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「学生のための半日で演劇のチラシをつくるワークショップ」をやった話

人生で初めてワークショップというものを企画した。
演劇の中で、チラシやチケットなど広報に関わるものの製作を請け負う仕事を「宣伝美術」と言う。大学のサークルなどを主体とするいわゆる学生演劇に携わる方々を対象に、宣伝美術のワークショップを開催した。

タイトル「学生のための半日で演劇のチラシをつくるワークショップ」
開催日 2022年9月22日(木)
会場 箕面市立西南生涯学習センター
対象  演劇の宣伝美術をやっている、または興味のある大学生の方
参加費 無料

大川諒平(㐧2劇場)
ファシリテーター。役者や宣伝美術をやっている。気がついたらワークショップを企画していた。
今楽しみなのは再来月発売のポケットモンスターシリーズ最新作。
山口良太(slowcamp)
インストラクター。関西小劇場を中心にデザイン、アートディレクションの仕事をしている。
5歳の息子とのツイートが万バズして夕方の情報バラエティ番組で取り上げられたことがある。
早川夢(賞味期限切れの少女)
ゲスト。脚本家・演出家。愛知県出身。大阪大学経済学部卒業。
居酒屋のドリンク一口目をこぼさずに飲むことができない。

ワークショップの様子

13:00 開始

集まった12名の参加者たち。3人でチームになってテーブルに座る。
定刻になったので大川、山口、早川、そして参加者一人ずつと簡単な挨拶を回していくが、各テーブルどことなく緊張している様子。
今回は大学や所属劇団が極力被らないよう、こちらで予めチームを決定させていただいた。どのチームもお互い初めましてで、はいどうぞで打ち解けるというのは難しい。
そこで導入として、各テーブルごとに自分たちのチーム名を考えてもらうことにした。まずはチーム内で、一分間でできるだけ自分のことを広く紹介する。お互いを構成する要素を知る中で自分との共通点を探し、3人全員に共通する事柄からチーム名を決めてもらった。

「チーム民法」。まさかの全員が法学部という偶然の一致から名付けられた。
チーム刑事訴訟法とかにならなくてちょっと安心した。
「チーム点心」。全員中華料理が好きらしい。
"点心"とは中国語で軽食を表す言葉。ちなみに筆者は未だ551の豚まんを食べたことがない。
「チーム宇宙」。全員BUMP OF CHICKENが好きだったが、チームBUMPではあまりにも威圧感があるということで、星や月がよく歌詞に登場することから宇宙になった。
「チーム猫派」。どう頑張ってもまったく共通点が見つからず、ダメ元で犬派か猫派か訊いてみたところ全員猫派と答えたのでこの名前になった、とのこと。猫はかわいいのでOK。

13:30 デモンストレーション

心なしか会話の中に笑顔も見えてきたところで、いよいよワークショップの本題に入っていく。
今回の目的はタイトルのとおり「半日で演劇のチラシをつくる」こと。
参加者は共通の課題演目に対してどのようなチラシにしたいかを考えてもらい、各チームで一つずつデザインのラフスケッチを描き起こす、というのが今回のゴールだ。
ところで「良いチラシ」とは何だろうか?
色のバランスの法則や文字を配置するコツなど、チラシを洗練させるのに使える知識や技術は多岐に渡る。それとは別に、こと演劇のチラシとしては、演出家の創造したい世界を如何にビジュアルとして落とし込むか、ということが、表現を担うチームの一員として大切になってくると言えるだろう。
このワークショップで扱う核の部分はそこにある。
まずはプロのグラフィックデザイナー、山口良太さんが、ゲスト・早川夢さん主宰の団体「賞味期限切れの少女」の公演のチラシを作ることになった、というテイで、参加者の前で模擬打ち合わせをやってもらう。

デモンストレーションに入る前に、過去に担当したチラシのアプローチについて解説する山口さん。プロの考え方を直接聞く、というのは参加者にとって珍しい機会かもしれない。

