静かで、騒いでいる

僕の秋は死だ。
寒くなると、まず僕の足先が嫌な汗を描き始めるんだ。
そのうちに手の指先にまでその悪寒が鐘の音みたく重くジンワリと伝わる。

僕はその種の寒さがすごく苦手で、だから水とガスと電気をふんだんに使って、暖かいお風呂を沸かす。

お風呂に入る為に僕は服を全部脱がなければいけない。それはもしかしたら服を脱ぐ為にお風呂に入るのかも知れないけど、そこで暖かさとは全く違う何か心をほぐすものを風呂場の姿見に見つけられる気がする。

自分のペニスを強く握って、僕の体の奥底にメラメラと燃える提灯の焔の温度を掌全体を逆立てて静かに感じ取る。

とてもそっけなくていつも未読スルーするし、とても意地悪でその気もないのに僕を誘惑する、でもどこか優しさがあるから僕のことを考えてくれている。そんな不思議な秋の空気は、僕がいつも何を求めているのか、僕がなぜ夜中に家を抜け出して欠落部を埋める作業を繰り返すのか。その答えをそれとなく教えてくれている気がする。

僕は他人の焔が欲しい。

暗くなった部屋の中はより焔のゆらめきを目立たせる。僕は四つ足で木の床を這いずり回って、人間の油脂でできたバターを夜な夜な齧り、舌の上のほのかな暖かさでそれを元の油脂に戻す。

僕は君に齧り付いて、君を叫ばせて、君をとろとろの泥に昇華させてやりたい。

僕に必要なものは言葉だ。そして自分の放った言葉に道筋を決めてもらって、君を溶かしに行く。

秋の日の外は寒い。僕はそれ味馴染むために、一時僕の心の気温も下げなければいけない。燃えたぎる心の焔を少しの間、体全体に薄く広げる。そのうちに焔は、僕は生きるために、生きるための然るべき慣習を遂行させなければいけない。

言葉を拾って何者かになり、その何者として、生きるために君の焔に虫の如く飛び込んでいこう。
そのさきで「冷えた体」を、君の熱を奪うことで「少し冷えている」程度にまでは和らげられるだろう。

今は僕にとって君が必要だ。でもそのうちに君がもし僕のことを必要とするなら、それはその時に考えてみよう。


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