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茨木童子と渡辺綱の関係性

こんにちは。初めての人は初めまして、いつもご覧頂いてる方はいつもありがとうございます。型月の考察や型月に出てきた伝承を個人的に調べているおらふと申します。僕は専門的に専攻してるわけでもないただの素人ですので、内容等は学術的に価値があるとかそのような事は一切ありません。素人が素人なりに調べ、考察したものとなっております。それでもよろしい方のみお読みください。


 今回は茨木童子と渡辺綱について考えていきたいと思います。この記事には地獄界曼荼羅のネタバレが含まれます。ご注意ください。



茨木童子の伝承元

 茨木童子と渡辺綱の関係性について考えるにあたり、茨木童子の伝承を探っていく必要がある。という事で、まず初めに茨木童子の伝承について見ていこう。こちらの記事の中盤にごく短く書いたが、羅城門に住んでいる鬼がいたという伝承が元々あり、『平家物語』にて一条戻り橋で戦った鬼が『太平記』、謡曲『羅生門』にて羅城門にて渡辺綱が茨木童子と戦った伝承になったという背景を持つ。この為、FGOにても茨木童子が渡辺綱と戦ったのが羅生門と一条戻り橋の2つになっているのである。ここでFGOの渡辺綱との関係性で重要となってくるのが、『平家物語』にある一条戻り橋にて渡辺綱が斬った鬼の要素である。その鬼の名前を「宇治の橋姫」というのであるが、この伝承は一見FGOにおける茨木童子の姿と乖離しているように見える。しかし、その背景及び関わるポイントを見ると面白い程符合してくるのである。
 それでは、宇治の橋姫伝承についてざっくりと見ていこう。
嵯峨天皇の時代、ある公卿の娘が嫉妬をし、貴船神社にお参りして妬んでいた女を殺したいので自分を鬼神にしてくれと頼んだ。そうすると、貴船明神は鬼になりたければ21日間宇治川に浸れといい、その娘はそれを実行、鬼神になり妬んでいた女を殺してしまう。その頃、渡辺綱は名刀である髭切(鬼切)を渡され、一条戻り橋にて美しい女と出会った。それが橋姫が化けた姿であり渡辺綱が斬った という内容である。


 この内容でFGOの茨木童子と似ている性質と言えば、公卿の娘つまり高貴な身分の娘であったらしいという事だけである。しかし、宇治の橋姫は確実に茨木童子のFGOにおけるキャラクター形成の一部分を担っていると言い切れる要素が存在する。
 その内容は宇治の橋姫の別側面を見ることで理解できるので見ていこう。宇治の「橋姫」というのだから、川や水に関係があるのは容易に推測できるし、勿論宇治の橋姫は本当に水の神様としての側面を持つ。宇治川の宇治橋の近くにある橋姫神社に祀られている瀬織津姫と宇治の橋姫は同一視されているのである。瀬織津姫とは、天照の荒御魂であり、簡単に言えば水神である。ここから、茨木童子が水着になった時に「一条戻り橋」の名を持つ宝具となりスキル鬼種の魔が鬼種の魔(水)となった事が推測できる。まだ瀬織津姫の観点から茨木童子を見ることが出来るが、それは後半に回して次に渡辺綱について見ていこう。

渡辺綱のスキルと茨木童子

 渡辺綱のスキルには「水天の徒」というものがある。これは渡辺綱の子孫に関係するスキルである。その内容を見ていこう。渡辺綱の子孫は渡辺党と呼ばれる水軍を形成した。その為、渡辺綱自身も水に関連する呪術師であるという伝承がある。この水天というのはインド神話におけるヴァルナであるが、水天は日本において天之水分神と同一視されたのである。この天之水分神はアメノミクマリノカミとよみ、ミクマリの部分が「御子守り」と混同され、水天及び天之水分神は「子守りの神様」としての側面を持つようになったのである。ここでお気づきの方も多いと思うが、FGOにおいて茨木童子は渡辺綱は想い人の子供であるという設定だ。水天の徒(=子守りの神様の徒)としての側面を持つ、渡辺綱が想い人の子供の茨木童子に複雑な感情を抱くという図が成り立っているのである。

瀬織津姫から見る2人の関係

 水の神様というところが関係するという点において、渡辺綱と茨木童子が関係性を持つというのは、ここまでの説明で見えてきた。しかし、実はまだこの先がある。ここで話を瀬織津姫に戻そう。瀬織津姫は鈴鹿御前の伝承で有名な鈴鹿山の御神体でもあるのだが、瀬織津姫が弁財天と習合されている観点等から鬼女紅葉伝説の舞台である戸隠山の九頭竜権現とも関連する。 