今回のワークショップでは、自死(自殺)を扱う戯曲が登場します。
戯曲の作者及び本ワークショップ主催者にそれらの行為を推奨する意図はありませんが、作品の特性上、本記事にはナイーブな表現が登場することがあります。ご了承ください。

『I』
登場人物は幼馴染の三人、あいちゃんとみーくんとゆうちゃん。主な舞台は、かつて神社だった名残で鳥居だけ残っている賽銭岬。賽銭箱が無い代わりに海に向かってお賽銭を投げるのが習慣となっている。物語は、あいちゃんが賽銭岬から飛び降り自殺したことから始まる。残された二人は、あいちゃんとの思い出を振り返りながらあいちゃんが死んだ理由について考える1年を過ごすが、最終的にわからなくてもいいじゃないかと、あいちゃんがいないことを真に受け入れ、前に進んでいく。

まず初めに、早川さんは「I」のあらすじや設定を山口さんに説明する。作中で、登場人物の「あいちゃん」が海に身投げをすること、また、この戯曲を含め、早川さんはこれまでに「自死(自殺)」を切り口に創作をしてきたことに山口さんは着目。作品について深掘りする前に、早川さんの創作にとってキーとなる「自死」についての考え方、価値観を対話を通して紐解いていく。
自ら命を絶つというのは、その周囲の人にとても大きな影響を与えざるをえない出来事。でも、本人には本人なりの意志や感情の積み重ね、あるいは譲れない美学があったはずで、自死を「いけないこと」と頭ごなしに決めつけてしまうことで、そういう胸の内に寄り添わないのはどうなんだ? という、早川さんが作・演出家として大切にしていることが対話によって明らかになってきた。
作品、そして早川さん自身に対する30分ほどのヒアリングを経て、いよいよそれをどう一枚のビジュアルに落とし込むかの話になってくる。最初に山口さんが提案したのは、崖から身を投げるあいちゃんの姿を反転してみよう、というもの。上下さかさまにすることで、まるで空へ向かって飛びあがっていくような構図になる。祈りをその身に託して身を投げる心は必ずしも不幸なものではないはずだ、という早川さんの脚本意図が反映されたアイデアに、早川さんは「いいですね!」と好感触。
ただ、「アイデアはいいんだけど、人間の姿を入れると直接的すぎる。あいちゃんの姿を他のモチーフに置き換えられないか。戯曲の中に登場する重要なモノや出来事はありませんか?」と尋ねる山口さん。そこで、作中に「賽銭岬」という場所が登場すること、お参りに使われる5円玉が重要なモノとして登場することから、「祈りながら身を投げるあいちゃん」を「5円玉を投げる動作」に置き換えたビジュアルにできないか、という話に。
本物の5円玉では少し野暮ったい印象が強まる、本物よりも「穴の空いたコイン状の物体」のほうがいいのでは、と山口さん。さらに発想が刺激された早川さんから「透明な5円玉だったらどうでしょう?」と発言があり、ガラスでできた5円玉や、氷でできた5円玉だったら、美しさと儚さが表現できるのでは、とアイデアが次々と出る。あいちゃんはピカピカの5円玉が好き、まっしろな雪景色が好きという作品の設定もふまえて、まっしろな背景の世界で、白い女性の手から投げられた透明な5円玉が光を反射して放つ、というビジュアルのアイデアが完成した。

ものを投げる表現を紙面でどう見せる? ということについて話す山口さん。
後方のホワイトボードには実際の↑のアイデアも。
デモンストレーションで使用されたホワイトボード。
作品の要素、時系列、人物関係など、デザイン案の下地となる事柄が書き残されている。

14:50 ヒアリング

プロの打ち合わせを見学したところで、いよいよ参加者自身が取り組む番になる。先ほどと同様の打ち合わせを、今度は早川さん対参加者全員、という構図で行ってもらう。
今回早川さんには、山口さんとの模擬打ち合わせ用とは別に、参加者の皆さんに提供する課題用の作品を用意してもらった。

