天からの試練

 最近の私はどうかしていた。いや、これが平常運転なのかもしれないが。すごく気分が落ち込んでいた。休日も遅くまで起きられない。どうにかしなければ、と焦り始めていた時にふと部屋に置いてある物が目にとまった。

私には乗り越えるべき試練が残っていたのだ。

 それは友人が誕生日プレゼントとしてくれた物だ。その友人は「それを使ってこそ見えてくる景色があるはずだ。その後に感想を聞かせてくれ」と言葉を残してその日は去っていった。カバンの中に残ったモノは、落ち込んで立ち止まっている私に対しての試練としてくれたモノであった。

私はそれを神から与えられた試練の意を込めて「天牙」と呼ぶ事にした。

 正直言うと試練は大小3個ずつの計6個与えられていたのだが、小の一つは難なくクリアしていた。落ち込んでいようが、身体が疲れていようがランニングと筋トレ、自分を慰める事を欠かさない私にとっては楽勝であった。気分は最悪だったが、今回は何故か大きい試練に挑んでみようという気になった。

 朝のランニングと筋トレを終えた午前10時過ぎ、試練に挑む準備を始めた。タブレット型端末を準備し、部屋のドアとカーテンを閉めた。そして試練を手に取った。

いや「天牙」を
 
 薄々気が付いていたがそれは大試練のうちのさらにハードモードの言わば「上の上レベル」であった。気分は落ち込んでいても身体は元気である自信はあった。逆にいうとそこしか誇れるものが無い。今回の試練も楽勝であろうと高をくくっていた。
 準備運動の段階で色々と試したが、今回タブレット型端末に表示するモノは静止画とする事にした。今の体調や精神状態と相性が良さそうであった。身体も温まり血流が頂点に達した所で試練である天牙に突撃した。先陣をきった部隊は難なく侵入に成功、作戦が上手くいったことに快感を感じた。しかし4分の1、いや5分の1程度侵入した所で動きが止まった。相手の圧が強過ぎてこれ以上侵入できないのだ。いやそんなはずは無いと思い、気合いを入れて5分の4程度押し込む事に成功したがほんのコンマ数秒で5分の1程度まで押し戻される。また行っても押し戻される。そもそも根本から力負けしている。
これを5回程繰り返しただろうか。今の私では攻略できないんだと悟った。
 せめてもの意地で5分の1程度侵入した場所で抵抗をし続け勝ち誇った様に大砲を発射した。もちろん奥の本陣には届いていないであろうが。

 コンフォートゾーンという自分が快適に思う場所から踏み出さないと成長は出来ないらしい。私は今回「天牙」という試練に対してコンフォートゾーンを突破できなかった。新たな景色も見えなかった。気分は晴れなかった。
しかし、まだ挑戦できる機会が残っている事だけが希望に思えた。
  

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