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「劇団くあとろつ~」というバンドで公演をする話

"劇団くあとろつ~"という名前のバンドをやっている。
よく「劇団作ったの?」と訊かれるが、劇団ではない。しかし名前には間違いなく劇団という文字が入っている。ややこしい事この上ない。一体誰がこんな名前をつけたのだと神経を疑いたくなる。

"劇団"とつけているのは、メンバー2人とも演劇畑の人間だからである。
ボーカル&ギターの月下葉、ボーカル&パーカッションの大川諒平。それぞれ劇団六風館と㐧2劇場という、大阪大学公認の学生劇団に籍を置いて活動してきた。
そんな2人でやるバンドだから、バンド名にはまず"劇団"とつけておこうと思った。名前には劇団とついているけれど、劇団ではないので絶対に芝居をしないと決めている。そろそろ劇団がゲシュタルト崩壊しそうなので、この話は終わりにする。

バンドをやりたいなと思ったのは大学3年のときだった。
イベント司会としての活動の中で、大阪城ジャズフェスティバルというイベントの総合司会を、ありがたいことに大学1年の頃から3年間務めさせていただいた。
関西の各大学を拠点に活動する学生ジャズバンドが一堂に会し、大阪城音楽堂の大きな舞台で演奏する。実行委員会も運営スタッフもすべてバンドの学生たちがやり、会場は年に一度のお祭りのような空気感に包まれる。別にジャズ研に入っているわけでもない自分が司会としてご一緒できたのは数奇なご縁のお陰で、もちろん思い出のない出演機会なんて無いのだけれど、正直このイベントが司会をやっていて一番楽しかった。

こういう場で生の音楽にあてられると、自分でもまた音楽をやりたくなってしまう悪い癖がある。演劇は大学に入ってからで、中学高校ではブラスバンド部で打楽器をやっていた。さらに遡ると小学生のころはバイオリンを弾いていたりと、今でこそ活動のほとんどを演劇が占めているが、自分自身のルーツを辿れば音楽のほうが根源に近いのだと思う。
そんな折、現在の相方の月下が弾き語りをやっていることを知って「演劇人のコミュニティで突然バンドを立ち上げたら面白いんじゃないか?」と良からぬ思考がはたらき、一緒にライブしませんかと誘うことになる。ちなみに"くあとろつ~"というのは、その最初のライブを開催した時点で、2人とも222ヶ月だったことに由来する。

阪大生の行き交う石橋商店街にあるベーカリー「タローパン」さんの閉店後の店内をお借りし、ライブを開催した。

そんな劇団くあとろつ~で、小劇場を使ってライブをする。またしても名前のせいでますますややこしいが、演劇をするわけではない。あくまでバンドのライブ、だけどライブハウスでは出来ないライブをやろうと思っている。舞台美術を建て、照明を灯して、役者も呼んで、歌を歌って楽器を弾く。つまりは「限りなく演劇的な演出アプローチでバンドのライブを構築する」ということをやろうとしている。

なんてことを言ってはいるが、そもそも私は演出というものを経験したことはない。そしてこのライブのために脚本を書きおろしたが(ライブの脚本って何だ?)、やはり脚本というものも今まで書いたことがない。脚本も演出も、そして主宰として公演を打つのも、自分にとっては初めての試みになる。それでも作りたいと思う。このライブを作ることが、自分自身を救うことになるんじゃないかという気がしている。

6年間演劇というものに取り組んできた。ブラスバンド部員として過ごした時間の長さはとっくに超えていた。自分より上手いなぁと思う人たちにたくさん出会って、その度にもっと頑張らなければと気を引き締められた。でも同時に、上手くできない現実と向き合うたび、心の裏側で「別に自分がやらなくてもいいんじゃないか?」と自問自答を起こす。良い作品を届けたい。でも作品を良くする最適解は、自分じゃない誰かに席を空け渡すことではないか。それが作品のためなんじゃないか。
芝居をすること自体は楽しい。でも、そもそも自分は舞台に立つに値する人間なんだろうかという疑念が、いつも隅のほうに転がっていて、見ないふりをしたり、時折拾ってじっと見つめたり、そういうことを6年間繰り返してきた。

けれど、あのとき大阪城ジャズフェスティバルの舞台に立っていた学生たちは、"舞台に立つに値するから"そこにいたのだろうか。司会者として来ていることを忘れてしまうほど、心から演奏を楽しませてもらっていたのは、彼らの音楽が"舞台に載せるに値するから"だっただろうか。
もちろん彼らの演奏が本当に素晴らしいものだったことは名誉のための大前提として、本質はその「クオリティの高さ」にあったわけではないような気がする。大学生活という何にでもなれる時間で、音楽を高めることを選び、仲間とともに一つの舞台を目指して取り組む。その時間の中で育まれた感情や、積み重なった思い出が、楽曲の形を借りて熱量として飛び出していく。熱を帯びた音楽は室内でゆったり聴くにはもったいなくて、あの野外ステージだからこそ輝くのだと思う。そしてその熱が心を突き動かしてくるから、私は彼らの演奏が大好きで、自分自身もまた音楽に触れたいと思わされた。

思い返せば、演劇にもそういうものを求めて観に行っていたはずなのだ。

人より秀でているかとか、誰かに認めてもらえるかとか、階段を上るにはそういう目線も大切だけど、でもきっとそこより前に「作りたい、作らずにはいられない」という衝動があったはずで、その衝動は世界にたった一つその人にしか生み出せなくて、ともするとその人の命を繋ぐただ一つの糸かもしれなくて、だったら私は誰にもその衝動を諦めてほしくないと思う。いびつでも実力不足でもいいと思う。そういう不揃いな、不格好なものに自分も何度も救われてきているから。そして自分自身がいびつで不格好であることも、認めていきたいと思う。

多分、そういうことを考えながら作っています。

劇団くあとろつ~ ラストライブ
『名前のない今日の色の話をしよう』
脚本・演出 大川諒平

〈出演〉
月下葉
大川諒平
(以上、劇団くあとろつ~)

小山栄華(アナグマの脱却座)
発芽米しまきらら
小倉まこと(さんぱうろ企画)

声の出演
後藤みゆ(㐧2劇場)

〈スタッフ〉
舞台監督 村田瞳子(白いたんぽぽ)
舞台美術 タデ屋舞台美術
音響 芦屋まゆ・倉智一泰
照明 長野孝昭
宣伝美術 大川諒平
衣装 清水春香(MEHEM Lab./Thenon works)
振付 ベル
制作 永澤萌絵

〈上演日時〉
2023年2月18日(土)12:00~/15:30~
※受付開始は開演45分前、開場は開演30分前、上演時間は約75分を予定しております。

〈会場〉
表現者工房
〒544-0025大阪市生野区生野東2丁目1-27 寺田町延三ビル

〈料金〉
前売2,000円 当日2,500円
高校生以下無料(学生証をご提示ください)

〈ご予約〉
カルテット・オンライン

〈お問い合わせ〉
[TEL] 090-7978-3762(オオカワ)
[Mail] gekidan2222@gmail.com
[Twitter] @gekidan2222

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