『金魚』
登場人物は幼馴染で仲良しの女子高生二人、さーちゃんとあすか。舞台は二人の地元にある日本一汚い海の浜辺。いつものように二人がたわいの無い話をしている中、さーちゃんが言葉に表し難い苦しさを抱え、自殺することを決意したことがわかる。さーちゃんが大好きなあすかはなんとしても止めたいと思うが、最終的にさーちゃんの決意を尊重したいと思い、海に向かって進んでいくさーちゃんをじっと見守ることを決めた。

先ほどの脚本と同じく「自死」が核になった作品。ワークショップに来て向き合う題材としては少し重たいか……? と一瞬懸念したが、デモンストレーションを経て山口さんのアプローチ方法、そして早川さんの「ネガティブなものと固定されたくない」気持ちが参加者にも伝わったのか、ほとんど沈黙の時間もなく、次々に質問の手が挙がる。
「さーちゃんが海に入っていった日の天気は?」「あすかはどんな様子で見送っている?」「さーちゃんにとって死ぬことはポジティブなもの? それとも現実の何かへの諦め?」と、より作品のディティール、そしてそこに含まれる早川さんの目線を掴もうとする姿が見られた。

右から左から質問が飛んでくるので早川さんはなかなか大変。
参加者たちもそれぞれ話を聞きながら、積極的にメモをとってくれている。

15:20 デザイン案作成

まだまだ質問の続くところではあったが、30分経ったところで一度切り上げ。ここからはチームに分かれてチラシのアイデアを考えていく。
宣伝美術は演出と打ち合わせをすることはあっても、実際に作業をする段階では一人でデザインを仕上げていく場合が多い。チームでアイデアをまとめていくこと自体が、参加者にとっては新鮮だったようだ。テーブルごとに進め方はさまざま。途中山口さんが各チームを回り、それぞれの提案や迷っていることに耳を傾ける。早川さんも参加者からの追加質問に積極的に答えていた。

チーム民法。お互いに話をしながら、まずは個人で案をまとめていく方向のよう。
それぞれのノートにはヒアリングで聞き出した内容がびっしりだ。

16:25 発表会

どのチームも議論が白熱し、ちょっと作業時間を延長してなんとかラフスケッチが完成。
B3の大きな画用紙に最終案を描き起こし、それぞれのデザインコンセプトを紹介してもらった。

チーム宇宙。4チームの中で唯一「画用紙を切る」トリックプレーを見せてくれた。
「日本一汚いはずの海が、さーちゃんが進んでいくことで綺麗に見えた」というクライマックスの情景を、正方形のキャンパスと、海の中から青空を覗くアングルで逆転的に表現している。
チーム猫派。割れたガラス瓶の中には濁った水、そこに半分だけ垂れかかるスカーフが、生と死の狭間に立つさーちゃんの存在と、それぞれに対する解釈を映し出している。
題字からスカーフまでの一連で、なだらかな曲線を構成しているのも印象的だ。
チーム点心。金魚とスカーフの赤から淀んだ海の底までを、布を使って多層的に表現していく。
水を布で表現する手法自体が非常に演劇的であり、さらに画面全体を一つの素材で構成することで、チラシの持つ表情がより強固なものになる。
チーム民法。海を描いたチームは複数あったが、すべてアングルが異なっていたのが面白い。
このチームは真上から切り取ることで、海の前にある「砂浜」を効果的に活用。
残された足跡と漂うスカーフが物語後の余韻を演出しており、観劇後に見返すのも良さそう。

全チームの発表を終え、早川さん、山口さんそれぞれから講評を貰ってワークショップは終了となった。自身の脚本に様々なアプローチからビジュアルが描き起こされていく様子は、早川さん自身にとっても良い刺激になったようだ。山口さんも参加者の皆さんと対話すること、そして各デザイン案に込められた着眼点を拾い上げることを誰よりも楽しんでいた。