 この九頭龍権現は戸隠山が水をため、そして水を出す山であるという所から、9つの首を持つ多頭竜となる。(おや何処かで最近聞いたことがあるような話だなあ)そして、酒呑童子はこの九頭龍の申し子という設定がFGOでも採用されてる。その設定が故にこの九頭龍の申し子である酒呑童子の配下が九頭龍権現→弁財天→瀬織津姫→宇治の橋姫→茨木童子と繋がるのはとても綺麗である。しかし、話はこれでは終わらない。

そもそも九頭龍権現の伝承の前身には黒龍信仰と白龍信仰がある。この2つの信仰の中身に踏み込む余裕はないので簡潔に考察プロセスだけ述べよう。黒龍は高龗神(タカオカミノカミ)の事であり、貴船神社はこの高龗神を祀っている神社である。ここで思い出して欲しいのが、宇治の橋姫の伝承で橋姫は貴船神社にお参りしたという点である。ここで2つめの共通点が見つかった。 (余談であるがこのお参りが丑の刻参りの原型となる。伝わる人が少ないかもしれないが丑ネタが多すぎるのである)

名刀髭切から見る関係性

 更に3つめの共通点。その内容は渡辺綱が持っていた名刀髭切(鬼切)である。名刀髭切は『太平記』にて源頼光の父である多田満仲が戸隠山にて鬼を切ったが故に「鬼切」という名前を持つこととなった。更に鬼切にはまだ深い秘密が隠されている。鬼切は坂上田村麻呂が鈴鹿御前を斬った刀であり、鈴鹿山の御神体は重ねていうが「瀬織津姫」なのである。

流石にここまでかと思いきやまだある。名刀髭切は八幡大菩薩(はちまんだいぼさつ)の加護を受けて作られた刀であり、八幡大菩薩つまり八幡神は応神天皇を初めとした比売神と神巧皇后の八幡三神の3つセットで語られることが多い。ここで注目するのが比売神である。この比売神は天照と素戔嗚尊の誓いによって産まれた宗像三女神(多岐都比売命・市杵島姫命・多岐都比売命)の事をさす。そしてこの市杵島姫命(イチキシマヒメ)は弁財天と習合されているので九頭龍権現は勿論のこと、瀬織津姫と同一視されているのである。

終わり

  瀬織津姫をメインとした場合の習合がえげつない事になってしまったが、ここの点において渡辺綱と茨木童子は関係する事となった。この髭切という剣は現在北野天満宮にあるため、以前こちらの記事で書いた北野天神が丑御前/源頼光とつながりインドラに繋がる事、水天の水天とはヴァルナである為、やっぱりインドラと関係する事、伊吹童子とヴリトラが白い蛇/黒い蛇で似ている上酒呑童子は九頭龍権現の申し子の側面を持つこと(九頭龍は白龍信仰と黒龍信仰が元々…)等まだまだ解説が出来るが、今回でインドラまわりと曼荼羅とクリスマスイベントの関係性を書くのは長くなりそうなのでここらで筆をおこうと思う。以上読んでくださりありがとうございました。

参考文献


敬称略
(PDF)
茨木童子研究 川鍋仁美
(本)
小松和彦 責任編集 『怪異の民俗学4 鬼』河出書房新社 2000年
福田晃 『諏訪信仰の中世 神話・伝承・歴史』三弥井書店 2015
乾克巳『日本伝記伝説大事典』角川書店 1986年
かみゆ歴史編集部『ゼロからわかる日本神話・伝説』イースト・プレス 2019年
服部 邦夫『鬼の風土記』青弓社1989年
福井栄一『鬼・雷神・陰陽師 古典芸能でよみとく闇の世界』PHP新書 2004年
堤邦彦『京都怪談巡礼』淡交社2019年
三浦俊介『神話文学の展開-貴船神話研究序説-』思文閣出版 2019年
山北篤 監修 『東洋神名事典』 新紀元社 2002年
(HP)
戸隠神社HP https://www.togakushi-jinja.jp/about/
https://www.togakushi-jinja.jp/seiryuden/bottom/gendaigodeyomutogakushidenshou/gendaigodeyomutogakushidenshou.html#%E4%B9%9D%E9%A0%AD%E9%BE%8D%E3%81%A8%E4%BB%8F%E3%81%AE%E7%89%A9%E8%AA%9E
http://www.houkousha.com/detail-top/detail-rekishi/

これ以外にもタイプムーン作品全てを用いてそれを参考文献とした。

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