磁石の魔法

普段の僕らには影があって、いつもの僕らなら声をもっている。
常に彼らは僕らに付き従ってくれるし、いつも彼らは僕に確信を賦与する。

でもこの頃、四肢の間隙から、川が流れていくみたいに、当たり前のように「持っていたもの」らが失われていく気がするんだ。だからこそ失いつつある僕らはまだ持ってるものを失うまいと、まだ持っているものと太く、強い関係を築こうとする。鳥の番が同じ相手をいつまでも保持し続けるみたいに、たとえ空気から一切の味が消えようが、しょせん僕らのできることと言ったらたまに憎い笑顔を取り繕う父親のように、彼らを抱き込むことだけだろう。

そしてこの頃、ある磁石の魔法が溶けつつある。それは僕らが彼らにあまりに話すことを拒絶しているからだろう。でも、もちろんわざと無視するわけではないんだ。ただ何も話さないでいるほうが世間に普及する、砂糖の結晶を損ねることがないように感じるんだ。そう、感じるんだ。僕らさえも今まで一度も見たことのないその粒は何よりも神聖で、僕らに生きようと思わせてくれる。だからこのままでもいいかなって考え始めるんだ。


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