なぜ企画したのか

ここからは完全に無駄話のコーナーなので、大川の奇行に興味がある方以外は最後の早川さん、山口さんのコメントまでスクロールしていただきたい。

なぜ企画したのか、というか、そもそも最初からワークショップにしようと思っていたわけではなかった。
今年のはじめ、山口さんが開催している「音楽と演劇の年賀状展」に友人と顔を出した私は、山口さんに「相談会またやる予定とかないんですか?」と尋ねた。
相談会とは、3年前に開催されていた「宣伝美術相談会」のこと。大阪市立芸術創造館のロビーに建てられたブースで、山口さんが宣伝美術に関するお悩みを聞くという企画だった。開催当日の朝Twitterでそれを見つけた大学生の私は「なんか今日ヒマだし行ってみるか」と思い、過去に作ったチラシを引っ張り出してバスに乗り込んだ。

2019年の「宣伝美術相談会」のブース。一面黄色い即席の部屋は施設の外からでも目につく。
ちなみに机上のビアードパパはセットの一部である。筆者はビアードパパも食べたことがない。

この黄色い部屋で自身のチラシを添削してもらったのが山口さんとの初めての出会いになった。以降お仕事のお手伝いに呼んでいただいたり、相談に乗っていただいたり、なぜか神戸でこの部屋を一緒に組み立てたりとご縁が続いている。

同時に自分の劇団にも宣伝美術をやりたいという後輩が増えてきて、これまでプレイヤーに専念していた私も、そろそろ後進の育成というものを考えなければと思うようになった。私のいる㐧2劇場という劇団はいわば「引退のない学生劇団」で、下は18歳から上は60代まで在籍している。大学を卒業しても活動は続けられるが、とはいえ生活は変わっていくわけで、いつまでも団体の広報物すべてに関われるわけではない。新しい団員たちがうちを創作の拠点に選んでくれる限り、彼らの作品が宣伝美術で「損をする」ことがあってほしくはないし、そうならないようにするのは自分の責任だと思う。

ということで先ほどの「相談会またやる予定とかないんですか?」という質問が出たのだ。自分が山口さんに見てもらえて新しい気付きを得られたのと同様、後輩たちにも自分のチラシをプロに見てもらう経験をさせてあげたいし、そもそもアマチュアの私が何やかんや言うよりプロのアドバイスを貰えるほうが絶対に良い。
しかしながら、前回の相談会を踏まえ「やるならもっと人が来やすい環境にしたい」という山口さんの本音もあった。「お悩み聞きます、いつでも来てね」という形態は確かにこちらの好きな時間で好きなことを訊けるメリットはあるが、それで見ず知らずの人のところへ「よしじゃあこれを相談しに行ってみるか」とはなりにくいらしい。私は旅先で知らない現地の人と喋るのが趣味だと知人に話したら「コミュ狂(コミュニケーション狂人)」呼ばわりされた人間なのでよく分からない。
「それならワークショップ的に、こちらで扱う事を決めちゃったほうがいいんじゃないですか?」と私がふと口に出してしまったのが今回の発端だった。そこからは「山口さんとだけでなく参加者どうしの交流にもなればいい」→「ターゲットを絞ったほうが逆に参加のハードルも下がって交流も進みやすい」→「いちど特定の大学に的を絞って、そこの劇団と連携をとることで参加者の数を確保したい」と、2人で話していくうちにアイデアが加速して今回の形になった。と、記憶している。

ではワークショップをするならどんなことを扱うのか。山口さんは「宣伝美術の仕事の醍醐味は打ち合わせの時間にある」と言う。公演の作家、演出家と会って話す。今回の芝居はどんな物語なのか、どんなきっかけから生まれたストーリーなのか、観客に届けるときにいちばん大切にしたいポイントは何か。脚本や実際の上演そのものでも明言されることのなかったりするその作品の「コア」を、会話の中で探し出していく。それを見つけたとき、作り手とデザイナーは広い作品世界の中の一点で邂逅し、その点を中心に作品を支えるビジュアルが形を持って現れる。パソコンで描き起こしていく前のこの段階が、実は宣伝美術にとってもっとも大切だからこそ、ワークショップでそこを取り出してやってみようという話になった。

