなの。変化球な「恋に短し愛に長し」そんな言葉で気持ちを濁さずに、まっすぐに、ストレートに覚悟を問う。
ここのギャップが良い。
難しいことは聞いていない、君の気持ちは君しか知らない。結局、君がやるかやらないかの覚悟次第だろ?
普通に考えれば人を好きになることへの覚悟を問うているのかもしれないが、恋や愛は、物や概念に向けても良い。UNISON SQUARE GARDENはロックバンドなので、分かりやすく「音楽への気持ち」と捉えても良いと思う。
音楽以外の人への言葉なのであれば、「好きな人」への覚悟かもしれないし、「本気で打ち込む好きなもの」への覚悟かもしれない。
4.君=聴き手
君の覚悟を聞いてんの!の君が聞き手の場合。
どんな人間もこの言葉を聞いたらギクッとするのではないだろうか。
人間、覚悟が決まって物事をやっている時期と、どっちつかずな気持ちと共にいる時期、どっちが長いだろうか。どんなに好きなものに対しても、揺らぐ気持ちは誰にでもあろう。完璧な人間など存在しない。
この歌詞は「恋に短し愛に長し」の気持ちが悪いと言っているのではないと考えたい。そんな気持ちを持ちながらも、何かをなす覚悟をもって走り出すべきだという鼓舞に聞こえてくる。手を取っても良いけど、ついていけないなら置いていくよと突き放す、実にユニゾンらしい表現だ。好きですね。
5.君=作り手
では、君が作り手の場合。作詞した田淵智也の場合はどうだろう。
田淵智也自身も「恋に短し愛に長し」な気持ちに悩まされることもあるのだろう。田淵智也も完璧な人間では無い。一言では表せない好きの気持ちに揺らぐ田淵智也に、覚悟を持って走り出せよと自分を鼓舞しているようにも聞こえる。
田淵が書く言葉は、自身を投影した「ノンフィクション」と、完全に創作した「フィクション」が入り交じる。「ノンフィクション」と「フィクション」にそれぞれどんな例があるのかはここでは言及しないが、こんな文章を読んでいる物好きの方なら何となくわかっていただけると思いたい。
この作品は「ノンフィクション」側だろう。田淵智也は作品を作りながら自分自身の音楽への気持ちを噛み締めているのだと思う。
6.throwcurveが好きなのだろう
スロウカーヴは打てないは、曲調や歌詞を見ても、ロックバンド「throwcurve」を意識して書かれた曲である。
ただでさえ良い曲なのだが、「作者が好きなロックバンドを参考に書いた曲」というだけで、この曲が醸し出す「好き」の気持ちが何倍にも増幅する。
UNISON SQUARE GARDENが、throwcurveを純粋に好きな気持ちが曲や演奏から伝わってくる。
これも、頭一つ抜けてこの曲が好きな要因の一つだ。
しかし、大事なのは、「作者が好きな、throwcurveについて書いた」という事実で、throwcurveにどんなメッセージを込めたかでは無い。
もちろん、君=throwcurveなのかもしれない。throwcurveとUNISON SQUARE GARDENの関係を知る当人たちにとっては、伝わることもあるのかもしれない。
しかし、元も子もないことを言うが、私はthrowcurveではない。
だから、私が受け取るのは上記した4.と5.にとどまるしかないし、それ以上踏み込む気もない。それはthrowcurveがやることだろう。
だって、もう十分この言葉に落ちてしまったから。
私は十分この曲を堪能しているし、これ以上堪能するのは私のできることじゃないし、すべきでもないと思う。この距離感を、私は愛しているのだろう。
7.総括
この1行だけで、素晴らしい言葉遊びの変化球とストレートな気持ちの双方が味わえる。
そして、自分が好きなものに対する気持ちの覚悟を問う。ロックバンドらしさ満載なのも素晴らしい。
しかも、ユニゾンがthrowcurveをオマージュして楽しそうなのも伝わる。幸せはここにあったのだ。
こんなに短いのに、ここまで心が踊るフレーズがこの世にあるんだなと、Patrick vegee発売時の私に衝撃が走り、ずっと1曲ローテーションしていた。
今、書きながら聞き直しても、やはり衝撃が忘れられない。やっぱりいいなあ。かっけえなあ。
この衝撃を心に留めながら、私は今日もPatrick Vegeeの3曲目をリピートしてしまうのだ。
8.あとがき
いかがだったでしょうか。1行について話せと言われて、人はここまで文章をかけるのだと、自分でも引いています。
Patrick vegeeが発売されてから1年が経ちました。当時衝撃だった曲たちも、特別だった曲たちも、今となってはファンたちにとって、あって当たり前の曲になりつつあります。3月にツアーが終わればこの感覚が如実に現れてくるでしょう。
MODE MOOD MODEの時は、ENCOREが終わってすぐ、15thのお祭りムードに。MMMの曲たちも衝撃から当たり前に変わり、ユニゾンの新たな弾として、どんなセトリにいても違和感のない曲たちへと変わっていきました。パトベジの曲たちも、そんなふうに昇華されていくでしょう。
それでも、一聴目の衝撃は、人の心を輝かせて止みません。いつでもあの時にタイムスリップできるという安心感は、作品を楽しむ私たちにとって、とても重要です。
そのためにも、「好きだ」という気持ちを何かに書きとめておくのも、タイムスリップするためには重要でしょう。
自分の好きと向き合えた、とても楽しい企画でした。主催者のハグルマルマさんに感謝を。夏影テールライトへの愛が止まないあなたの文章で、自分以外の方の気持ちにタイムスリップできると、改めて実感できました。
ここで、ある文章を引用させていただきます。楽しんでいる人を見た時の気持ち。
素敵です。自分の今までの気持ちが腑に落ちました。だから私も何かを書き始めたんだ。
ワンフレーズレコメンド、次回1月11日(火)は、
この素敵な文章の作者、はすのめさん(@clossnes)
です。楽しみにしています。早く読みたい。
追記:何も言わずにお読み下さい。短編小説を読んだような素敵な気持ちになります↓
それではっ。