宣伝美術とは

今回SNSというか、Twitterでの反響が想像していた数倍以上に大きくて普通にびっくりした。多くの方にイベントを知っていただけたのは偏に山口さんの影響力の大きさに拠るところではあるが、特に近畿地方以外の大学に通う学生さんからの申し込みが複数あったのは、正直まったく想定していなかった。「庭で良い茶葉が穫れたからご近所でお茶会しませんか?」くらいのテンションだったのが、気づいたら町内中から人が集まってきたような感覚だ(本当か?)。
しかし実際に遠方から訪れてくれた参加者の方たちと話してみると、共通して「自分の周りでは宣伝美術のワークショップはやっていない」から行ってみたくても機会がない、だからわざわざ大阪まで足を運んでくれたという話を聞くことができた。

個人的な持論だが、宣伝美術というのは演劇作品の「顔」をつくる仕事だと思っている。演劇というのは絵画やフィギュアなどと違って、それ自体は形を持たないコンテンツである。映画やアニメ、小説のように、それを本来の姿のまま資料として保存することもできない(記録映像やディスク化などはちょっと違う話だと考えている)。どこにも置いておくことはできないが、しかし確かにその時間その場所には存在していたもの。それを記録に残しておきたいとき、あるいは誰かの思い出として部屋に保管されるとき、その作品が唯一無二のものだったと、変わることのない確かなビジュアルで証明してあげられるのは、宣伝美術にしかできないことだと思っている。
これは商業演劇だけでなく、アマチュアの学生演劇であっても同じこと。寧ろ文化全体で見ればアマチュアの土壌こそ豊かであるべき、という話は往々にして耳にする。しかしながら、学生演劇の宣伝美術では、その根幹を担うマインドが多くの環境であまり継承されていない、そもそも宣伝美術の全体人口が少ないという問題点が各地で見られているようなのだ。

私たちは普段普通に生きていて芝居をするということはほとんどない。キャラクターの造形を自分自身に落とし込み、自らの感情を操作して物語を表現する、というのはまず日常で行うことのない特殊技能である。しかし特別な資格がなくても身体ひとつで誰でも始められるのが役者の面白いところで、だからこそ演技のレッスンや俳優のためのワークショップは多くの場所に需要があり、供給もある。また演劇をするには会場を異世界へと導いてくれる照明が不可欠だ。これも一般家庭で暮らしていたら機材について詳しくなった、などということは想像し難い。演劇の世界に入って初めて触るものだからこそ、多くの劇団で講習会が開かれ、その使用方法についてきちんと学ぶ必要がある。
ところが「宣伝美術」になると、まず専用の機材というものがない。多くの方はパソコンで作られるだろうが、別に全面手書きのチラシでも情報が分かるなら体は成す。加えて宣伝美術の仕事は前述のように個人作業であることがほとんどだ。入れ替わりが避けられない学生劇団では、共有のパソコンやソフトを持てればよいが、そこまで余裕のない団体だと劇団全体で使う機材等に予算が優先され、チラシづくりにおいては担当者の個人環境に頼る側面が大きくなる。したがって宣伝美術のテクニカルは個人が持ってきたものに由来され「たまたま劇団にいた絵が描ける人」が、誰にも教えてもらえないまま一人で見よう見まねで作っている、ようなシチュエーションが頻発する。当然それに先立つマインドを教えてくれる人もいない。複数人いたとしても、共通の技術がないからお互いがどう作っているか実はよく知らない、ノウハウの共有もできないという事態はザラにある。学生たちが怠っているのでは決してない。そもそもの構造が彼らの孤立を生んでいるのではないか。県や地方を跨いででも大阪のワークショップに足を運んでくれた参加者たちの存在はとても嬉しかったが、同時に「東京にもワークショップがなくて……」と言われたことは、少し寂しい気もした。

これから

成り行きで開催することになった宣伝美術のためのワークショップだが、終わってみると想像していた以上に需要があったのだなぁと、振り返って思う。自分の企画がよかったんだとかの思い上がりではなく、宣伝美術について誰かから学ぶ場を、みんな欲していたんだということに気づかされた。
今回の内容についても反省やブラッシュアップは必要だし、もっとテクニカルな切り口から企画したり、プロになるには? ということに重点を置いたりと、それ以外にも多様なやり方はあるのかもしれないと思う。だがまずは、「そもそも宣伝美術とは?」という根幹について、自分も含め、演劇の宣伝美術に関わる者どうしで対話する時間を設けられたことが、本当によかったと感じている。
もちろん自分ひとりで出来るわけではないが、これからも山口さんはじめ、様々な方と協力しながら宣伝美術が繋がれる場を作っていきたい。もしこれを見て、同様のワークショップを開催してほしいとか、宣伝美術に関わるこんなイベントが実現してほしいとか思う方がいらっしゃれば、ぜひお手伝いさせていただくので、ご連絡をいただければと思っている。

早川夢さん コメント
今回大川さんにゲストのお話を頂いて、正直はじめは何をするんだろうとふわふわした気持ちで参加したのですが、結果誰よりも楽しんでいたのではないかと思っています。
まず山口さんとの打ち合わせ。山口さんの、脚本のイメージを共有するのに必要な質問をし、私の断片的な話を適切に言語化する能力の高さに助けていただきました。とにかくこの時間が本当に楽しくて、自分の作品について改めてより深く考える機会となりました。打ち合わせの末、公演時のチラシとはまた違った魅力を持つ素敵なデザイン案を生み出してくれました!
また、参加者の方々それぞれが積極的に脚本に対する質問をたくさん投げかけてくださり、その甲斐あってどのチームも素敵なデザイン案が生みだしていました! 同じ話からこれだけ異なるデザインが出来るのかという面白さもあり、誰よりも私のテンションが高くなっていたのではないかと思います。
自分の脚本についてこれだけ多くの人に考えてもらえることは中々無いことなので、本当にとても贅沢な時間でした!
ゲストとして参加できて良かったです! 山口さん、参加者の皆さん、そして企画の立案者である大川さん、ありがとうございました!

山口良太さん コメント
「こんなにたくさんのことを演出家から聞き出すんですね」という感想を参加者のみなさんからいただきました。そうなんです。作品のことはもちろん、カンパニーとしてのビジョン、演出家の価値観や趣味・趣向など、演劇のチラシの打ち合わせで確認することは山ほどあります。今回は時間が限られていたので、超特急でヒアリングをし、アイデアを出し、ラフを描いてデザインの方向性を決定する60分一本勝負。さすがにヘトヘトになりますが、僕が一方的にアイデアを押し付けるのではなく、相手とお互いにアイデアを出し合うからこそ、誰も思いえがいていなかったビジュアルにたどりつくし、そこにおもしろさがあります。演劇はコミュニケーションとはよく言いますが、宣伝美術もコミュニケーションが重要です。
今回のワークショップに参加してくださったみなさんは、全員とてもモチベーションが高く、グループワークも白熱した様子でした。学生劇団の宣伝美術担当者がチラシを作るのは一人きりの作業が多いので、グループでひとつのアイデアにまとめることに戸惑った方もいるかもしれません。対等な目線でアイデアを出し合う共同作業もコミュニケーションの一環と捉え、この経験を今後の宣伝美術に活かしてもらえると嬉しいです。
あー楽しかった。またやりたいです!


(写真撮影:康富悠嗣)

ちなみに今回のワークショップ、実施費用を自腹でやってると方々で話したら、まぁまぁな数の大人にちゃんとお金をとれと怒られました。
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